○ 新得のラリーコースを視察して

 9月17日に新得のラリーコースを視察してきました.以下に気になったことを報告します.
  ( 文責:松田 まゆみ 十勝自然保護協会 副会長   Photo.&Caption by Kagami)

1.パンケニコロベツ林道とペンケニコロベツ林道を結ぶ連絡路は,昨年路肩に224箇所もの排水溝を掘りましたが,一部の排水溝は雨水で浸食されて拡大し,土や砂利が谷側に流出していました.大雨が降れば浸食が加速され,やがて林道の崩壊につながる可能性があります.
【写真】このような排水溝が224箇所掘られ、土砂混じりの雨水を谷側斜面に流し込んだ。
2.ラリーコースの路肩の植物が刈られていました.この林道の路肩には希少な植物も生育していますが,それらが刈られた可能性があります.特に木本植物は刈り払いによるダメージが大きいでしょう.
3.ペンケニコロベツ林道の勾配が比較的急なところでは,昨年のラリー後にくらべて雨水に
よる路面の浸食が進んでいました.ラリーカーによる深掘れが影響している可能性があります.

路肩0センチにナキウサギの生息痕 

 昨年はナキウサギふぁんくらぶのコース変更の要請も聞き入れられず,ナキウサギの生息地
がある新得町の林道で世界ラリー選手権(ラリー・ジャパン)が開催されてしまいました.
主催者である毎日新聞社は,世界ラリー選手権の前身となった2001年のラリー開催前に,ナキ
ウサギの繁殖地から約3キロメートル離すとしてコース選定を行ないました.ところが2003年
から使用している新得町のコースでは,林道のすぐ脇にナキウサギが生息しているのです.そし
て,今年もまた同じコースでラリーが予定されています(今年は9月24日から4日間開催).
 毎日新聞社は「人と車と自然の共生」をテーマにラリーを推進してきました.「3キロメート
ル」どころか「路肩」にナキウサギが生息地しているところでラリーを行なうことがどうして
「自然と車の共生」なのでしょうか?

【写真】コースに使われる林道の路面の穴(岩塊の隙間)。画面右下へ斜めに伸び、2mの枝が入って余りあった。右側斜面の岩塊と連続している。岩塊地の上に林道がある。ナキウサギの生息地の上に作られた林道と言って良い。

 また、道路脇の植生が刈り取られていた。希少植物が発見されたのもこのあたりである。

 私は今年の5月からこのコースでナキウサギの生息調査をしてきました.その結果,パンケニ
コロベツ林道沿いの3ヶ所(昨年の発見場所を入れると4ヶ所),ペンケニコロベツ林道沿いの
5ヶ所でナキウサギの食痕あるいは貯食を確認しました.特に,ぺンケニコロベツの生息地では
6月から9月にかけてずっと貯食が確認できました.ナキウサギの繁殖期は5月から7月で,幼獣の分散は7月から8月頃です.繁殖期にも分散期にも生息しているのですから,「どこかから分散してきた個体が一時的に住んでいる」ということではないでしょう.一年を通じて生息している可能性が高いと考えられます.

【写真】路肩ゼロメートルにあった「ナキウサギの食痕」。このように斜めに鋭く断ち切ってしまうのは、カンナのように門歯の裏側にも歯がある「ウサギ」の特徴。
 ここの生息地は然別湖周辺のような典型的な岩塊地とは異なり,岩塊の堆積があまり発達して
いないように見受けられます.ところが場所によっては風穴になっていて,9月でも冷風が吹き
出していました.風穴があるということは,地下に岩塊が堆積している可能性が高いということ
です.林道脇に穴のあいているところがありましたが,のぞいてみるとその奥は空隙のある岩塊
でした.つまり,ここの林道は岩塊地を破壊してつくったようです.とするともともとナキウサ
ギの生息地だったと考えられます.ナキウサギの生息地を壊して林道をつくり,さらにそこで
カーレースを行なっているということではないでしょうか.
【写真】外気温はこのとき21度。ナキウサギの好む、冷風が吹き出す風穴が路肩から0センチのところに。
【写真左】林道から斜面を見下ろす。排水溝から流れ落ちた土砂で笹の群落などが埋められている。
【写真右】斜面の中腹から路面を見上げる。相当量の土砂が斜面の植生を流失させているのがわかる。

 昨年のラリーでは約90台のラリーカーが参加しました.同じコースを2度走行しますから,
のべ180台(リタイアーを考慮しない場合)もの車が爆音をたてて猛スピードでナキウサギの生
息地を通り抜けることになります.爆音や振動はナキウサギにとってかなりのストレスになるの
ではないでしょうか.また,ナキウサギの餌となる植物はラリーカーの舞い上げる土ぼこりに覆
われてしまうことでしょう.

  ラリーの影響を受けるのは,もちろんナキウサギだけではありません.エゾシカやヒグマは追
い立てられ,野鳥をはじめとする小動物は衝突死の危険にさらされます.路傍の植物も跳ね上げら
れる土砂をかぶったり,損傷を受けたりします.さらに林道の地盤構造も破壊されます.

林道ラリーが生態系に与える影響については,十勝自然保護協会のホームページ( 毎日新聞の不買を!/林道でのラリーが野生生物に与える影響 )をご一読ください.

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