2000年9月29日


環境庁長官殿 


十勝自然保護協会
会 長  安藤御史

 
大雪山国立公園十勝三股 ふれあい自然塾事業に関わる質問書

 私ども十勝自然保護協会は,十勝三股 ふれあい自然塾事業に関心を持ち、事業が開始された1998年度より環境庁西北海道地区自然保護事務所長および環境庁大雪山国立公園統括管理官に自然保護の観点より意見を述べてまいりました。間もなく今年度の工事に着手する予定のようですが、計画通りに工事が進められれば景観および自然環境が損なわれることになります。つきましては、ここに十勝三股 ふれあい自然塾事業に対する十勝自然保護協会の考えを提示しますので、貴職の見解をお答え下さるようお願い申し上げます。なお回答は10月10日までに文書にてお願いいたします。

1.計画の白紙撤回について

 私たちは十勝三股 ふれあい自然塾事業が、三股 の景観を保全し、森林の復元をはかるという基本理念のもとに適切に行われることを望んでいます。したがって森林の復元計画を立て、三股 にふさわしい自然教育、環境教育について考え、景観保全を重視した上で必要性を含め施設の検討をしていくべきであると考えています。そのために初計画を白紙にもどし、地域住民や自然保護団体の参加の上で再度計画を練り直すことを要望してきましたが、このような要望は受入れられていません。原点に立ち戻って見直さないかぎり、指摘されている様々な問題点は解決されません。なぜ白紙に戻して計画を立て直すことをしないのか、理由をお尋ねします。

2.景観の保全について

 十勝三股 は、かつては林業で栄え集落もありましたが、現在は2世帯が居住するのみで自然の姿(森林)にもどりつつあるところです。ここから望まれるニペソツ山、石狩岳連峰、ピリベツ岳、西クマネシリ岳などの山岳景観は素晴らしく、多くの愛好者を惹き付けています。十勝三股 の景観の魅力は、民家やかつての三股の面影を残す建物以外には、人工的な要素がほとんどないということです。現在では日本中いたるところに施設が建てられ、十勝三股 のようだ景観は、ほとんどなくなりつつあります。このような何にも代えがたい景観を保全することがまず優先されるべきです。自然体験ハウスや今年度工事予定の駐車場とその取り付け道路、バリアフリー対応の歩道は人工的要素が強く、十勝三股 の景観を損ねるものです。そこで十勝三股 の景観保全に対する貴職の考えをお聞かせ下さい。

3.国立公園の適切な利用について

 ふれあい自然塾事業では、できるだけ多くの人に利用してもらうことを目的とし、「道の駅」のような自然体験ハウスを計画しています。しかし、このような通りすがりの人々を対象とした施設は、本来の目的である自然の学習にはあまりつながらず、オーバーユースをまねく恐れがある上、三股 の魅力のひとつである静寂さが失われる心配があります。これらの点についてどうお考えですか。また、平成12年度9月に作成された「十勝三股 ふれあい自然塾整備計画資料」の中で様々な自然と親しむプログラムを考えていますが、景観保全、自然保護、十勝三股の自然の特性などの観点から考えると、十勝三股 では自然観察や森林の生態の学習、それに関連した環境教育などを中心に据えるべきと考えます。宿泊による体験学習やネイチャーゲーム、工作などはキャンプ場や集会施設のある糠平で十分対応できます。様々な体験学習を十勝三股で集中して行わなけてればならばい理由をお聞かせ下さい。

4.植物の調査について

 今年度の工事に当り、7月18日に工事予定地周辺の植物調査を実施していますが、レッドリスト登載種であるエゾナミキが見落とされていました。本種について、2000年2月10日に開かれました大雪山国立公園十勝三股整備検討会で、当会が参考人として述べた意見の中でも種名をあげて触れていることであり、貴庁の認識不足は明らかです。ま、植物の調査は季節ごとに何度か実施しないと全種を把握できないことは常識です。したがって再度調査をすべきです。植物調査についての貴庁の考えを回答して下さい。

5.野鳥の調査ならびに保護について

 今年度の歩道予定地には、オオジシギ(レッドリスト登載種)やノビタキなど草原性の野鳥の生息地が含まれています。これまでほとんど人が通らなかった所に歩道をつけ通行人が増えると、これらの野鳥の繁殖に影響を与える恐れがあります。したがって、野鳥の生息調査を行い(2年から3年は必要と考えます)、影響を与えないように考慮する必要があると考えます。このことについての見解を明らかにして下さい。

6.バリアフリー対応について

 バリアフリー対応の施設に関しては、(社) 帯広身体障害者福祉協会から現地で意見を聞いだということですが、これだけでは不十分と言わざるを得ません。利用者の利便性だけではなく、景観保全、自然保護の観点からも考える必要があります。身体障害者のほかに自然保護団体、地元住民が同じテーブルについて話合い慎重に検討されることが必要ですが、なぜそのようにして合意形成を行わないのか理由を明らかにして下さい。

7.科学物質による環境汚染について

 ウッドチップ舗装や木道の塗料などに用いられている化学物質が、周辺の環境を汚染する可能性がありますが、化学物質による環境汚染の防止対策についての考えを明らかにして下さい。

8.自然保護団体への対応について

 本年8月8日に,今年度の工事計画について上川自然保護管事務所の大坪三好統括保護官より説明を受けた際、大坪統括保護管は「…自然保護団体の同意を得て工事をするという気はさらさらない・・・」と明言しました。「環境庁は来年度からは国立公園を整備運営する際、非政府組織(NGO)や住民の意見を大幅に取り入れる方針を固めた」(河北新聞、1999年9月26日付け)、また支笏湖周辺で予定されている「緑のダイヤモンド計画」では、「基本計画案を公表、住民や自然保護団体から意見を聴く」(北海道新聞、1999年9月7日付け)とマスコミで報道されています。前述の大坪統括保護管の発言は新聞で報道されている貴庁の方針と矛盾すると私たちは考えています。大坪統括保護管のさきの発言が一職員の失言なのか貴庁の十勝三股整備における方針なのか、見解を明らかにして下さい。


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