大雪山国立公園の問題

大雪山国立公園,上士幌町幌加地区における伐採についての再質問状                   
 

2006年8月8日 


北海道森林管理局長 亀井 俊水 様
十勝西部森林管理署東大雪支署長 長崎屋 圭太 様


十勝自然保護協会会長 安藤御史 


大雪山国立公園,上士幌町幌加地区における伐採についての再質問状


 当会の5月8日付「大雪山国立公園,上士幌町幌加地区における伐採についての質問状」に対する回答が6月27日付でありました.

しかしこの回答は,当会の質問に十分答えておりませんので,再度質問いたします.国有林管理に責任をもつ機関として説明責任を果たされるよう希望いたします.

なお,回答は8月末日までにお願いいたします.


質問1.「今回われわれが問題としている164林班については,大量の風倒木が発生したため処理したとの風説があります.風倒木の発生はきわめて自然な現象であることは論を待たないでしょう.北海道の森林がいつから今日のような林相になったかはまだ十分明らかではありませんが,少なくとも後氷期以降(およそ1万年前以降),現世のような林相が形成されてきたと考えられます.この間多く風倒木が発生してきと推測されますが,ここ百年の和人による略奪林業が進行するまでは良好な森林が維持されてきました.このことからもわかるように風倒木の発生が森林の二次的崩壊をもたらすことはありませんでした.もし,風倒木処理のために全山丸裸にしたというのであれば,そうしなければならない理論的根拠を明らかにしていただきたい.」との質問に対し,貴職は「台風被害木を大量に放置いたしますと、キクイムシ類などの穿孔性昆虫の発生による周辺森林への病虫害の発生が懸念される」と回答しました.風倒地周辺における穿孔性昆虫の大量発生のメカニズムについては明らかになっていると聞いております.「懸念」などと一般論で誤魔化すのではなく,具体的に今日の研究成果も踏まえて説明してください.


質問2.「風倒木の発生が太古から続いてきた現象であることから,生態系にとって意味のある現象であることは,貴職も理解できるでしょう.風倒木は多くの場合,穿孔性昆虫のハビタットとなります.この穿孔性昆虫がキツツキ類にとって重要な意味を持っていることも容易に理解できるでしょう.北海道森林管理局がクマゲラの餌木を残すとの方針を打ち出したのもこのことを根拠にしています(北海道新聞2006年2月20日付夕刊および4月26日付朝刊).生態系の一要素であるキツツキ類の採餌木となる風倒木をすべて森林帯から運び出すということは生態系の多様性の確保・生物多様性の確保への無知といわなければなりません.生物多様性保全という今日行政に課せられた枠組みからみて,164林班で行われた行為が妥当性に欠けることは明瞭です.この点について貴職の見解を明らかにしていただきたい.」との前回の質問に対する回答がありませんので,回答願います.


質問3.「ミユビゲラは政府により絶滅危惧?A類に指定されているキツツキです.このミユビゲラはわが国では大雪山系でのみ確認され,十勝三股および幌加地区がその主要な生息地となっています.当然のことながらこのミユビゲラにとっても風倒木はクマゲラ同様重要な意味を持ちます.ミユビゲラの保護はクマゲラ(絶滅危惧?類)以上に緊急の課題であることは政府の見解からも明らかです.ミユビゲラの生息地域において風倒木をすべて森林から運び出すことはミユビゲラの保護にとって重大な問題です.また, 幌加地区は政府により絶滅危惧?B類に指定されているキンメフクロウの繁殖地です.このフクロウはわが国では北海道中央部の針葉樹林帯にごく少数が生息し,過去に繁殖が確認されているのは幌加地区を含め3箇所に過ぎません.キンメフクロウの生息地域において皆伐が行われることは,彼らの生息に大きな打撃となる可能性が高いといわざるを得ません.

このような皆伐がミユビゲラとキンメフクロウを保護する上で望ましい行為ではないと我々は認識していますが,貴職の見解を明らかにしていただきたい.」との前回の質問に対する回答がありませんので,回答願います.

質問4.「我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地が国立公園に指定されています(自然公園法第2条第2項).そして,国等の責務として自然公園法で以下のように規定されています.

第3条 国、地方公共団体、事業者及び自然公園の利用者は、環境基本法(平成五年法律第九十一号)第3条 から第5条 までに定める環境の保全についての基本理念にのっとり、優れた自然の風景地の保護とその適正な利用が図られるように、それぞれの立場において努めなければならない。

2  国及び地方公共団体は、自然公園に生息し、又は生育する動植物の保護が自然公園の風景の保護に重要であることにかんがみ、自然公園における生態系の多様性の確保その他の生物の多様性の確保を旨として、自然公園の風景の保護に関する施策を講ずるものとする。

あのように全山丸裸にする行為は,国立公園の選定根拠である傑出した自然景観を著しく損なうものであり,自然公園の保護を義務付けられている政府機関が行ってはならないことです.このことについて貴職の見解を明らかにしていただきたい.」との質問に対し,「植樹等により森林を早期に再生することとして、風倒木の処理を行っているものであります。」と貴職は回答しました.つまり,植樹すると森林が早く再生するから見苦しいが丸裸にしてもいいとの見解であると理解しました.そこで質問します.素性の知れない苗木をもちこんで植え込み成林したからと言って,国立公園の森林景観が回復したというのでしょうか.そこの潜在植生が回復してこそ国立公園の森林景観の回復ではありませんか.この点についての貴職の見解を明らかにしてください.