ナキウサギを天然記念物に |
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ナキウサギの天然記念物指定に関する抗議および要望書
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2006年9月23日 文化庁長官 様 十勝自然保護協会会長 安藤御史 ナキウサギの天然記念物指定に関する抗議および要望書 9月8日付北海道新聞は,「ナキウサギふぁんくらぶ」からのナキウサギの天然記念物指定要望に対し,北海道教委委員会(以下,道教委)が生息地を抱える自治体に対して行った聞き取り調査で,10市町のうち5市町が「地元で保護の動きはなく,自治体として積極的に保護していく考えは現時点ではない」と回答,残りの5市町も「情報がない」「具体的考えはない」などと回答し,北海道教育委員会も「生息域のほとんどは,すでに天然保護区域になっており,生息地を保護することでナキウサギも保護できる」と文化庁に報告した,と報道しました。 そして9月9日付北海道新聞十勝版は,道教委による聞き取り調査がナキウサギの生息地を抱える鹿追町や上士幌町を対象にしていないこと,担当者に電話で聞いただけであったことを明らかにしました.さらに9月12日付北海道新聞夕刊は,道教委による自治体への聞き取り調査が対象とすべき自治体のごく一部であったこと,聞き取りを受けた自治体の見解が道教委の報告と異なることを伝えました. このように道教委の意向調査および取りまとめがナキウサギの天然記念物指定を見送る意図のもとにおこなわれた疑惑が浮上しました.このような行為は公平公正を旨とすべき行政としてあるまじきことであり,強く抗議します. ナキウサギは,高山蝶のウスバキチョウなどとともに「氷河期の生き残り」として知られ,岩塊地にしか生息できないために,生息地はきわめて限定されている動物です. したがって,私たちは,ナキウサギが「特有の産ではないが,日本著名の動物としてその保存を必要とするもの及びその棲息地」あるいは「自然環境における特有の動物または動物群聚」であり,「学術上貴重で,わが国の自然を記念するもの」,つまり「特別史跡名勝天然記念物及び史跡名勝天然記念物指定基準」に該当すると考えています. 現在ナキウサギの置かれている状況は,非常に厳しいものがあります.ナキウサギの生息地は低地から高山にまで及んでいますが,とりわけ低山の生息地は,開発行為などにより次々と破壊されています.低山では小規模な生息地が点在し,生息密度も低いことが多いのですが,このようなところでの生息地の破壊や分断はナキウサギの存続を大きく脅かすものです. 現在工事が進められている緑資源幹線林道では,未着工区間に多数のナキウサギ生息地があり,今後の道路建設により生息地が破壊・分断されることになります.また,林道の工事などによって生息地が破壊されることもしばしばあります. 近年,国有林や道有林で大規模な伐採が行われていますが,ナキウサギの生息地でも伐採が予定されており,作業に伴う生息地破壊や生息地の環境の悪化が懸念されています. 新得町では美蔓ダム計画がありますが,この工事はナキウサギ生息地を貫通することになります.また,ここでは毎年自動車ラリーも開催されています. 中止となった士幌高原道路や日高横断道路でも予定地にナキウサギ生息地があり,士幌高原道路では「ナキウサギ裁判」が提訴され,大きな問題となりました. このように保護が求められているにもかかわらず,保護の網がかけられていないために生息地が減少しているのが現状です.国や地方自治体は,生物多様性条約を遵守する立場にありますが,このような観点からもナキウサギの保護に努める責務があります. 私たちは,北海道教育委員会に対し天然記念物指定を求める多くの署名がよせられていることを十分考慮し,ナキウサギを天然記念物に指定するよう要望します.また文化庁に対し自治体の意向だけではなく,署名を示された国民の意見を十分に取り入れ,ナキウサギの天然記念物指定に向けて主体的に検討することを強く求めます.
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