生物多様性条約 Q&A 2004年5月18日版

(十勝自然保護協会発行,市川守弘法律事務所監修)

 

Q1 生物多様性条約は自然保護と関係あるのですか?

A 生物多様性条約は,生物の多様性を保全する,つまり生態系や生息地を保全することを目的としています(第1条).生態系や生息地を破壊してはいけないという条約ですから自然保護条約といっていいでしょう.ストックホルムでの人間環境宣言から20年目の1992年,リオデジャネイロの地球サミットで採択されました.

 

Q2 自然保護が日本の国是となったというのは本当ですか?

A  わが国は1993年に生物多様性条約の締約国になりました.条約の目的を認めたということは,条約の目的からして自然保護を国是としたということです.したがって,締約国では開発か自然保護かという対立は過去のものとなり,自然保護の枠組みのなかで開発行為がどこまで許されるかという時代になったといえましょう.

 

Q3 生物多様性条約を締結していない国はあるのですか?

A 国連加盟のほとんどの国が締結しています.ただし環境保全に無知なアメリカ合衆国大統領のブッシュさんは締約していません.世界の孤児への道を突き進んでいるということでしょう.アカデミー賞の授与式でムーア監督は「ブッシュよ,恥を知れ」と叫びましたが,同感です.

 

Q4 生物多様性条約は締約国に強い効力をもつのですか?

A  日本国憲法98 条は条約の誠実な遵守を規定しています.つまり法理上,条約は国内法をしばることになります.国と国との約束事ですから当然です.そして,生物多様性条約第6条は,生物の多様性を保全するため,国家的な戦略あるいは計画を作成することと,部門別あるいは部門にまたがる計画や政策に生物の多様性の保全を組み入れること,を義務づけています.この義務を果たさなければ国際社会への背信行為となり避難されることになります.

 

Q5 改正された河川法や海岸法の目的に環境保全が追加されましたが,生物多様性条約と関係あるのですか?

A おおありです.Q4で述べたように,生物多様性保全のために国内の法令を改正しなければならないということです.

 

Q6 2002年4月に自然公園法が改正(2003年4月から施行)されましたが,これも生物多様性条約と関係あるのですか?

A  勿論そうです.生物多様性条約第6条の規定に基づき,自然公園法第3条に国や地方公共団体の責務として「生態系の多様性の確保と生物の多様性の確保」が加えられたのです.これまでの自然公園法は保護と利用がなかば対等に位置づけられていましたが,2003年4月からは生物多様性の確保つまり保護が前提となり,その枠内での利用が許されるということです.つまり生物多様性を損なう国立公園内での森林伐採は許されないということです.

Q7 自然再生推進法(2003年1月施行)は生物多様性条約と関係ありますか?

A  生物多様性条約は第8条f項で「劣化した生態系」を修復する(rehabilitate)ことや復元する(restore)ことを規定しています.これを受けるかたちで,自然再生推進法はつくられました.ただし注意しなければならないのは,自然再生推進法には「自然環境を保全し,再生し,若しくは創出し」(第2条)などと「再生」や「創出」という文言が入っていることです.生物多様性条約には「再生」などという曖昧な言葉はありませんし,いわんや「創出」などという人間と神を混同した概念もありません.したがって,わが国の自然再生推進法は,生物多様性条約を曲解しているといってもいいでしょう.

 

Q8 自然再生推進法に自然保護団体などが反対しましたが,自然保護の上で何か問題があるのですか?

A  自然再生推進法は,「再生」などという曖昧な言葉や「創出」という神懸かった言葉で,新たに無駄な公共土木事業を産みだす恐れがあります.また,生物多様性条約は第10条d項で生物の多様性が減少した地域での住民による修復のための作業の準備及び実施を支援することを求めています.つまり修復や復元は住民主体でなければならないのですが,推進法では旧来の行政主導型です.このことも無駄な公共土木事業を産みだすとの疑念を抱かせるものです.この法律に基づく自然再生事業の実態が,「劣化した生態系」の復元や修復という生物多様性条約の規定に反するものであるなら,生物多様性条約違反として法廷での決着を求める必要があるでしょう.

