ベア・マウンテン問題

ベア・マウンテンの危険動物飼養許可に対する要請と再質問

2006年5月12日

十勝支庁長 様

十勝自然保護協会会長 安藤 御史

ベア・マウンテンの危険動物飼養許可に対する要請と再質問

 先日,オープンしたベア・マウンテンを視察した結果,安全性について大きな問題点や疑問点が見いだされました.また,2006年4月28日付けで貴職から回答のあった「『ベア・マウンテンの危険動物』(ヒグマ)の飼養許可について(回答)」は,当会が具体的に指摘した問題点にほとんど回答していませんでした.

そこで新たに生じた疑問とともに当会の4月22日付けの質問への未回答項目について改めて質問いたします.質問項目ごとに回答のない場合は,回答不能と判断いたしますので,質問項目ごとに明確に回答くださいますようお願いいたします.

当会が指摘した問題点・疑問点については早急に現地を確認してください.また加森観光株式会社が自ら作成したマニュアルどおりの運営をしていない場合は,ただちに行政指導することを要請します.とりわけサブパドックへのクマの収容状況について早急に確認することを要請します.

お忙しいところ恐縮ですが,5月25日までに回答くださいますよう,お願いいたします.

 質問1 放飼フェンスは内側に幅1m,深さ20cmの掘削防止セメント舗装をしていますが,クマがセメントの下部を掘削するのは容易と推測されます.また,エキスパンドメタルを1m20cm埋設していますが,クマが爪をかけて破損する可能性があります.貴職の見解を明らかにしてください.

 質問2 外周フェンスは菱形金網を50cm埋設しているだけであり,クマは容易に金網を破壊,あるいはその下部を掘削して逸走する可能性があります.貴職の見解を明らかにしてください.

 質問3 放飼フェンス・外周フェンスともにクマが立ち上がれば電気牧柵の設置していない菱形金網の部分に爪をかけることが可能であり,金網を破損する可能性があります.貴職の見解を明らかにしてください.

 質問4 沢のところでは,フェンスの網目を貫通して水が流れていました(5月4日確認).水流によってフェンスの基礎部分が侵食されたり,土砂や落ち葉,枝などが網目をふさいだりしてフェンスに大きな力がかかると倒壊する恐れがあります.このような構造で問題ないのか,貴職の見解を求めます.

 質問5 沢を横断する外周フェンスには地表との間に空隙があり,フェンスの下部は電線がないために,ここからクマが逸走する可能性があります.5月4日に当会が視察したところ,一番大きな沢では,この施設の職員が竹竿を持って監視していました.この部分に問題があることを経営者も認識していたということです.当会の問合せ(5月9日)に対し,担当職員は無雪期に現地を視察したと証言しました.つまりこのような隙間のある構造で問題がないと判断したわけですが,その理由を説明してください.

 質問6 アトラクションバス製作図によると,バスの窓ガラスは強化フィルムを貼っただけであり,とりわけ窓の位置が低い前面についてはクマが襲い掛かった場合の強度に疑問があることを,認可後に当会は貴職と加森観光に指摘しました.その後 5月4日に視察したところバスの前面のガラス下部に鉄格子が取り付けられていました.このことは認可の妥当性が問われることです.認可後にこのような改良をせざるを得なかったことについて,貴職の見解を明らかにしてください.

 質問7 バスに取り付けられた鉄格子にクマが前足をかけて引いた場合,車体の鉄板ごと剥がれる可能性があります.貴職の見解を明らかにしてください.

 質問8 バスが脱輪したり故障したりした場合はバックホーにて牽引し,乗客はバス後部の非常用扉から他の車両に乗り移るとのことですが,試演しうまく対応できることを貴職は確認したのでしょうか,回答願います.

 質問9 加森観光の示した「クマの管理」によると,毎日営業終了後から翌日の営業開始前までクマをサブパドックに収容するとしています.サブパドック内で給餌し集まるように習慣化するとのことですが,林地に放たれたクマが,餌付けだけで毎日狭いサブパドックに収容できるか疑問です.クマを収容できない場合,夜間にフェンスを破って逃走する可能性もあります.複数のクマをサブパドックへ収容することができなかったり,サブパドック内から複数のクマが放飼場に逸走したりし,それらのクマが同時に穴掘りなどの逃亡につながる行動をした場合,適切な対応ができなくなる可能性があります.このことについての貴職の見解を明らかにしてください.

 質問10 緊急時(火災・地震・台風・施設不備・観客落下等)にも,放飼場内の飼育個体はサブパドックか獣舎に収容するとのことですが,パニック状態の中で,作業員がクマを速やかにサブパドックに収容するのは困難と思われます.とりわけ下草が茂ってしまうと見通しがきかず,個体の確認は著しく困難と思われます.緊急時にクマを獣舎に速やかに収容できると貴職は考えているのでしょうか,見解を明らかにしてください.

