2000年6月2日
北海道知事 堀 達也 殿
                            
                               北海道勤労者山岳連盟
                                 会長 安田  治
 

   日高横断道建設中止の方向で再検討を求める要望書
 

 日高山脈は、ヒマラヤやアルプス造山運動などと同じく摺曲山脈として生成され、極めて貴
重な山体であるとともに、道内でも数少ない自然を保っており、固有種を含む高山植物やナキ
ウサギ・羆など貴重な動植物も多数存在しています。
この意味で山脈そのものが地球の貴重な財産であると共に北海道に残された数少ない大切な自
然といえます。

 この日高山脈に、天馬街道(国道236号線)に次いで、日高横断道(主要通道・静内ー中
札内線)が1984年に着工され、今年で16年になります。道路工事は、樹木を伐採し、急
峻な脆い山肌を削りコンクリートで固め、沢筋に橋桁を架けるなど、自然を破壊しながら進行
し、「日高山脈中央部の21キロが難工事のため開通のめどが立っていない。・・・工事費は1
5年間で410億円に達し・・・必要性への疑問が日増しに高まる中、国民が支払う税でもある
工事費だけは、湯水のごとく使われている。(道断・2000・5・22日付け)」状態です。
 私たちは、自然そのものを対象としたスポーツ、登山を趣味とする山岳団体です。日高山脈
はアプローチが長く遥かなる山といわれ続けてきました。その山容は急峻で独特な地形のため
全国の岳人から憧れの的になっております。大自然の残る日高山脈は、是非現状のまま保存す
べきだと思います。

 もう、これ以上日高山脈の自然を破壊する日高横断道の建設をやめ、日高山脈そのものを道
民の財産として保存し、自然を傷つけない登山や森林浴・散策などのスポーツ、日高独特の雄
大な観景を楽しむなど、自然の恵みを手をくわえずに活用すべきだと考えます。

 現在「利便性・効率性・経済効果」といった「開発」優先の考え方から、以下に紹介する国
際条約などに見るように「いかにしたら人類が生き残るための自然を保存できるか」に、世界
の発想の流れが大きく動いています。
 現在私たちが持っている科学や技術力、及び経済力は、自然を保全し育てるためにこそ活用
すべきであり、決して自然破壊のために使用すべきではありません。

1.人間環境宣言(ストックホルム宣言・国連人間環境会議・1972・6・16)
 @「今日自分をとりまく環境を変革する人間の力は、賢明に用いられるならぱ、すべての人
  々に開発の恩恵と生活の質を向上させる機会をもたらすことができる。
  誤って又は不注意に用いられるならば、同じ力は人間及ぴ人間環境に対し計り知れない害
  をもたらすことになる。我々は地球上の多くの地域において、我々の周囲に人口の害が増
  大しつつあることを知っている・・…・かけがいのない資源の破壊と枯渇……」(1−3抜粋)

 A「われわれは、歴史の転換点に到達した。いまやわれわれは世界中で、環境に対する影響
  をより慎重に考慮して、行動しなければならない。無知、又は無関心であるならば、われ
  われの生命と福祉が依存する地球上の環境に対して、重大かつ回復不能な害を与えること
  になるであろう。」(1−6抜粋)

2.世界自然憲章(国際連合総会決議37/7・1982・10・28採択)
 @「人間は自然の一部であり、その生活はエネルギー及び栄養物の供給を保証する自然系の
   本来の機能に依存していること。」(前文の「以下に留意し」(a))

 A「文明は自然に根ざしていること、即ち、自然は人間の文化を形成し、すべての芸術的及
   ぴ科学的な成果に影響を及ぽしていること、並ぴに、自然とともに生活することは人間
   に対して人間の創造力の開発と休憩及ぴレクリェーションのための最善の機会を提供す
   ること」(前文の「以下に留意し」(b))

 B「すべての生命形態は固有のものであり、人間にとって価値があるか否かに関わらず尊重
   されるべきものであること、及ぴ、そのことをそれらの生物に当てはめるために人間は
  行動を自己規制しなけれぱならないこと」(前文の「以下を確信し」(a)〉

 Cこの憲章の汕齡ハ原則・機能・。実施には、「厳密な環境アセスメントの実施、徹底的な
  審査、環境に影響があると認められる場合は直ちに計画は中止される」ことが述べられ
   ている。

3.生物の多様性に関する条約(1993年12月29日効力発生)

@「締約国は、生物の多様性が有する内在的な価値並びに生物の多様性及びその構成要
  素が有する生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリェーシ
  ヨン上皮ぴ芸術上の価値を意識し、・・・生物の多様性の保全が人類の共通の関心事である
  ことを確認し……更に、生物の多様性の保全のための基本的な要件は、生態系及ぴ自然の
  生息地の生息域内で保全……(前文抜粋)

4.北海道環境基本条例(1997年10月14日・北海道条例第37号)
  「北海道は、さわやかな空気、清らかな水、広大な大地、そこに息づく様々な野生生物な
  ど豊かで優れた自然環境に恵まれた地域であり、この自然の恵みの下に、北国らしい生活
  を営み、個性ある文化を育んできた。
   人類の存続基盤として欠くことのできない環境は、自然の生態系の微妙な均衡の下に成
  り立つものであり、これまでのような大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動を
  続けていくことは、私たちを取リ巻く地域の環境のみならず地球全体の環境をも脅かすも
  のであることが広く理解されてきた。・・…・現在と将来の世代が共有する限りある環境を、
  良好で快適なものとして将来に引き継ぐ責務を有している。
   このため、私たちは、環境への負荷が人の様々な活動から生じているということを心に
  留め、自らの行動を負荷の少ないものに変えていき、社会経済構造のあリ方や生活様式を
  見直すことが求められており、……環境への負荷の少ない社会を築いていくことが必要で
  ある。……このような考え方に立って、良好な環境を保全し、快適な環境を維持し、創造
  することにより、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な循環型の社会をつくり上げる
  ため、道民の総意として北海道環境基本条例を制定する(前文抜粋)

 私たちは、これら28年前の「人間環境宣言」や、18年前の「世界自然憲章」など世界的
な地球環境保全の流れを当然の事として支持し、この流れのもとに1997年に制定された
「北海道環境基本条例」も基本的に支持するものです。
 この立場から、現在進められている日高横断道の建設は相容れないものです。
いまこの貴重な自然を残すことは、道民及ぴ国際的にも将来高く評価されるものと確信し、
知事が日高横断道建設中止の方向で英断をもって再検討されることを求めるものです。
 なお、日高横断道の再検討は、工事を一時中断して行なうことを求めます。
 
 


「日高横断道路」のメニューへ戻る
「十勝三股の自然は、いま・・・」のメニューへ戻る
十勝自然保護協会ホームページへもどる