ベア・マウンテン問題

2006年4月22日

加森観光株式会社社長  加森 公人 様
のぼりべつクマ牧場園長 伊勢 伸哉 様

十勝自然保護協会
会長 安藤 御史

ベア・マウンテンに関する要請および質問書

 当会は,貴社が北海道に提出した危険動物飼養許可申請書を情報公開制度により入手し検討しました.その結果,指摘しなければならない多くの問題点と疑問が明らかになりました.とりわけ安全性に関する問題点については,観客や地域住民の生命に直結することであり,問題点の解決なしにオープンさせることはきわめて危険です.クマの研究者などからも意見を聞いたうえで,改善策を講じてからオープンさせることを強く申し入れます.
 以下に問題点および疑問点を指摘しますので,これらについて貴社がどのように考えているのか,オープン予定日の前日までに書面にて回答してくださいますようお願い申し上げます.
 なお,この質問書および貴社からの回答は公開とさせていただきます.


1.目的について
のぼりべつクマ牧場の伊勢園長は,十勝自然保護協会の社会的役割についての質問に対し,「出来るだけ人為的措置を施していない環境下で生活するヒグマを見ていただくことで,ヒグマという動物に対する理解を深めてもらうことを重視しております」と回答しています.
しかし,貴社から北海道知事に提出された危険動物飼養許可申請書によると,飼養の目的は「客寄せ等営業」です.管理・運営に関する資料からも,研究や保護・教育といった役割が見出せません.観客前での給餌やベアポイント(展望施設)前の擬岩・人工洞窟・池の造成などは,自然の展示とはかけ離れています.また15haに雄20頭の放飼は自然状態ではありえない高密度で,不自然ななわばり争いなどが生じる可能性があります.
このように当会への説明と実態は乖離しています.

2.餌やりについて
日本クマネットワークからの餌付けに関する質問に対して,貴社は「観客による動物への食べ物の提供,販売は現在,計画していない」(2006年3月5日付北海道新聞)と回答しています.
しかし,貴社が示した「クマの管理」では,「サブパドック内で給餌」としながら,日に3〜4回,作業員が歩道橋等から配合飼料(ペレット類)を給餌するとしています.ベアマウンテンバスの側面には給餌装置が取り付けられ,バスにえさ置が固定されています.さらにベアポイント(展望施設)の観覧スペースにも,給餌装置が複数設置されています.これらのことから餌で観客の近くにクマをおびき寄せる意図は明らかですし,いつでもできる状態になっています.たとえ,観客ではなく飼育係が餌をやるのであっても,観客の前でクマに餌付けする行為は観光客が野生動物に餌やりをする行動を誘発する恐れがあり,非常に問題です.

3.フェンスの安全性について
1)放飼フェンスは内側に幅1m,深さ20cmの掘削防止セメント舗装をしていますが,クマがセメントの下部を掘削するのは容易と推測されます.また,エキスパンドメタルを1m20cm埋設していますが,クマが爪をかけて破損する可能性があります.
2)外周フェンスは菱形金網を50cm埋設しているだけであり,クマは容易に金網を破壊,あるいはその下部を掘削して逸走すると推測されます.
3)放飼フェンス・外周フェンスともにクマが立ち上がれば電気牧柵の設置していない菱形金網の部分に爪をかけることが可能であり,金網が破損する可能性があります.

4.バスの安全性について
1)アトラクションバス製作図によると,バスの窓ガラスは強化フィルムを貼っただけであり,とりわけ窓の位置が低い前面についてはクマが襲い掛かった場合の強度に疑問があります.
2)脱輪や故障発生時はバックホーにて牽引,乗客はバス後部の非常用扉から他の車両に乗り移るとのことですが,実際に試演しうまく対応できることを確認したのか疑問です.

5.サブパドックへの収容について
1)「クマの管理」によると,クマは毎日営業終了後から翌日の営業開始前までは,サブパドックに収容するとしています.サブパドック内で給餌するために,集まるように習慣化するとのことですが,放飼場内のクマが,餌付けだけで毎日狭いサブパドックに収容できるのか,非常に疑問です.もし収容できないクマがいたら,夜間にフェンスを破って逃走する可能性があります.とくに複数のクマをサブパドックへ収容することができなかったり,サブパドック内から複数のクマが放飼場に逸走したりし,それらのクマが同時に穴掘りなどの逃亡につながる行動をした場合,適切な対応ができなくなる可能性があります.
2)緊急時(火災・地震・台風・施設不備・観客落下等)にも,放飼場内の飼育個体はサブパドックか獣舎に収容するとのことですが,パニック状態の中で,作業員がクマを速やかにサブパドックに収容するのは困難と思われます.とりわけ下草が茂ってしまうと見通しがきかず,個体の確認は困難と思われます.

6.GPSによる位置情報と警告システムについて
1)GPSの位置情報は15分に1回のみであり,常時位置確認ができるわけではありません.クマが施設外に逸走したり通信可能エリア外に出たりした場合は,追跡が非常に困難と思われます.
2)クマが管理エリア外(放飼フェンス外:レベル2か)に出たときは,GPS位置情報システムによりパソコンに警告画面が表示され,赤色灯およびスピーカによる警告も発せられるとのことですが,放飼フェンスを越えてしまうと外周フェンスを越えるのは容易であり,警告後に直ちに対応しても施設外に逸走してしまう可能性が高いと考えられます.このためにフェンスの強度自体を改善する必要があります.また,夜間にクマがサブパドックから逸走しレベル1(放飼フェンス内側10メートルに侵入)の警報が発せられた場合の警告表示が不明です.リゾートホテル宿直者はどうやって警告を確認するのでしょうか.
3)パソコンやシステムが故障した場合,位置情報や警告が伝わらなくなり,クマの逸走対策ができなくなります.

7.緊急時の対応について
1)クマが放飼フェンスおよび外周フェンスの外に逸走した場合(レベル3の場合),飼育係が逸走個体を捜索し,発見した場合は麻酔銃で捕獲するとしています.しかし,危険動物飼養許可申請書によると飼養作業従事者は銃砲所持許可をもっておらず,射撃の技術や麻酔銃の扱いに疑問があります.
2)ゲート操作や電気牧柵の電源は,緊急事態に備えて二つ以上が必要と考えられますが,電源についての説明がなく,緊急時の対策が不明です.
3)クマが施設外に逸走し,事態収拾が困難な場合は,関係協力機関に依頼し事態収拾に努めるとし,関係協力機関として警察署・消防署・新得町林務課・新得猟友会・十勝支庁を指定しています.しかし地震や台風などの自然災害時は,被災地域一帯が緊急事態となるため,これら機関の協力も十分に得られない可能性があります.そのような事態を考慮するのであれば,フェンスの強化などより確実なクマの逸走防止策をとる必要があります.

回答送付先
080-0101 河東郡音更町大通10丁目5番地
     佐藤与志松方 十勝自然保護協会
Tel & Fax  0155-42-2192

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