 質問11 GPSの位置情報は15分に1回のみのものであり,常時位置確認ができるわけではありません.クマが施設外に逸走したり,通信可能エリア外に出たりした場合は,追跡が非常に困難と推測されます.このことについて貴職の見解を明らかにしてください.また、この施設でのGPS装置の脱落は通常の野生動物のGPS追跡調査と違って、危険を伴います。「積算移動量0」の状態が一定時間続いた場合「寝ているのか」「死んでいるのか」「脱落して監視不能な危険な状態」なのかなどを区別する回路が必要です。脱落そのものを即座に検出する装置(たとえば脈拍・体温など生態反応を常時監視、異常があれば警報するなどの)で「その危険な状態」を何分以内に感知・検出が出来るようになっているか質問いたします。

 質問12 クマが管理エリア外(放飼フェンス外:レベル2か)に出たときは,GPS位置情報システムによりパソコンに警告画面が表示され,赤色灯およびスピーカによる警告も発せられるとのことですが,放飼フェンスを越えてしまうと外周フェンスを越えるのは容易であり,警告後に直ちに対応しても施設外に逸走してしまう可能性が高いと考えられます.このためにフェンスの強度を改善する必要があります.また,夜間にクマがサブパドックから逸走しレベル1(放飼フェンス内側10メートルに侵入)の警報が発せられた場合の警告表示が不明です.この2点について貴職の見解を明らかにしてください.

 質問13 申請者の資料によるとGPSの測位精度は約10〜15メートルになっています.現在の非軍事・民生用の仕様であれば (DGPSや補助的な補正装置を使わないかぎり)見晴らしのよい平地でPosition Accuracyは15m RMS (半径15mの円内に95%の確率で収まる)程度です。このような精度であれば,クマがフェンスの近くにいた場合,フェンスの内側なのか外側なのかを特定することができないので,発信機位置情報だけで警告を出しても意味がありません.つまり,発信機位置情報によるレベル1から3までの警告表示による逸走防止対策はほとんど意味が無いといえるでしょう.この点について,貴職の見解を明らかにしてください.

 質問14 GPS測位システムは,使われている周波数帯の特性上、谷間、沢、崖下、岩陰、雨、雪、森林、木陰、金網の傍などではGPS衛星への視界が悪くなり、DOP(Dilution of precision:GPSユニットから提供される精度低下率)が上昇し,多大な誤差を含んだ位置情報しか得られないか、位置の算出不能な状態が続きます。園内は森林で覆われていますから,夏季は木陰にいるクマの位置情報が得られなくなる可能性が高くなります.GPSの位置情報により夜間の監視をおこなうことは机上の空論といわなければなりません.この点について貴職の見解を明らかにしてください.

 質問15 パソコンやシステムが故障した場合や,位置情報や警告が伝わらなくなり,クマの逸走対策ができなくなると考えます.このことについて貴職はどのように考えているのか見解を明らかにしてください.

 質問16 クマが放飼フェンスおよび外周フェンスの外に逸走した場合(レベル3の場合),飼育係が逸走個体を捜索し,発見した場合は麻酔銃で捕獲するとしています.しかし,危険動物飼養許可申請書によると飼養作業従事者は銃砲所持許可をもっておらず,射撃の技術や麻酔銃の扱いに疑問があります.このことについて,貴職の見解を明らかにしてください.

 質問17 ゲート操作や電気牧柵の電源は,緊急事態に備えて二つ以上が必要と考えられますが,電源についての説明がなく,緊急時対策が不明です.このことについて貴職の見解を明らかにしてください.

 質問18 「電気牧柵の管理運営方法」によると,毎日始業前にバイクもしくは四輪バギーにて巡回し,電気牧柵を目視点検するとしています.しかし5月4日に外周フェンス沿いに視察したところ,バイクや四輪バギーで走行できないところが複数あり,外周フェンスに関しては,フェンス沿いに歩いて視察しているような形跡はありませんでした.「電気牧柵の管理運営方法」に虚偽があるのではないでしょうか.このことについて貴職の見解を求めるとともに,マニュアルどおりに点検しているか確認し,適切な対応を求めます.

 質問19 クマが施設外に逸走し,事態収拾が困難な場合は,関係協力機関に依頼し事態収拾に努めるとし,関係協力機関として警察署・消防署・新得町林務課・新得猟友会・十勝支庁を指定しています.しかし地震や台風などの自然災害時は,被災地域一帯が緊急事態となるため,これら機関の協力も十分に得られない可能性があります.そのような事態を考慮するのであれば,フェンスの強化などより確実なクマの逸走防止策をとる必要がありますが,この点について貴職の見解を明らかにしてください.

 質問20 ベア・マウンテンでは,1日3〜4回歩道橋からの餌まきが予定されているほか,ベアポイントやベア・マウンテンバスからも給餌ができるようになっており,餌やりによって入園者の近くにクマをおびきよせようという意図が明確です.しかし,入園者の目の前でヒグマに餌を与える行為は,野生動物への餌付けを助長することにつながります.観光客がベア・マウンテンでの餌やりを真似て,野生のヒグマへ餌やりをしたらヒグマを人間の生活圏におびき寄せることになり,深刻な事態をもたらします.北海道もヒグマと人の共生のために,野生のヒグマへの餌やりを禁じる方針をとっていますが,ヒグマに餌を与えておびき寄せることについて,貴職はどのように考えているのでしょうか,説明してください.

 質問21 貴職は「他県の条例におけるクマ科動物のサファリ式飼養施設の施設基準や類似施設の構造,専門家の意見などを参考とし,安全性が確保されるための管理方法に条件を付して許可したものであります」と回答していますが,どのような条件を付したのか具体的に説明してください.

回答送付先

  080-0101 河東郡音更町大通10丁目5番地

     佐藤与志松方 十勝自然保護協会 (Tel & Fax  0155-42-2192)

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