 

Q9 十勝自然保護協会に対し,行政から河川整備計画の検討会など行政が設置する検討会への参加要請が目立ってきましたが,これも生物多様性条約と関係ありますか?

A  関係ありです.Q2で述べましたが,開発行為は生物多様性保全=自然保護の枠内で許される行為となったわけです.したがって権威と実績のある自然保護団体の意見を排除することは社会通念上許されません.また自然保護団体抜きで計画を作成し,後で自然保護上の問題点を指摘されることは,自然保護の義務がある行政の責任が問われる深刻な事態になります.

 

Q10 士幌高原道路建設をめぐって,自然保護団体は北海道を生物多様性条約違反で訴えたました(通称ナキウサギ裁判).しかし北海道が道路建設を止めたため,訴訟を取下げました.もし裁判が続いた場合,勝訴の可能性はあったのですか?

A 生物多様性条約は国内法をも制限するものですから,勝訴の可能性は充分ありました.裁判に負けることを恐れた北海道が法廷から逃げ出したと解釈してもよいでしょう.中央政府が今後の環境行政への影響を恐れ,裁判を止めるよう北海道に働きかけたのかもしれません.

 

Q11 弥生新道による希少生物の生息地破壊は,生物多様性条約に違反しませんか?

A  帯広市役所は帯広市環境基本計画以前に計画した道路だから環境基本計画に反しないと弁明しています.これはどこかで聞いた話です.そうです.士幌高原道路が林談話以前に計画されていたから問題ない,といった環境庁の役人の国会答弁のオウム返しです.帯広市役所の弁明は,弥生新道が帯広に残された希少な生態系の破壊行為であり,今日の社会常識では計画立案できないものであることを認めているということです.20世紀の開発至上主義の遺物を葬りましょう.

 

Q12 レッドデータブック(絶滅したり絶滅が危惧される生物のリスト)と生物多様性条約は関係ありますか?

A 関係あります.生物多様性条約の第7条a項で生物多様性の保全と持続的利用のため重要なものを特定することを求めています.そして第7条b項でこれを監視するよう求めています.

 

Q13 ニュージーランドでルピナスを駆除しているという話をききましたが,生物多様性条約と関係あるのですか?

A  関係あります.ニュージーランドでは過去に海外からいろいろな生物を持ち込み自然界に放しました.ルピナスもそうです.生物多様性条約第8条h項では,生態系,生息地,在来種を脅かす外来種の導入防止,侵入した外来種の制御や撲滅を求めています.それをうけてニュージーランド政府はルピナスの駆除をはじめたのです.わが国もすぐに見習う必要があるでしょう.少なくとも国立公園に外来種をはびこらせておくことは止めなければなりません.

 

Q14 「多自然型川づくり」と生物多様性条約は関係ありますか?

A  1990年に建設省は「河川が本来有している良好な生物環境に配慮し,自然景観を保全・創出する」ことを目標とするという「多自然型川づくり」の通達を出しました.これを受け,豊頃町の下頃辺川などでは沖積平野にはない河川形態が創出されましたし,売買川でも庭石を配した箱庭のような河川形態が創出されました.また,氾濫原で非先駆樹種の寄せ植え植栽なども行われました.「多自然型川づくり」の通達が出されたのは,生物多様性条約が採択される2年前のことでした.したがって,生物多様性条約発効後において,生物多様性条約に反する,自然を創出するなどという河川工事やサクセッションの概念を無視した植栽をすることは許されません.

 

Q15 行政関係者が生物多様性条約や新・生物多様性国家戦略のことを知らないようですが,どうしてですか?

A 政府が末端の行政機関にまで周知を徹底していないことが最大の理由だと思います.ある政府関係者は,行政の末端にまで条約や戦略の理解がいきわたるには時間がかかる,ついてはNGOから積極的に彼らに説明してほしいと語っていました.

 

Q16 環境省とか西北海道地区自然保護官事務所とか名称が変更になったのも生物多様性条約と関係あるのですか?

A これもQ5同様,生物多様性条約からそうせざるを得なかったということでしょう.自然保護に関してはわれわれNGOの方が先輩ですから親切に指導してあげなければいけません.

 

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