【写真_左:置戸阿寒線】 | |||||||||||||||||||||||||
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1.大規模林道とは
大規模林道は,独立行政法人の緑資源機構(旧森林開発公団)が1973年から全国7ヶ所の森林地帯で建設を進めている幹線林道です.林道という名称がついているものの2車線の完全舗装された立派な道路で,人目にふれない山奥で建設が進められています.
北海道では「滝雄・厚和線」(約66km),「置戸・阿寒線」(約71km),「平取・えりも線」(約66km)の3つの路線が建設されています.工事の進捗率は「滝雄・厚和線」が82%ですが,難所で工事費がかさむ長大な橋梁とトンネルが残されています.「置戸・阿寒線」は14%,「平取・えりも線」28%の進捗率となっています.
林野庁は財政難から着工区間の再評価を行なうために「大規模林道事業再評価委員会」(期中委員会)を,新規着工区間の検討を行なうために「大規模林道事業の整備のあり方検討委員会」を立ち上げて検討を進めてきました.しかし「平取・えりも線」の芽生−旭間7.6kmの取りやめ,「置戸・阿寒線」の置戸町側の一部を既存道で代替,両路線で一部の区間の道幅を7mから5mに狭めるなど,一部の変更がなされたにすぎません.
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2.生態系を破壊する大規模林道
金属的な美しい反射光を放つメノコツチハンミョウ.歩行生昆虫で成虫にも羽根がない。 | |||
大規模林道では幅員が7メートルもある舗装道路を山中の斜面に建設するために,森林を大きく伐開し広大な法面をつくったり,コンクリートの巨大な擁壁を随所につくることになります.このために森林が大きく破壊され動植物の生息地が分断されてしまいます.たとえ希少な生物があまり生息していないようなところであっても,水源地帯であり動植物の生息地である森林を無残に破壊する道路工事なのです.
「平取・えりも線」「置戸・阿寒線」はいずれも希少動物であるナキウサギの生息地の南限と東限にあたります.ナキウサギは積み重なった岩(岩塊地)の隙間を棲みかにしている動物です.これらの地域にはナキウサギが生息できる岩塊地があちこちに分布していますが,小規模な岩塊地でも主要な繁殖地からナキウサギが分散する際の生息地として,あるいは個体数が増加したときの繁殖地として利用されます.ですからこのようなところでは生息域全体を保全する必要があります.大規模林道の建設はこのような点在する生息地を分断してしまいます.また,歩行性の昆虫や林床に生息するクモなどの小動物,マイマイなどは移動性が大変小さいために,舗装道路や広大なのり面は移動の妨げになり,生息地が分断されてしまいます.
緑資源機構の環境調査は,希少な動植物を見落としているなど,非常にずさんなものです.たとえば「様似・えりも区間」では,ナキウサギふぁんくらぶと自然保護団体がナキウサギの貯食や糞を確認している場所を見落としていたり,ナキウサギの生息可能な岩塊地の位置データが実際とは大きくずれていました.また,レッドデータブック登載種のコウモリ類(6種)やコモチミミコウモリなど多くの植物種が見落とされていました.
このように緑資源機構の環境調査は精度が低いものです.一般的能力をもった調査者なら見落としようのないものまで欠落しています
ので,これはこの地域の自然の評価を低くするための意図的操作を疑わざるを得ないものです.
ニホンザリガニ(希少種2類)の生息場所を埋めた.(置戸・阿寒線) | |||
また,2003年の秋には予定ルート近くのナキウサギ生息地の岩の隙間が,何者かによって土で埋められるという事件が起こりました.この生息地を知っていたのは,ナキウサギの貯食(岩の隙間に引き込まれた植物)を発見したナキウサギふぁんくらぶの数人と,ナキウサギふぁんくらぶから情報の提供を受けた緑資源機構の人物だけです.
このほかにも,「平取・えりも線」の予定ルート周辺には絶滅危惧種であるシマフクロウやクマタカも生息しており,このような警戒心の強い動物への影響も危惧されます.
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3.大雨で崩壊する大規模林道
北海道の3路線はいずれも非常に地質のもろいところに建設されています.このために集中豪雨や台風などによって容易に崩壊してしまいます.2003年に日高地方を襲った台風10号は,「平取・えりも線」のすでに完成していた「平取・新冠区間」に甚大な被害をもたらしました. | ||||||||||
大量の雨水と流木の流路となった沢を、大規模林道が塞いでいるため、ダムが形成され、それが決壊した.本流に流れ込み、川と海に甚大な被害をもたらした。 | ||||||||||
上部法面崩壊 38カ所 1403メートル 下部法面崩壊 18カ所 488メートル 路面損壊・障害 14カ所 1233メートル 計 70カ所 3624メートル 平取・新冠区間の50.3%が埋没・崩壊した。 (大雪と石狩の自然を守る会・十勝自然保護協会_2003年9月15日合同調査による) |
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写真左:上部法面が樹木ごと分厚く滑り落ちて、路面をふさいだ。路上に樹木が立っている。 写真上:上流から橋が流れて来て流露をふさぎ、流木が累積した。 |
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4.目的の破綻した大規模林道
大規模林道は,「林産物の搬出や造林の推進」「地域社会の生活基盤強化」「流通体系の大型化,広域化」「国土保全,水資源の涵養」などを目的に,大規模林道圏の基幹林道として35年も前の高度成長時代に計画された道路です.
しかし,その後林業政策は木材生産の縮小や廃止に向かい,大規模林道の主目的であった「林産物の搬出や造林の推進」はもはや不要になっています.基幹林道であれば,そこから森林につづく支線の林道が必要です.ところが急斜面を広大なのり面で固めたような道では,支線を取り付けることすら困難であり,現場に入れず目的を果たせないような道路になっているのです.
「流通体系の大型化,広域化」といいますが,すでに既存の林道が山奥まで網の目のようにつくられており,林産物の流通は最寄の国道や道道で十分対応できます.
「地域社会の生活基盤強化」といっても,大規模林道のルートとなっている国有林や道有林には人は住んでいません.すでに完成したところでもほとんど車の通らない道路なのです.
水源となる森林を破壊し,大雨によって災害を引き起こす大規模林道は「国土保全・水資源の涵養」とは正反対のもので,災害を招く道路と化しています.
「滝雄・厚和線」は工期が1979年〜2009年の予定で,事業費は約263億円,「平取・えりも線」は工期1983年〜2015年の予定で,事業費は約563億円,「置戸・阿寒線」は工期1994年〜2013年の予定で,事業費は約258億円となっています.
このように,大規模林道の目的はもはや完全に破綻しているにもかかわらず,森林生態系を破壊する無用の長物の道路に巨額の税金が投入されているのです.
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5.大規模林道の反対運動
北海道では2004年に道内の5つの自然保護団体によって「大規模林道問題北海道ネットワーク」が結成され,道内の大規模林道の反対運動を進めています. また,全国各地の団体によって「大規模林道問題全国ネットワーク」が組織され,連携して大規模林道問題に取り組んでいます. |
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大規模林道問題全国ネットワーク結成
「大規模林道を斬る」(2004年6月12日_日本教育会館) |
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