北海道の森林伐採

次期道有林基本計画(素案)への意見 (市川 利美)

道有林・次期基本計画についての意見

                    市 川  利 美 

札幌市中央区南12条西21丁目2−7−1103 

                     

                     

1 この5年間で鬱蒼とした森がほぼ消えた原因を解明する必要がある。

 道有林の管理運営は、平成14年より、森林の公益性を全面的に重んじる方針に大きく転換され、木材生

産を目的とする皆伐、択伐は廃止されました。同時に、?森の複層林化や後継樹の育成を目的として行う受

光伐という施業方法が導入されました。施業にあたっては?自然環境へ配慮することとし、渓流に及ぼす影

響を最小限にして、渓流への土砂の流出を防ぐことが大切だとされました。?野生動物の移動経路や生物多

様性の保全に重要な森については、森林環境の変化を最小限に止めるとともに、住みかとなる古損木、空洞

木や木の実などの食料を供給する食餌木を残すようにすることも強調されました。

しかし、実際はどうでしょうか。

  次期道有林基本計画に繰り返しでてくる次の言葉が、5年間の帰結を端的に表現しています。

「道有林の75%を占める天然林は、繰り返し実施してきた伐採により大径木は減少しています。」

「北海道の豊かな自然を象徴するような鬱蒼とした森林は少なくなりました。」

私たちは、新制度の下で、北海道の鬱蒼とした森がこれから蘇ることを期待していたのですが、その期待は見事に裏切られました。現在の基本計画(平成14〜23年)における?期目(平成19〜23年)の期首における天然林の蓄積量の見通しは、5,839万?でしたが、現在の蓄積量は、5,691万?です。前計画における予定蓄積量よりも148万?少なくなっています。

新しい発想でスタートしてからのこの5年間に、いったい道有林に何が起こったのでしょうか。
このように森を衰退させたことについて、5年間の総括がありません。道有林事業評価でもこうした視点からの分析、評価はないのです。これでは、次期基本計画は立てようがないはずです。まず為すべきは、原因究明です。

2 原因は、森をくいものにし丸裸にするような旧態依然とした伐採方法が、「受光伐」の名目で堂々と行われていたことにある。

 そこで、えりも町にある152林班43小班を例にとって、私なりに原因を考えてみました。
ここでは、2005年秋に「天然林受光伐」と称して、樹齢100年から150年を越すトドマツや広葉樹が、およそ1.5ha以上の面積で皆伐されました。(公表されている面積は、1.26haであるが、それ以上皆伐されている。)
 
 
  以下は、この森を例にして、森を衰退させた施業方法を説明します。

? 伐採率66%の受光伐

   もともとは、376本の立木販売でした。それも大径木、中径木ばかり、受光伐と称して、376本も切りました。伐採率は66%です。
受光伐とは、森林内の光環境を改善するための伐採で、後継樹を育てるために行なう伐採方法です。66%も切っておいて後継樹を育てるとはいえません。受光伐とは名ばかりで、いい材木を狙った伐採です。

? 支障のない支障木

ここでは、376本のほかにも、支障木と称して、市場価値の高い広葉樹も含めた中・大径木ばかりを18本もきりました。周囲に販売木がないため明らかに支障木といえない木もありました。

? 後継樹を一掃する地ごしらえ

さらに、地ごしらえと称して184本(その他にも160本)を切りました。この結果、この森は皆伐状態となりました。

地ごしらえとは、伐採した跡地に残された幹や枝・葉などを、植付けしやすいように整地する作業です。新たに184本も切るなどということは、本来の地ごしらえとしては予定されていません。

北海道の「育林請負事業仕様書」によると、地ごしらえの際は、「刈り幅内の有用樹種は積極的に保残しなければならない」とあります。たとえ刈り幅内、つまり。植林する箇所であっても、これから育って森を作っていく木は残すべきであるといっているのです。しかし、ここでは、直径6センチ以上、数十センチもある若木をすべてきり尽くしました。植林が予定されていない場所の若木も切りつくしました。

? 「複層林」を「単層林」に

   この43小班は、広葉樹、針葉樹が混在した複層林の天然林でした。しかし、広葉樹の幼木も含めて皆伐し、そこにトドマツだけを単一に植林したのです。つまり、複層林を単層林に変えたのです。基本計画に逆行することが行われていました。

? 渓流と河畔を荒らす伐採

   43小班では、渓流の中や川沿いの木も伐採され、それまで安定していた川底や河畔を不安定にし、土砂が流れやすくなりました。また、伐採した木や枝を無造作に川岸に積み上げ放置しました。伐木や土砂が渓流に流れ込む状態を作り出したのです。森どころか清流までも荒らして無残な状態にしました。

? 野生生物のすみかを奪う伐採

  伐採の前に、野生生物調査は行なわれていません。「基本計画」は、「住みかとなる古損木、空洞木や食餌木を残置」するといいますが、どのような動物が森にすんでいるかを全く知らずに施業されています。クマゲラの採餌木も、ナキウサギの岩場も、絶滅危惧種のコウモリのすみかも、ヒグマの食べ物やすみかも、希少植物も、職員も業者も知らないのですから、配慮のしようがないのです。

