河畔林をどう考えるか
===講演会を開催するに当たって===
十勝自然保護協会 事務局長 佐藤与志松
かつて、河畔林は邪魔者扱いされていました。市民による河川敷の活用の要求もあって河川敷では、
河畔林は伐採を受け、平坦なグランド化されることが多くなりました。河川管理者は流速の妨げになる
河畔林は障害物と見なし、流水を出来るだけ速く下流に流すために、河畔林を刈り払うように努めてき
ました。
はたして、河畔林は邪魔者なのでしょうか。私たちは、北海道新聞が昨年11月21日に報道した「開発
局は河畔樹木間引きへ」の第一面記事をきっかけに、この河畔林問題を考えることにしました。
【注】北海道新聞の記事は
見出しが【河畔林間引き】【大雨でたおれ下流に流木被害】【開発局 豊平川など来春から】で
要旨は、『十勝、日高管内の河川を中心に大雨による大量の流木が発生し、関係市町村を悩ませている。
今年8,9月の大雨では(中略)サケ定置網にも被害が出た。流木の発生過程は河川ごとで異なるが
十勝川では9割以上が川岸に生える「河畔林」が原因だったことがわかり、開発局は河畔林を”間引き”
する計画を進めている。』というもの。
この問題では、道南の河川について提言したり、一昨年の夏の沙流川水害をつぶさに観察したり、十勝
の河川の詳細な観察をして記録しいる魚写真家の稗田一俊さんに尋ねてみました。氏は、快く意見を送っ
てくださり、さらに、4月21日の講演の講師を引き受けてくださいました。講演に先立ち、稗田さんの意
見の一端を紹介してみようと思います。
稗田さんは河畔林の役割というものを下記のように考えます。
「河畔林は増水時の早い流速を弱める重要な役割を持ち、すなわち河岸の洗掘力を抑止
する効果が認められる」
「流速を弱める」というのは、旧河川管理者も同じ考えを持ちますが、これを「重要な役割」とみ
るか「障害物邪魔物」と見るかで全く反対になります。新河川法では、河畔林に対する考え方を変
え「障害物邪魔物」扱いにしなくなったはずです。しかし、個々の事例では、私には、旧河川法が
まだまだ生きていると感じさせることが多いのです。
稗田さんは、具体的に次のように考えています。
「十勝川や沙流川の河畔林消失は河床低下による河岸崩壊と見受けられます。しかし、
この記事はすべて『増水が河畔樹木をなぎ倒して流木になる』との見方で書かれています。
増水時の観察から、河床低下が見られない河川では、増水して流速が速くなった川水が河
畔林地に侵入したとしても、河畔林が密生しているので、流速が弱められてしまい、樹木
をなぎ倒すような流れにはなりません。この場合、むしろ河畔林を抜き伐りして川水の通
りをよくすると、流速は弱まらないので、樹木への負荷が大きく、なぎ倒されることにな
ります。また、抜き伐りした河畔林はスカスカなため、草や枝、流木が入り込みやすくな
り、これらが樹木に引っかかるため、樹木が倒され、新たな流木となって流されています」
さて、一昨年の沙流川水害では、おびただしい流木が流失しました。その量は、二風谷ダムを埋め
つくすほどでした。また、昨年の十勝川でも流木のため河口の大津に漁網被害をもたらしました。そ
のため上流の人も補償負担をすべきだという声が上がりました。こうしたことが開発局の今回の発想
になったのだと思います。帯広開発建設部に問い合わせると、北海道新聞の記事の「間引き」という
のは、豊平川についてのことで、十勝としては従来通りの方針で変わらないという返事でした。従来
通りの中身が問題ですが‥‥‥。
☆☆☆「河畔林の役割」☆☆☆ 稗田 一俊 氏
【日時・場所】4月21日(土)14時〜15時30分 帯広市「とかちプラザ」401号室 入場無料
講 師:稗田 一俊 氏 写真家、北海道自然保護協会理事
著 書:『鮭はダムに殺された ~二風谷ダムとユーラップ川からの警鐘~』 岩波書店
『サケのふしぎにせまる』 旺文社ジュニア・ノンフィクション
『よいクマわるいクマ?見分け方から付き合い方まで』北海道新聞社 (2006-01-05出版)
萱野 茂・前田 菜穂子【著】・稗田 一俊【写真】
図鑑 『北海道の淡水魚』北海道新聞社
『ヒグマのくる川』( 月刊たくさんのふしぎ ; 第51号)
『カジカおじさんの川語り』( 月刊たくさんのふしぎ ; 第170号)
北海道自然フィールドガイド 湿原を旅する. ほか多数。
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