美蔓ダム問題

美蔓地区の国営かんがい排水事業の見直しについての申入れ

2006年11月8日 

 北海道開発局長  本多  満 様
 帯広開発建設部長 加藤 史郎 様

十勝自然保護協会 会長 安藤 御史 

美蔓地区の国営かんがい排水事業の見直しについての申入れ

 帯広開発建設部は,美蔓地区のかんがい排水事業として鹿追町上幌内に建設を予定していた美蔓ダムの計画を,水需要の減少を理由に,貯水池へと変更することを公表しました(十勝毎日新聞8月26日付).当会は,標記の事業について昨年より帯広開発建設部と話し合いの場をもち,新計画を策定するために実施した環境調査や事業費用,水需要の変化などについて説明を受けるとともに,問題点を指摘してきました.しかし,当会の指摘を検討することなく新得町のペンケニコロベツ川に取水施設を建設し,上幌内の貯水池に道水管で水を引くという新計画に向けて計画変更の法手続きに入りました.

 新計画では,排水事業も含めて約330億円もの費用がかかり,取水施設から貯水池までの工事費用はおよそ90億円とのことですが,このような巨額の事業を行うための環境アセスメントや水需要について,納得のできる説明がなされていません.

 当会は,以下の理由により,貴職にこの計画を見直すことを強く求めるとともに,これらの点について貴職の見解を求めます.

1.取水施設建設場所の選定過程の不透明性

 帯広開発建設部および調査を行ったコンサルタント会社の担当者の説明では,取水施設建設の候補として然別川水系の2河川および十勝川水系の4河川の計6河川で環境調査を行い,確認された希少動植物の点数化や生物多様性の数値化,天然林の割合や工事による改変面積などを算出したとのことです.
 しかし,希少動植物の点数化のデータからはペンケニコロベツ川がもっとも影響が少ないという結果にはなりません.むしろ生物多様性は高いといえます.この点について説明を求めたところ,実際には?猛禽類の点数 ?生物多様性の数値 ?天然林率と人口林率 の数値によって,ペンケニコロベツ川がもっとも影響が少ないと結論づけたとのことでした.猛禽類以外の鳥類や哺乳類,植物や昆虫のデータは選定にあたり無視されたことになります.

 しかもこの評価には,工事による影響がもっとも大きいと思われるナキウサギは,レッドリストに入っていないという理由で点数化していませんし,コウモリも一部の地域でしか調査されておらず不十分な調査です.
 このような不十分な調査データを基にし,さらに調査データを公平に扱わない評価による選定は信頼性を著しく欠くものです.

2.当初計画を隠していた疑惑

 上記の十勝毎日新聞の記事によると,当初の計画では鹿追町上幌内にダムを建設することを予定していたとのことです.ところが,当会への説明会においてはそのことについて一切説明がありませんでした.初回の説明会で配布した「2005農業事業概要」というパンフレットに示されている地図では新得町のペンケニコロベツ川にダムを建設することになっていました.あたかもペンケニコロベツ川でのダム建設が当初計画であり,その後,水需要が減少したためにダムから取水堰への変更を検討しているという説明でした.
 当会が,当初は上幌内川にダムを建設する計画だったのではないかと質したにも関わらず,その点について明確にしないまま6河川の候補地から選定したとの説明に終始しました.
 帯広開発建設部はダム建設予定地を,当初計画の上幌内川からペンケニコロベツ川に変更し,さらに取水堰から貯水池に水を引く方式に変更したことになりますが,ダムの建設場所の変更理由については隠蔽していたため不明です.
 このようなことから,何らかの理由でペンケニコロベツ川にダムを建設したいとの意向のもとに,環境調査データの辻褄あわせをしたのではないかという疑念がもたれます.これが事実であれば,環境調査を実施した意味がなく,アセスメントのあり方自体が問われることになります.

3.ずさんなナキウサギ調査

 ペンケニコロベツ川については,ナキウサギの生息が確認されたことから平成13年よりナキウサギの調査を行っています.その調査結果によると,大規模な生息地ではなく,移動時に一時的に利用する場所であること,また一部の生息地は減少傾向が見られるなとどの説明がありました.
 しかし,当会の調査では,春から晩秋にかけて生息痕跡が確認され,年間を通じて生息していると判断しています.また,事業者が確認していない場所でも生息を確認しており,減少傾向にあるとの結論は客観性をもたず支持できません.事業者が平成17年までに行ったナキウサギ調査はずさんなものであったといえます.
 ナキウサギへの影響については,工法や工事時期・時間などを考慮するとの説明がありましたが,工事がナキウサギに与える影響について具体的に把握していないとのことです.

導水管の埋設場所はナキウサギ生息地の破壊になり,ナキウサギにとっては大きな影響を与えるものと考えられます.

4.風穴への影響

 導水管の埋設を行う場所の一部に風穴がありますが,帯広開発建設部はこの風穴について認識しておらず,当会の指摘によってはじめてその存在を認識しました.
 風穴地では下部の岩盤の中に導水管を通すために,風穴への影響はないとの説明がありましたが,十分な調査を行わずにこのような主張をしても説得力がありません.

5.水需要の減少に見合った見直しの検討

 ダムから貯水池への変更は,水需要が当初の半分以下に減少したためとのことでした.帯広開発建設部の説明では,現在受益者数の最も多いのは鹿追町で,全体の半数近くを占めています.この中には酪農家も含まれていますが,酪農ではかんがい用水はほとんど必要ないと思われます.また鹿追町では,瓜幕で地下水をくみ上げ簡易水道として利用しているため,水は足りていると聞いています.それが事実であれば,受益者数は説明を受けた戸数の半数程度ということになります.
 このように受益者の減少と地下水の利用によって,当初計画時より著しく需要が減少しているのであれば,当初計画の上幌内川からの取水でも賄える可能性があります.然別川水系にある美蔓地区に,十勝川水系から水を引くことは自然の摂理に反するものであり,できる限り然別川水系の水を利用するべきです.
 したがって,地下水の利用を含め,水需要を再度検討することを求めます. 

6.受益者負担の疑問

 事業費の受益者負担については,2006年3月28日の第5回説明会までは3〜5%の受益者負担が生じるとの説明でしたが,先日の10月24日の第6回説明会では,地元自治体が負担するために受益者負担はない(農家の戸口までは)とのことでした.この変更について質問しましたが,明確な説明はありませんでした.
 計画変更の法手続きに入ってからこのような変更をするのは,受益者負担を税金で賄うことにより,本来水を必要としていない農家まで受益者とすることで受益者数を確保しようとしているのではないかという疑惑がもたれます.
 そうであれば「はじめに事業ありき」ということになり,事業のあり方が根本的に問われることになります.受益者に対する需要調査を再度行い,結果を公表すべきです.

 お忙しいことと存じますが,以上の項目に対する貴職の見解を11月末日までに書面にて送付してくださいますようお願い申し上げます.

 回答送付先 080-0101 河東郡音更町大通10丁目5番地

         佐藤与志松方 十勝自然保護協会  Tel & Fax 0155-42-2192