北海道の森林伐採

北海道内の天然林伐採を直ちに中止せよ

       北海道内の天然林伐採を直ちに中止せよ

                             2007年5月18日

農林水産大臣 松岡 利勝 様

林野庁長官  辻  健治 様

                    大雪と石狩の自然を守る会 代表 寺島 一男

                    ナキウサギふぁんくらぶ  代表 市川 利美

                    十勝自然保護協会     会長 安藤 御史

                    

 

1 北海道における天然林伐採の実態

  北海道内の国有林及び道有林の天然林では、今、若木に光をあてて育てる目的の受光伐や天然更新の促進、風倒木処理など、各種の名目をつけて、樹齢100年、200年を超える、市場価値の高い太い木が手当たり次第に伐り尽くされている。その結果、残された森林は、細い若木がまばらでスカスカの状態である。しかも、重機により土壌層が乱暴に撹乱され、森の再生が著しく困難な状態になっている。これらの伐採は、ほとんどが、本来、水源涵養、土砂流出防備等のために、林野庁がまさに保全すると表明している保安林内で行われている。 

もちろん、北海道におけるこれらの天然林は、シマフクロウ、クマタカ、クマゲラ、ナキウサギを始めとする希少な野生動植物が生息、生育する、生物多様性保全の必要性が非常に高い森林でもある。

(1)十勝東部森林管理署における国有林伐採

  例えば十勝東部森林管理署では、2006年度の天然林伐採計画は5万立方メートルと道内でも突出した伐採量であったため、昨年9月及び11月、河野昭一氏(日本の天然林を救う全国連絡会議代表世話人、国際自然保護連合・生態系管理員会・北東アジア担当副委員長、大規模林道問題全国ネットワーク代表、京都大学名誉教授)や道内の自然保護団体が、伐採計画の根本的見直し、希少動植物の生息地の保全、エゾマツの伐採の見直し、風穴の保全を、同署及び北海道森林管理局に申し入れたが、現在まで全く回答がない。

(2) 上ノ国ブナ林の過剰・違法伐採

  渡島半島のブナ天然林は日本のブナの北限にあたり、残り少ない天然林として学術的にも貴重である。しかし、檜山森林管理署は林班界や伐区を違法に越境し、計画の2倍近い本数である1661本ものブナを伐採した。このブナ林では、「土砂流出防備・保安林」でありながら、「集材路」と称して幅10メートル、時として20メートルにもわたる道を縦横無尽につくり、土砂を谷に捨てた。このため沢から海に泥が流れ込み、海の生態系も破壊されようとしている。「天然林受光伐」名目の伐採により、木材として価値のあるブナ等太い広葉樹がことごとく伐られ、細い若木だけが残されたが、それも尾根をわたる風により倒れ始めている。

さらにこの過剰伐採により少なくとも207本のブナが行方不明である。ここでは、林野庁自らが行うべき伐採から販売(せり)までの事業を民間の木材関連業者・法人に委託し、その監視すらしていないという、驚くべき実態が明らかになっている。

この違法伐採については今年3月13日、全国の弁護士・市民により檜山森林管理署署長等に対する森林窃盗容疑の告発が函館地検になされた。市民の批判を恐れた檜山・渡島の各森林管理署は、2007年度の天然林伐採計画をすべて放棄せざるを得なくなった。

(3) 風倒処理名目の皆伐

近時、国有林内で台風による風倒処理名目の皆伐地が増加している。例えば、国道273号沿いにある、大雪山国立公園第3種特別地域内の幌加地区の国有林で、広範囲に皆伐されている。

台風によって風倒木が多数発生したとしても、風倒跡地もそのまま放置すればやがて森林が復元する。生物多様性の保全の観点からも、クマゲラ、ミユビゲラなどの採餌場になる風倒跡地は積極的に残さなければならない。 

2 天然林の伐採は直ちに中止すること

林野庁は、森林の持つ多面的機能を維持することを目標に掲げ「森林の多面的機能を持続的に発揮させつつ、多様化する国民のニーズに応えるため、針広混交林化や広葉樹林化等により多様で健全な森林へ誘導していく」などと述べている。

しかし、現実には天然林を大規模に伐採することによって、その森林の多面的機能を破壊してきている。林野庁が本当に森林の多面的機能を持続的に発展させることを政策としているのであれば、直ちに天然林の伐採を中止しなければならない。           

天然林においては、老齢木がある一定の頻度で枯死し、ギャップが形成されるなかで更新が起きる。太古の昔から森はこうして人の手によらずに生き続けてきている。若木を育てるための「受光伐」という概念は、大量伐採で儲けを得るための口実に過ぎない。

日本の天然林を救う全国連絡会(代表 河野昭一氏)が始めた署名活動により、「国有林内の天然林をすべて環境省に移管し、天然林の伐採を直ちに中止すべき」という世論は日ごとに大きくなっている。私たちは、林野庁の実際に行っていることを直視し、北海道に残る天然林を残し森林の多面的機能を持続させるために、天然林の伐採をすべて、直ちに中止することを強く要求するものである。