環境省の「十勝三股ふれあい自然塾事業」に対する要望書
大雪山国立公園の現状と環境省の責務
大雪山国立公園は伐採による原生林の破壊、そして盗掘や伐採に伴う希少動植物の減
少、さらに登山道の荒廃、山のトイレ問題など、様々な自然保護上の問題を抱えていま
す。このような大雪山国立公園の現状を踏まえるとき、一刻も早く自然の保護や復元に
取組み、自然保護教育を行うことが、国立公園の管理者である環境省の責務だと考えま
す。
十勝三股はふれあい自然塾の適地ではない
環境省は、十勝三股をふれあい自然塾事業の実施場所として選びましたが、私たちは、
この選定を間違いであると考えます。なぜなら十勝三股はふれあい自然塾の目的に合致
しないからです。
【ふれあい自然塾の目的:すぐれた自然を有する国立公園及び国定公園内において、滞在
しながら自然体験・学習を行うための施設の整備及び質の高い自然とのふれあい体験活動
プログラムの提供を行い、自主的・積極的な自然との共生の体験及び地域との交流を推進
することを目的とする。 (環境庁資料)】
理由は以下の通りです。
理由1. 滞在について
ふれあい自然塾の目的の一つは、 「滞在しながら」の自然とのふれあいや自然との共
生の体験をすることにあるとされています。滞在というのは、宿泊を伴うものと考える
のが常識です。この点に関して、近隣の糠平や幌加で宿泊業を営む人々からも三股での
宿泊施設の設置は、民業を圧迫すると強い反対の声があがっています。採算を度外視し
た官による宿泊施設の営業は、各地で問題になっており、閣議決定にも反することです。
したがって、本事業の目的を実現するための宿泊施設の建設は、この地域に不協和をも
たらすものであり、実施してはならないものです。このことを受け貴省は、糠平での説
明会のおりコテージの建設はできないだろうと明言しています。つまりこの事業の目的
の一つは既に実現困難ということが明らかなのです。
理由2. 地域との交流について
「地域との交流を推進する」ことも目的の一つにされていますが、2世帯しか居住し
ていない三股地区では、交流を求められる住民の負担が大きく非現実的です。
理由3. プログラムについて
「質の高い自然とのふれあい体験活動プログラムの提供」も目的としてあげられてい
烙ますが、配付資料を見ると、自然とふれあうということで、里山で行われているような
リース作りやネイチャーゲームのようなものを中心にプログラムを考えているようです。
しかし、これは十勝三股の地域特性を十分理解していないプログラム内容といわなけ
ればなりません。十勝三股一帯は、戦中からの過度の伐採により、70年ほど前まで存
在していた北方針葉樹林の原生林が面影をとどめない程に荒廃してしまったところです。
このような場所では里山と同じような自然とふれあうことを目的としたプログラムの提
供は必要ではありません。森林を再生し、自然を復元させるためのプログラムが中心に
行われるべきです。すでに十勝三股の国有林ではNGOがボランティアで本来の森林を
復元させるために活動を開始しているのです。
ふれあい自然塾の適地は糠平
貴省が意図しているふれあい自然塾事業を本当に効果的に実施するというのであれば
十勝三股から南へ20Hに位置する糠平こそが適地であると考えます。それは以下の理
由によります。
理由1. 滞在と地域との交流について
糠平は十勝三股から南へ車で20分のところにあります。200人程が生活し、最大約
1000人の宿泊能力があります。糠平は北海道観光ブームのさなかパッケージツアーの
受け入れのため宿泊規模を拡大してきましたが、近年はパッケージツアーの需要が減少
し、エコツーリズムヘと路線転換を模索していると聞き及んでいます。
このようにエコツーリズムを指向する糠平をふれあい自然塾の拠点とするなら、民間
の宿泊施設を利用し、ふれあい自然塾の目的である滞在しながら、地域の人々との交流
も効果的に実施できると考えます。
理由2. プログラムについて
糠平温泉には上出幌町立の「ひがし大雪博物館」があり、ここではビギナーを対象と
した自然観察会からベテランを対象とした調査活動まで幅広いプログラムの提供がなさ
れています。また「ひがし大雪博物館」は大雪山国立公園研究者ネットワークの事務局
を担っていると聞いています。このネットワークを利用することにより研究者と自然愛
好者との交流も期待できると考えられます。さらに民間の「ひがし大雪自然ガイドセン
ター」では主に観光客を対象に、自然ふれあいのプログラムを提供しています。ひがし
大雪博物館やひがし大雪自然ガイドセンターと連携して、ふれあい自然塾を実施するな
ら、多彩なプログラムが展開できるのではないでしょうか。
「東大雪ふれあい自然塾」 (仮称)の提案
冒頭に述べた「大雪山国立公園の現状と環境省の責務」及び、ふれあい自然塾の目的
を達成する観点から、私たちは、糠平に拠点を置き、広く大雪山国立公園の東部をエリ
アとする「東大雪ふれあい自然塾」 (「東大雪自然塾」のほうが適切だと思いますが)
の実施を提案します。
1. 事業の目的
環境の世紀と言われる21世紀は、もはや単なる自然とのふれあいではなく、自
然を
保全し復元させる実践が地球規模で求められています.そこで事業の目的を以下のよう
にします。
「本事業は,自然保護教育や環境教育を通じて自然保護や環境保全の意識を高めると
ともに,東大雪地域における様々な自然破壊の現状を把握し,自然の保護及び復元をは
かることを目的とする。」
2.事業の内容
(1)伐採により破壊された自然の復元および,それに係る調査や研究,育苗等。
(2)希少動植物の減少,登山道の荒廃,トイレ問題地球温暖化による生態系への影
響等,自然破壊の現状の把握と対策。
(3) (1)および(2)を進めるための,情報や資料の収集。
(4)一般の人や青少年を対象とした自然保護教育や環境教育(展示,学習会,観察会
等),自然の復元作業等の実施。
(5)自然保護や自然の復元のため,研究者や自然保護団体,博物館等との連携。
(6)自然保護教育,環境教育の指導者の育成。
3.職員
職員は環境省の職員とし,夏季は必要に応じてアルバイトやボランティアを募集する。
職員は,自然についての基礎知識を持ち,自然の復元や自然保護のための調査研究及び
実践ができる者を配置する。
4.事業の推進に必要な施設
施設は環境省が管理運営するものとする。
(1)中核施設
場所は糠平とし,国有林,民有地または町有地を購入する。
事務室,研究室兼資料室,集会室,トイレ(バイオトイレ),給湯室等を設ける。
駐車場は,公共の駐車場が利用できる場合は不要。
電力源はソーラーシステムなど持続的利用可能なエネルギーを利用する。
(2)分室的施設
自然の復元や保護のために現場近くに建物が必要な場合,例えば十勝三段・然別湖
畔・トムラウシ地区などに簡素な分室を設置する。
(3)職員の住宅
場所は糠平とする。
(4)その他,必要に応じ,圃場や歩道などを設ける。
付記
環境省の提案した十勝三段ふれあい自然塾事業は,その活動範囲を三段集落を中心と
した45haという範囲に限定したものであり,この地域だけで自然体験教育や自然の復
元を行うという考えは,東大雪地域の自然保護を進める上で適切な地域設定とは思えま
せん。三股地域は、むしろかつての自然(北方針葉樹林)を復元させる地域として位置
づけ、人工物の建設はできる限り避けるべきです。