北海道の森林伐採

次期道有林基本計画(素案)への意見 (弁護士 市川守弘)

次期道有林基本計画についての意見

                          市川 守弘(弁護士)

 過去5年間の道有林基本計画の実行から判断した、次期道有林基本計画について、以下のとおり意見する。

1 北海道は平成13年度に新しく北海道森林づくり条例を制定し、この条例の元に平成14年度からの基本計画を策定し、現在までこの基本計画に基づいて道有林管理が実行されてきた。

 いうまでもなく、この基本計画は「公益性を全面的に重視する考え方」にのっとり「資源の循環利用林」という区分がなくなり、これにより木材生産のための伐採はすべての道有林において廃止されたはずであった

 つまり、道有林は「公益性を全面的に重視する考え方」から、一方で「北海道林野事業特別会計条例を廃止し、道有林管理の財源を一般会計に移すことによって、基本的に道税のよって賄われることとし、他方で従前のような木材生産による利益によってその管理を行う必要がなくなった。このため、北海道民の負担によって管理される道有林は、まさに公益的機能を重視し、水源涵養、土砂流出防止等の機能の維持のため、あるいは森林環境の保全、野生生物の保全等のためにのみ存在するものとなった。このような北海道の政策は、本来であれば全国に誇れるすばらしい政策転換であったはずである。

  

2 しかし、平成14年度以降の基本計画の実行は、実際は木材生産を中心とする多量の天然林伐採を行っている。それは各管理区ごとの基本計画の事業量総括の?分期を見れば明らかである。

 天然林における管理は、本来、前項の「公益性を全面的に重視する考え方」に従い、そのまま手をつける必要がない森林であるが、仮に何らかの作業を要する天然林の場合であっても「複層林化や下層木の育成を目的として行う受光伐」が限度のはずである。しかし、多量の天然林を伐採している過去5年間の事業は、明らかに受光伐といえるものではなく、木材生産のための伐採といわざるを得ない。

3 前項の指摘を具体的に論ずることにする。日高管理区152林班43小班では、受光伐及びその後の地拵えによって、計644本(日高森作りセンター発表による)の樹木が伐採され、約1.5ヘクタールの無立木地が生まれた。同林班10小班でも、同じく約5ヘクタール程の無立木地が発生している。これらの小班は、もともと樹齢200年近い樹木による針広混交林を構成していたが、現在では無立木地にトドマツの幼木が植林され、トドマツのみの人工林となってしまっている。

 このような伐採は、到底、「公益性を全面的に重視する考え方」による伐採とはいえない。なぜなら第1に、152林班は水源涵養保安林に指定されていながら、その保安林としての公益的機能は無立木地の出現によって侵害され、土砂流出、洪水の危険性が高まっている。いずれの小班も沢に面し、これらの沢は猿留川に流れ込んでおり、猿留川に大量の土砂が溜まり、いつ鉄砲水あるいは土石流として下流域に甚大な被害が発生しないとも限らない。

 また、この猿留川流域は、シマフクロウ、オオタカ、クマタカ、クマゲラなどの生息地であるところ、大規模な森林伐採によってこれら野生生物の生息が危ぶまれている。

4 前項の例は、北海道のいたるところの道有林の天然林で発生している。次期基本計画は、天然林伐採に関しては、平成14年度以降の基本計画を踏襲し、「受光伐」を大規模に実行するものとなっているが、この「受光伐」は現実には木材生産のための皆伐に近いもので、天然林跡地に人工林を造成する造林計画となっているものである。

 少なくとも、次期基本計画においては、天然林において、正しく「公益性を全面的に重視する」ための「受光伐」が行われなければならないが、そのためには、いったいどういう伐採が「受光伐」といえるのか、当該地域に「受光伐」が必要なのか、を厳格に評価したうえで計画されなければならない。次期基本計画では、事業量だけが明示されるだけでこのような受光伐の必要性、妥当性が一切吟味されていない。これでは過去5年間と同じように各森作りセンターの一方的判断で、大規模な伐採と造林が受光伐と称して実行されてしまうものである。

5 また、次期基本計画には、伐採による環境影響評価が義務付けられていない。この結果、前記のとおり日高管理区では種の保存法によって指定された種の生息地でさえ大規模な伐採が行われ、到底野生生物を保全できるような森林管理になっていない。次期基本計画の中に、各森づくりセンターによる伐採による環境影響評価を義務付けるべきである。

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