ベア・マウンテン問題

道苦情委員会への再度の申し立て

当会の2006年9月27日付申し立てに対する北海道苦情審査委員松村操氏からの結果通知(第24号 平成18年11月14日付)について検討しましたところ,道職員の説明に虚偽のあることが明確になってきました。.

苦情申立書

2006年12月19日 

北海道苦情審査委員 様

 080-0101 河東郡音更町大通10丁目5番地 
佐藤与志松方 十勝自然保護協会  
電話 0155-42-2192  

十勝自然保護協会会長 安藤 御史 

 

 北海道苦情審査委員に関する条例第11条の規定により,次のとおり苦情の申し立てをします.

苦情の内容および理由

 当会の2006年9月27日付申し立てに対する北海道苦情審査委員松村操氏からの結果通知(第24号 平成18年11月14日付)について検討しましたところ,道職員の説明に虚偽のあることが明確になってまいりました.

松村苦情審査委員は本件苦情申し立てについて,環境生活部環境局自然環境課及び十勝支庁地域振興部生活環境課から資料の提出や説明を受け審査を行ったとのことです.

以下に述べるように,十勝支庁の行ったベア・マウンテンの危険動物飼養許可は,道条例に違反するものです.道職員は違反行為の発覚を恐れ,松村苦情審査委員に対し虚偽の説明をし,また適切な判断に必要な重大な情報を隠蔽しています.松村苦情審査委員はこのような道職員の不当かつ不十分な説明により,「道の対応は適切であった」との判断を導き出したのであり,松村苦情審査委員の判断は再検討されなければならないと考えます.

 したがいまして,当会の9月27日付申し立てにおける,松村苦情審査委員への道職員の説明が不当かつ不適切であったことに対し,徹底的な事実確認を行うとともに,再度の審査を求めます.

 なお,この苦情申立書は,当会のホームページに掲載させていただくことを申し添えます.

1.松村苦情審査委員に対する道職員の虚偽の説明ついて

当会が申し立てにおいて写真で示したように,本施設の外周フェンスには開園後の2006(平成18)年5月4日時点で,クマが容易に通り抜けできる空隙がありました.この空隙について道職員は「実地調査段階と許可時点では問題がなく,オープン後に融雪水により沢の水を流す工作物が破損したので,見張りをつけて早急に修理をした」と松村苦情審査委員のヒアリングに対し説明しています.

当会が開示請求により入手した「危険動物飼養許可申請書」では,沢の水を流す工作物を設置しているのは内周フェンスの3ヶ所のみであり,外周フェンスではありません(資料1).当会が写真を添付して指摘した空隙のあるフェンスは外周フェンスです(資料2 写真1).この沢の部分の外周フェンスは申請書の「外周フェンス縦平面図(図面番号3/4)」においても,空隙が生じる設計になっています(資料3).しかも「外周フェンス正面図」(資料4)どおりに施工されているなら,少なくともフェンス下縁より50cm下までは菱形金網が設置されていなければなりませんが,それもありません.この空隙部分は9月27日付申立書に添付した写真でもあきらかなように,沢の水を流す工作物の痕跡などはまったく存在せず,はじめから空隙となっていたものです.

なお,同じ5月4日に撮影した西側(山側)の外周フェンスでは,強度や構造に重大な問題があるものの,沢の部分に菱形金網および補強の鉄棒が取り付けてあります(資料2 写真5).

 見張りを立てていたのは,空隙のあった沢の北隣の沢の内周フェンス部分(資料2 写真6)で,金網を通して沢水が流れていたところです.この内周フェンス部分で工作物が破損しているような状況は確認できませんでした.ここに見張りを立てていたのは,この沢の部分の強度に問題があり,クマがここから逸走する可能性がきわめて高いと判断したためと考えられます.なお,この沢の外周フェンス下部も菱形金網は取り付けられておらず,空隙がありました(資料2 写真3).

許可を出した十勝支庁は,許可前に5回の実地検査,許可後から開園までに4回の実地検査を行っています.当会の副会長である松田まゆみは,外周フェンスの空隙を発見した後の5月9日に十勝支庁域振興部生活環境課の担当者である猪股氏に電話をし,申請書の受理日や十勝支庁の行った現地調査について問い合わせました.その時の説明では,「 4月11日に許可したが,その時は積雪のために現地確認ができなかった.しかし,前年の秋に現地を確認している」とのことでした(資料5).許可時点では積雪で確認できなかったのであり,「許可時点では問題がなく」という説明は虚偽です.

