先般 、発注元(独)緑資源機構及び受注先各社に対し、公正取引委員会による一斉立ち入り検査が行われた。
緑資源幹線林道事業に関するコンサルタント業務入札をめぐる組織的な官製談合が繰り返されていた疑いがもたれている。
西中国山地国定公園に位置する広島県吉和の細見谷渓畔林を縦貫する緑資源幹線林道については 、日本生態学会をはじめとする様々なNGO から中止要請が繰り返し出されているにもかかわらず 、緑資源機構は環境保全措置は十分との立場から建設計画を推進している。その根拠となっているのが、このたび疑惑の検査対象となったコンサルタント会社の調査に基づく環境保全調査報告書である 。これは同報告書検討委員会での審議においても物議をかもした内容を含んでおり 、5名の検討委員中2 名が「調査不足を理由に検討不能」との異例の意見書を付したものである 。
たとえば報告書に記載された植物リストとNGO が独自に行った植物相調査の結果(両調査とも約600 種を記載)を比較してみると 、記載種の一致率は60%程度に留まっている 。機構側(コンサルタント)の調査結果には 、ラン科植物をはじめとした多くの希少種 ・貴重種が欠落しているなど 、意図的とも思える内容となっている 。
また 、 「絶滅の恐れのある個体群 」として環境省のレッドデータブックに記載されているツキノワグマに関しても実態調査がなされていない 。この点に関しては現地調査を行っている研究者 ・NGO の参考人招致を求める要望に対しても機構側は応えることもなく 、業務を請け負うコンサルタントが形ばかりの聞き取りを行っただけで 、議論に欠かすことのできないデータを提出することはなかった 。こうした調査不足は 、水生昆虫 、陸産貝類 、両生は虫類などあらゆる分類群に見ることができる 。
発注側に都合のよいデータのみを提供するというこのようなずさんな調査は 、談合との深い関連を伺わせる 。細見谷における調査でのデータの欠落や不足は 、調査時期の不適切さとか不注意による単なる見落としといったレベルのものではない 。これは発注者に好都合なデータを提供するという組織的 、意図的な隠蔽工作である 。そしてそれは 、天下り人事を背景とする官製談合が生み出したものであると断ぜざるを得ない 。細見谷では 、動物 、植物の専門家による自主的な調査が行われたためにコンサルタント業者の意図的とも思える調査結果の不足、欠落が明らかになった 。しかし自主的な調査が行われていない地域では 、談合に根を発するずさんな調査によってその実態が明らかにされないまま、貴重な自然が破壊されてきた可能性も高い 。生物の多様性条約を批准したわが国において 、国家戦略となっている生物多様性の保全を無視するこうした暴挙は許されるものではない 。
本来 、科学的 、客観的であるべき影響評価調査そのものが 、信頼性を失った今 、緑資源幹線林道計画の続行を担保する根拠はくずれた。公益性をなんらもたず、なおかつ貴重な渓畔林自然を破壊するだけのこの緑資源幹線林道建設事業は、即時中止されるべきである。また、国民の信頼を裏切り 、税金の詐取にも等しい事業を本分とする緑資源機構は解体されてしかるべき機構である 。