十勝三股の自然は、いま・・・
 

十勝三股 「ふれあい自然塾」は必要か
「ふれあい自然塾」計画をめぐる環境庁と当協会の協議経過
「ふれあい自然塾」に関する環境庁長官への質問状
  十勝三股観察会(十勝自然保護協会主催)
「ふれあい自然塾の適地は糠平」(環境省長官への要望書)



       十勝三股 「ふれあい自然塾」は必要か 
十勝自然保護協会理事  松田まゆみ
momonga「ふれあい自然塾」とは
 大雪山国立公園の南東部に広がる三股 盆地は、ニペソッ山、石狩岳連邦、ピリベツ岳、西 クマネシリ岳等の山々に囲まれた、山岳景観の素晴らしい所です。三股 盆地一帯は、かつては エゾマツやトドマツの原生林が広がっていましたが、今では過度の伐採により、その面影すら ない貧相な森林になってしまいました。林業の最盛期には1,000人を越す人々が住んでいた集 落も、現在は2世帯7人が住んでいるだけです。集落跡地には、野生化したルピナスが生い 茂っているものの、少しずつ自然の姿に戻ろうとしています。  昨年の春、この集落跡地に幅広い廊下のような木道、立派なあずまや、ウッドチップを固め た歩道が出現しました。これが環境庁の手による「ふれあい自然塾」事業のはじまりでした。 このあずまやや木道は、自然愛好家だけでなくルピナスを見に来た観光客からも批判の的とさ れました。  十勝自然保護協会は、1998年からこの計画について環境庁に説明を求め、意見を述べてきま した。環境庁の説明では、集落跡地を中心とした範囲に約17億円をかけ自然体験ハウス、コテ ージ、キャンプ場、集い語らいの小屋、エゾシカ観察施設、網の目のような遊歩道、あずまや、 園地、観察デッキ等の施設を建設し、環境教育を行うというものです。一枚の地図以外何ら資 料も提示されないまま1999年度の工事計画が進められました。

三股 の自然
 三股 の本来の植生は、エゾマツ、トドマツなどの北方針葉樹林ですが、音更川に添ってはヤ ナギやハンノキ、ハルニレなどからなる河畔林が成立しています。また、集落の北には沢に添 って湿地や沼があります。この沢や沼の中には、わが国では3ヶ所しか分布のしられていな いカラフトノダイオウ(レッドリスト登載種)が生育しています。また、沼は多数のトンボの 生息地となっており、希少種であるカラフトイトトンボも確認されています。このような北方 針葉樹林、河畔林、湿地という環境が重なることにより、多様な生物が生息しているのです。 この地域には、環境庁のレッドリストに載っている植物が約10種あるほか、大雪山国立公園の 指定植物など保護すべき植物が多数確認されています。

工事をめぐる問題点
 1998年に造られた木道の北川入口付近には、エゾナミキソウ(レッドリスト登載種)の群落 がありますが、木道工事によって、この群落の一部が損傷を受けた可能性があります。  1999年度に予定されていた工事は、林道(園路兼管理車道)の整備、歩道、駐車場の建設で した。この工事が当初の予定どうり行われていれば、林道脇の希少な植物が刈り取られる可能 性がありました。沼(トンボ池)と林道が接するところでは、人為的原因により沼の水位が上 昇し、1998年から沼の水が溢れて林道上に流れていました。沼に生育していたカラフトノダイ オウは、水位の上昇により激減してしまったのです。環境庁は林道に「河床路」を造る予定でした が、水位を下げずに「河床路」を造れば、カラフトノダイオウの回復は見込めません。ま た、ウッドチップによる歩道予定地はクロミサンザシ(レッドリスト登載種)の生育地です。  このように、環境庁は希少な生物に対する配慮を全くしないまま工事をしようとしてきたの です。十勝自然保護協会では、環境庁に質問書や意見書を送付して抗議してきました。
 

検討会の設置
 自然保護団体の抗議に当惑した環境庁は1999年度の工事の着工を延期し、1999年12 月に学識経験者、地元の住民代表、地元自治体の代表等で構成する「大雪山国立公園 十勝三股 整備検討会」を設置しました。驚いたことに、ここで初めて「大雪山国立公 園十勝三股 ふれあい自然塾整備運営基本計画書」(平成11年10月15日付け)が提示さ れました。  この検討会は、1999年度は12月から3月まで4回開かれました。検討会の話し合い を踏まえた環境庁の結論は、「自然体験ハウス、宿泊施設、歩道は建設したいが、規 模等については検討する。1999年度に予定していた工事は凍結する。」というもので、 残念ながら、計画を根本的に見直すというものではありませんでした。なお、検討会 は4月以降も継続するとのことです。
 


dragonfly_tr.gif三股 はどうあるべきか
 十勝三股 を訪れたことのある人であれば、三股 の魅力がその景観 のすばらしさや静寂、生物の多様性にあることを分かっていただけ ると思います。このような魅力を台無しにしてしまう施設整備はな ぜ必要なのでしょうか。  環境庁は、三股 を自然体験、学習活動の拠点とするために施設が 必要であるといいます。地元のひがし大雪博物館や博物館友の会で は、三股 をフィールドとして自然観察やガイド養成講座、調査活動 を行っていますが、特別な施設がなくてもこのような活動を行うの になんら支障がないといっていま す。  まるで「道の駅」のような自然体験ハウスを造って多くの人々に利用してもらいたいとのこ とですが、あちこちでオーバーユースの声が聞こえる昨今です。より、自然保護に力を入れる べきではないでしょうか。  環境庁は最近小金持ちになったようで、名称を変えて国立公園のあちこちで施設整備事業を 始めました。「環境庁」であればこそ、自然や環境を守るために有効に税金を使ってもらいた いものです。
 
        
【写真左:オオモズ 2001.03.18 十勝三股】           【写真右:早春のトンボ池】

 


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