空隙のあるフェンスの写真や見張りを立てていた沢の写真,また猪股氏への問い合わせについては,2006年5月12日のインターネット新聞にも掲載されています(資料6).なお,インターネット新聞の記事は当会のホームページでも紹介していますので,十勝支庁の担当者や加森観光(株)もこの記事を読んでいるものと思われます.もし,この記事に事実と異なることが書かれていたのであれば,著者またはインターネット新聞社に訂正を求めるべきことですが,そのような事実もありません.

当会は加森観光(株)にもフェンスの空隙について問い合わせをしました(資料7).その回答(資料8)が届いたのは苦情申立書を送付した直後だったために,申立書には加森観光(株)の回答を資料として添付できませんでした.加森観光(株)の回答でも,この空隙の存在を否定しておらず,この部分に工作物があったが融雪水で壊れたとの説明もありません.施設設置者である加森観光(株)はこの空隙があったにも関わらず,十勝支庁に事前確認してもらい許可を受けたのでオープンした,と当会に回答しています.

 以上の経緯から,十勝支庁は昨年秋(10月7日および11月2日)に行った実地調査の際にフェンスの空隙を見落としたか,あるいは空隙があっても問題ないと判断したかのいずれかです.

このようなフェンスの空隙は,道条例施行規則で定める危険動物の飼養許可にかかわる下記の基準を満たしていません.

別表第3(二)サファリ式飼養施設

ア 危険動物の種類,数,体力,習性等に応じて,さく等を用いた堅固な構造及び十分な強度を有するものであり,かつ,危険動物の逸走を防止できる構造であること.

イ さく等は,外部と完全に隔絶できる構造であり,かつ,適当な間隔をおいて二重に設けられていること.

なお,もし道職員の説明が事実で,許可前にフェンスの空隙部分に何らかの工作物があったのであれば,写真などの証拠をもって説明されなければなりません.ただし許可直後に融雪水で簡単に壊れてしまうような工作物が上記の基準を満たしていないことは言うまでもないでしょう.

 松村苦情審査委員の聞き取りを受けた道職員は,フェンスに欠陥がある状態で許可したことを道条例違反であったと認識していたために,松村苦情審査委員に虚偽の説明をして責任回避を図ったと推認されます.

2.道のクマの位置情報取得に関する重要事項の隠蔽について

道の担当者は,危険動物を常時監視できない状態にあることについて,「ヒグマの管理はGPSだけでなく,目視も併用して行っている」と苦情審査委員に説明したとのことです.

しかし,加森観光(株)は2006年5月29日に地域住民に対して行った説明会において,十勝支庁からGPSによる位置情報取得システムを取り付けなければ許可できないと言われ,仕方なく取り付けたと説明したうえ,GPSによる位置情報取得装置が有効に機能していないことを認めています.

十勝支庁が加森観光(株)に対して,GPSによる位置情報取得を義務づけたのは,目視による確認だけでは不十分であることを認識していたからに他なりません.なぜなら計画平面図によると場内道路から内周フェンスまでの距離は遠いところで60メートルあり,下草が茂った場合は歩道橋とジープからの目視ですべてのクマの位置を確認することは不可能で,目視だけでは危険動物を常時監視できないからです.夜間にサブパドックにすべてのクマを収容できなかったり,サブパドックから逸走した場合も,クマの監視ができません.したがって,「目視も併用しているので,GPSで位置情報が取得できなくても問題ない」とする道職員の説明は,加森観光(株)にGPSによる位置情報取得装置を義務づけたことと明らかに矛盾します.

GPSによる位置情報取得装置は誤差が大きいうえに木陰などでは十分機能しないことが知られています.危険動物飼養許可申請書にも,GPSの測位精度がオープンスカイ(遮蔽物がない状態)条件で15mであること,また発信される位置情報は15分に1回だけであることが明記されています(資料9).15mの誤差があるため,クマがフェンスの近くにいる場合,フェンスの内側にいるのか外側にいるのか特定できないことになり,GPSを利用した警告表示は意味がありません.クマが寝そべるなどしてGPS装置が体の下になった場合も十分機能しません.このようなことはメーカーに問合せれば容易にわかることです.したがって,このような装置を義務付けた道は,GPSの機能について十分な情報収集を怠ったことになります.

十勝支庁は目視だけではクマの位置確認が十分ではないことを認識したうえで, GPSによる位置情報取得システムが有効であるかどうかの十分な調査・検討を行わずに加森観光(株)に対して装置の装着を義務付けました.これは,危険動物の飼養許可にかかわる下記の基準を満たしていません.

別表第3(二)サファリ式飼養施設

ケ 危険動物を常時監視できる設備が設けられていること.

