「東大雪の道」におけるヒグマへの対応についての環境省の後進性

 

 2005年11月16日午後(16時15分〜17時30分),環境省上士幌自然保護官事務所において環
境省北海道環境事務所の河本次長・奥山自然公園課長・島影野生生物課長から,8月16日付け「大
雪山国立公園内の北海道自然歩道「東大雪の道」におけるヒグマへの対応に関する質問書」に対す
る回答が口頭でありました.回答は以下の通りです.

 【質問1】大雪山国立公園内の自然歩道にヒグマが出没した際,自然歩道管理者である貴省はどの
ように対応するのでしょうか.

【環境省回答】自然歩道は車道や林道なども含まれており,管理者は環境省だけではない.歩道利
用の観点だけからでは対応できない.クマの行動などにより,捕殺の必要性も含め個別に判断して
対応したい.法的には町に駆除の権限があり,射殺の許可は知事であるから,環境省は直接関わる
立場ではない.

 【質問2】今回のタウシュベツ橋梁付近でのヒグマ射殺が自然公園法第三条第ニ項に照らし適切
な対応であったと認識しているでしょうか.(注:自然公園法第三条第2項 国及び地方公共団体
は自然公園に生息し,又は生育する動植物の保護が自然公園の風景の保護に重要であることにかん
がみ,自然公園における生態系の多様性の確保その他の生物の多様性の確保を旨として,自然公園
の風景の保護に関する施策を講ずるものとする.)

【環境省回答】自然公園法第三条第二項は生物の多様性に関する項目であり,ヒグマの射殺問題は,
この条文によって解釈されるものではないと考える.

回答後,以下のような質疑応答がありました.

【協会】これまで話し合いをしてきた十勝支庁は,ヒグマとの共存をはかると明言した.知床や高
原沼ではクマの出没状況に応じ人の利用を規制したり,ゴム弾などによる追払をしている.札幌市
なども「共存」を原則としており,現在はそれが一般的になっている.支庁からは「共存」の方針
について聞いていないのか? 環境省は町を指導する立場ではないのか.今回のクマの射殺に関し
て,町から問い合わせはなかったのか.

【環境省】出没しているという情報は聞いていたが,特に指導はしていない.今回の射殺について
は具体的なクマの状況などがわからないのでなんとも言えないが,知事が駆除を許可したのだから,
射殺するべき理由があったのではないか.今後も関係者と連携して対応したい.

【協会】支庁は「クマとの共存を目指す」と明言していたのに射殺したというのは,連携がうまく
いっていなかったためではないか.上士幌町に問合せ,どのような状況であったのか確認してほし
い.クマの射殺は国立公園内であり生物多様性にも関わることであるから,環境省がもっと積極的
に指導すべきこと.関係者と連携するといっても,具体的な対処のシステムを確立しなければまた
同じことが起きる可能性が高い.今回は,人を恐れない若いクマであったようであり,このような
クマをすぐ射殺するのは問題.今後の歩道整備はクマに対する対応システムを確立してから進める
べきである.この点について検討して報告してほしい.

【環境省】今回の話は意見として聞いておきます.

【協会】これまで自然歩道については作業部会には入らず,支庁から資料を提供してもらい話し合
いもして対応してきた.今後もこれまでと同様,自然保護協会に資料などを提供し,随時対応して
ほしい.特にメトセップより北はクマの危険性がより高いので,歩道整備は避けるべきである.支
庁は専門家に調査を依頼すると言っていたが,専門家の意見も聞いて対応すべきである.

【環境省】メトセップより北の方の整備については,利用頻度の問題などもあり,整備については
未定である.

回答から見えてくる環境省の体質

環境省に対しこの質問書への回答を文書で求めていたのですが,期限を過ぎても音沙汰がないため,
事務局長が電話で回答を要請したところ,電話に出た西北海道地区自然保護事務所の青山銀三所長
は,面談の上回答したいので札幌の事務所へ来ていただきたいと答えました.このような対応をす
る行政機関を私たちはまだ経験したことがありませんので驚きました.このような不誠実な態度は
公僕である公務員としての資質にかかわることですが,文書回答を拒否したものと判断し,別件で
十勝へ来た事務所職員に面談を求め,ようやく今回,回答が得られました.

予想したこととはいえその回答はお粗末なものでした.

質問1の回答は,ヒグマが出現した時点で対応を考えるとのことでした.ヒグマの生息地に自然歩
道を設置するのであり,ヒグマの出没は当然予想されることです.設置前にいろいろなケースを想
定し,実際にヒグマが出没した際にすみやかに対応できるよう準備すべきです.出没してから対応
を考えるというのでは泥縄のそしりを免れません.ヒグマの生息地に歩道をつくる計画をした環境
省の責任を自覚していない回答といわなければなりません.

質問2の回答は,問題を狩猟法に矮小化して言い逃れするものでした.ヒグマがこの国立公園の生
物多様性の重要な構成要素であることは論を待たないところでしょう.つまりヒグマが自然公園法
第三条第二項の対象外であるということにはなりえないのです.したがって国立公園に責任をもつ
行政機関が国立公園内での有害駆除を放任することにはなりません.問題を狩猟法に矮小化するの
は,国立公園の管理責任を放棄する態度です.環境省の職員に自然公園法を積極的に遵守しようと
いう姿勢や国立公園の管理をきちんとしようという心意気が感じられないのは真に残念なことです.
「環境の時代」だというのに環境問題に対して意識の低い職員が多いというのは,この国の環境行
政にとって嘆かわしいことです.

 

このページのトップにもどる

大雪山国立公園の問題」のページにもどる

十勝自然保護協会のHP・・トップにもどる