  しかも43小班は水源涵養保安林ですが、皆伐なのに択伐と申請していたため、森林法違反だったこともわかりました。道もこれを認めました。

 このように基本計画に相反する施業方法は、43小班だけで行われていたわけではありません。
隣の10
小班では、さらに広い面積で皆伐され、やはりトドマツが植林されていました。
しかも、道内ではこの5年間に、なんと44件も、こうした違法伐採により皆伐されていたことがことも
わかりました。

 このようにして、この5年間で、「北海道の豊かな自然を象徴するような鬱蒼とした森林」はなくなってしまったのです。

4 開き直りの次期基本計画

 以下では、次期基本計画で、大きな問題があると思われる点を列挙し、私の意見を書きます。

1 基本計画にある受光伐の定義は問題であるため、元に戻すこと。

「既にある後継樹の成長促進や植栽等に際しあらかじめ上層にある木を伐採する施業。(森林の状況に応じ、単木での伐採や、群状や帯状(小面積の皆伐)で伐採する施業)」

基本計画のこの受光伐の定義は、過去にはなかった定義で、たいへんに恣意的です。

現在の基本計画では、受光伐を、「森林内の光環境を改善し」、「複層林化や下層木の育成を目的とした伐採」と説明していますが、次期基本計画では、「植栽等に際し」と付け加えています。植栽のために伐採するというのは、本末転倒です。

また、「群状や帯状の皆伐」も受光伐としています。生育途上の天然林での間伐に対して、成熟した天然林では、受光伐として皆伐もするというのです。なぜ、成熟した天然林で皆伐が必要か、説明がありません。
 定義を新しくすることによって、43小班と同じ「皆伐」と単層林化する「植林」を、受光伐として
正当化しようということにほかなりません。このような受光伐は認めるべきではありません。

2 天然林の一切の伐採をやめ、自然の推移に任せた森作りをすること。

  道有林では、木材生産をやめました。人工林も複層林化を目指し、天然林と連続した複層林を作るはずです。そうであれば、今の天然林に、人手をかけた施業はほとんど不要です。森の自然な成長に任せることがいい森づくりになります。

天然林に、受光伐は不要です。ツル切り除伐も不要です。ツルにはたくさんの実がついて、リスなど小動物やヒグマの食べ物を提供します。ツル切り除伐は、良い木材を生産するために必要ですが、よい森をつくるために必要ではありません。風倒木も放置して自然の更新を助けます。枯損木、空洞木は、ヒグマやキツツキ類、モモンガ、フクロウなどにすみかや食べ物(アリなど昆虫)を提供します。大切に残して豊かな森を作る必要があります。

しかし、次期基本計画では、「必要に応じ住みかとなる枯損木、空洞木や食餌木を残置する」と、全計画にはなかった「必要に応じ」という言葉を入れました。野生動物には常に必要なことですから、「必要に応じ」という限定は不要です。必要性をだれがどう判断するか、非常に問題のある言葉です。

また、次期基本計画では、大径木がなくなり中小径木が主体になったことから、当面の間、特段の施業は行わないとしています。しかしながら、例えば日高森作りセンターの小流域別整備管理方針には、随所に「天然林は、基本的に受光伐を見合わせることとしますが、後継樹が確保され上層木に被圧されている箇所においては、後継樹の生育を促すために受光伐を実施します。」とあり、広く例外を認めて、わずかに残された良い材となる大中径木を切り尽くす意図がうかがわれます。例外は認めるべきではありません。また、当面とはいつまでをいうのか、北海道の基本姿勢を示すべきです。

 3 治山による伐採量も管理すべきである。 

  治山事業により毎年かなりの量が、「本数調整伐」名目で切られています。いったい、本数調整伐とは何か、どういう基準で、どこで切られ、それはどう処分されているのか、道民には知らされていません。本数調整伐の実態と内容、基準を明らかにすべきです。

4 伐採・販売方法の公正さに努めるべきである。

    伐採跡地では、なぜ、これが支障木なのか、なぜ、伐根にテープがないのか、伐採や販売について不正さを疑わせるような現場跡になっています。そういう疑念をなくすには、立木販売にしても、素材販売にしても、森づくりセンターが決めた施業内容が適切であり、業者がそれを遵守したことがよくわかりだれでもがチェックできるように、極印、テープ、スプレー、看板などで施業結果の詳細を明示するようにすべきです。

5 森作りの実態を道民に公開すべきである。
 

   道民アンケートによると、希望することでもっとも多いのが「整備を行っている場所で見学会を開催する」ということです。つまり、道民は、森作りの施業の実態を知りたいと思っているのです。

  そこで、各森づくりセンターのホームページで、伐採を含む施業箇所について、春に予定を公開してください。その際には、施業の?林小班名と地図上での場所の表示、?天然林・人工林の別、?施業の次期、方法と内容、?業者名、伐採等の量、販売方法など、道民にわかりやすく情報を与えるようにしてください。

以上    

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