 したがって,十勝支庁の許可に問題があったことは明らかです.しかも,十勝支庁は当会がGPSによる位置情報取得装置の問題点を指摘した時点で,道条例に違反する許可であったことを認識したはずであり,加森観光(株)に営業を停止して改善をするよう求めるべきでした.

十勝支庁の担当者は責任を回避するために,加森観光(株)に GPSによる位置情報取得装置を義務付けたという事実を隠蔽し,松村苦情審査委員に対し「目視も併用して行っているから問題ない」と矛盾した説明をしたと推認されます.

3.上記以外の事柄における道の説明の問題点

(1)当会の4月4日付要望に対する道の説明ついて

道は,松村苦情審査委員の質問に対し以下の説明をしました.

「本件は,道条例に基づく許可行為であり,申請内容に不備がなかったことから,申請者に不利益を与えないよう標準処理期間内で許可処分を行ったものです.なお,申請者からは,平成13年当時の計画段階から相談が寄せられており,他に類を見ない施設で,規模も大きいことから,道としては事前に資料や現地を確認するなどして,施設基準に適当するかどうか,5年間にわたり調査,検討してきたものであり,また,計画段階からクマ等の専門家から意見を受け,施設が所在する新得町,危険動物の飼養に関する専門家からも意見を聞いており,特段の問題点等は認められなかったものです」

道は,5年間にもわたって調査,検討し,特段の問題点がなかったから許可したと説明していますが,上記1および2で説明したような重大な欠陥および問題点がありました.これは,道の調査・検討がいかにずさんなものであったかを示しています.道は,ヒグマという危険動物の飼育施設である以上,危機管理に関するさまざまな可能性を十分に検討したうえで許可しなければなりません.

 危険動物飼養の許可処分に係る標準処理期間は15日ですが,許可申請がなされたのは平成18年3月29日であり,13日後の4月11日に許可決定がなされています.一方,申請書類の開示請求は,事業者からの申請がなければできません.当会は許可申請のあった直後の3月30日に申請書類の開示請求を行いましたが,実際に開示されたのは許可決定後の4月13日でした.このように開示請求によって道民が情報を得たのちに,意見を伝えることができない段階で行政が許可を出すシステムになっており,道民の意見は門前払いとされてしまいました.また,当会の要望を受け入れ当会の意見を聞いていたなら,違法な許可は避けられた可能性が高いと思われます.

したがって,情報開示を速やかに行い開示前に許可を出さず,自然保護団体の意見を十分に聞くよう当会が要望することは,国民の知る権利を保障し,行政の不適切な許可を正すために当然のことと考えます.

 開示請求がこのような形骸化したシステムであることを道が松村苦情審査委員に説明しないのは,苦情審査委員の公平な判断を阻害することになり問題であるといわなければなりません.

(2)当会4月22日付抗議と質問書に対する道の説明について

道は,「なお,施設に関する個別の設備や管理方法については,施設設置者が説明するべきものと考えております」と説明していますが,施設設置者である加森観光?は道が許可したから問題ないとしており,道に説明責任を転嫁しています. このような責任のなすりあいは由々しきことであり,行政がきちんと対応しなければならない問題です.

(3)当会4月22日付抗議と質問書に対する道の回答について

さらに道は「道の行った許可処分について,申請者がその審査内容に疑問がある場合には,審査の透明性を確保する視点から説明する責任があると考えますが,当事者ではない第三者に対して,審査内容を説明する責任はないと考えております」と説明しています.

しかし,もし道の許可に問題があったことが原因で,ヒグマが逸走して事故が起こった場合,施設設置者だけではなく道の許可責任も問われることになります.不特定多数の人がベア・マウンテンを訪れ,またその近くに滞在したり,通過したりする可能性があり,申立人である自然保護団体は第三者であるから説明する責任はないというのは,本業務の重大性を認識しない無責任な態度であり問題であるといわなければなりません.

添付資料

1.計画平面図(図面番号1/1)および河川横断放飼フェンスの図面

2.フェンスの写真(補修前および補修後)

3.外周フェンス縦平面図(図面番号3/4)

4.外周フェンス図面

5.5月9日の猪股氏への電話メモ

6.5月12日に掲載されたインターネット新聞JANJANの記事

7.加森観光(株)への質問書(6月7日付)

8.加森観光(株)からの回答(9月26日付)

9.サホロ・ベアマウンテン管理運営関係資料の中のGPS位置情報システム資料

苦情の原因となった事実のあった日

道職員が苦情審査委員に聞き取りを行った日(苦情審査実施結果通知書に日付が記載されていないために,申立人は日付を特定できません).

他の制度等への手続き等の有無

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