富士山   北岳     中白根山 間ノ岳 西農鳥岳   徳右衛門岳
  3776m   3192m     3055m 3189m 3050m   2599m
仙丈岳山頂にて
南アルプス 仙丈岳
   久しぶりの山行きでした。初冬のひっそりとした静かな山旅を満喫できたのはもちろんのこと、山小屋の主(あるじ)との語らいは、かつてない充実した山小屋の一夜になりました。山小屋を守る主(あるじ)の山に対する思い入れや登山者への安全の配慮、また、それを支える小さな村や家族の意気込みに多くの感動と共感を覚えました。

仙丈小屋と馬の背の稜線 背景は鋸岳、甲斐駒ケ岳
 サラリーマン時代は週末ともなると毎週、高山を目指しあちこち歩き回っていました。過去の記録を眺めてみると、1ヶ月に登った山の標高の累計が51山で145,615m(注1(1999年7月実績)という記録もあり、われながら熱中ぶりにあきれます。
 脱サラをして、自分で仕事を始めてみると、自由にできる時間は思っていたほど多くなく、山に使える時間は年に1-2度程度でしょうか。今回はまるまる2年ぶりの山行になりました。

注1) 実際に登った高さではなく、単純に標高を加算したものです。たとえば国内の山、標高ベスト3に登ったとすると、富士山3776m+北岳3192m+奥穂高3190m=10,158mとなります。余談になりますが、北岳と奥穂高の標高差は2mです。奥穂高の山頂には2mほどの巨大なケルンがあり穂高神社が祀られています。登山の神様だけに3位に甘んじることなく、高みを求めるお姿は登山者に勇気と力を与えてくださいます。
 北海道から中部山岳地域へのアプローチは、皆さんが思われているほど大変ではありません。特に、今回の仙丈岳の登山口へは、新宿駅発の高速バスと、連絡の良い村営バスにより手軽に行くことができます。今まであまり意識したことはありませんでしたが、この明峰にこれほど便利に行けることは奇跡に近いことだと思います。きっと、バス会社の関係者の方の中に山好きの方がいらっしゃるのだろうと思うとともに、心より感謝をする次第です。
 あとから地元の方に伺ったのですが、このバスは地元にお住まいの方にも重要な交通手段であり、みなさんがとても大切にしていることをお聞きしました。マイカー登山全盛の今日ですが、環境に負荷の少ない交通手段であり、末永い路線の存続のためにも、登山者はマイカーを使わず積極的にこのバスに乗ることが、私たちにできる数少ない貢献なのかもしれません。
 バスに乗ってみると高速バスならではの、広い座席で、ゆったりとくつろぐことができます。出発してまもなく、初台のインターチェンジから首都高にはいります。祝日のため、やや、交通量は多めでありましたが、快調にバスは走ります。心地よい振動にいつしか、うとうとしておりましたが、気が付くとバスはすでに甲府を過ぎ、車窓すでに山の景色になっていました。
 紅葉の隙間から甲斐駒が見え隠れしています。紅葉の斜面には長大な黒戸尾根が見えます。甲斐駒山頂には北沢峠からのルートをお選びになる方が多いようですが、私は黒戸尾根が好きです。
 江戸時代から駒ケ岳講(注2として崇拝と修行の道として利用された歴史、『日本百名山』著者深田久弥氏が「日本アルプスで一番つらい登り)注3」といった道です。

大平山荘
登山口は中央やや右奥、白い立て札が見える
注2) 詳しくは甲斐の国甲斐駒ケ岳 竹宇駒ケ岳神社公認ホームページ内の駒ケ岳講をご参照ください。
注3) 「日本アルプスで一番つらい登りは、この甲斐駒ヶ岳の表参道かもしれない。何しろ六百米くらいの山麓から、三千米近い頂上まで、殆んど登りずくめである。わが国の山で、その足許からてっぺんまで二千四百米の高度差を持っているのは、富士山以外にはあるまい。木曽駒ヶ岳は、木曽からも伊那側からも、それに近い高度差を持っているが、登山道は長く緩くつけられている。甲斐駒ほど一途に頂上を目がけてはいない。」(深田久弥『日本百名山』より)

戸台川の紅葉
南アルプス林道 長谷村村営バス車窓より望む



大平山荘落ち葉の香りの登山道
 バスはしばらく高速を進み、伊北インターで一般道に出ます。
 北海道で車を運転していると、道の狭さが気になることはまずありません。十分な広さと、ゆったりとしたカーブで、いつもおおらかな運転ができるからです。それにもかかわらず、毎年交通事故の多さは日本一ということですから、こんな汚名は早く返上したいものです。
 一般道に出ると、道の狭さを気にしつつも、ドライバーのテクニックに感心していました。その時ふと気が付いたことがありました。バスからの視線が高いこともあり電信柱にかかる電線が良く見えました。そこには光ファイバーケーブルが四方八方に延び、多くの家庭に引き込まれているのがわかります。また、バスの路線上を延々と伊那・高遠・長谷村・登山口まで延びています。詳しいことはわかりませんが、数年前に「伊那xDSL利用実験」なるレポートを読み、地域を上げてインターネットに取り組む姿に感動した記憶があります。この光ファイバー網もその流れをさらに進めた成果ではないかと思っております。
 長谷村のホームページに仙丈ケ岳 LIVEカメラがあります。ズームなどの遠隔操作もでき、大変優れたシステム)注4になっています。今日の仙丈岳は快晴、紅葉のじゅうたんの上に真っ白に冠雪した仙丈岳が鮮明に映し出されました。これも充実した光ファイバーの恩恵だと想像しています。
 北海道ではまだまた、光ファイバーはおろか、ADSLさえ満足に開通できない地域があります。機会があれば、ぜひ、関係者の方とお話がしてみたいものです。
注4) 操作の方法は長谷村ライブまたはを長谷村ホームページから「長谷村ライブ」の項目をクリックしてください。

 どこまでも続く光ケーブルを眺めながら、長谷村市街地を通り、紅葉を映す美和湖を過ぎると、ほどなく、高速バスの終点仙流荘に到着しました。
 仙流荘からは、長谷村村営バスに乗り換えます。高速バスは渋滞の影響で若干到着が遅れたものの、定時のバスへ乗車することができました。村営バスは繁忙期には定期便のほか、待合室の状況を見ながら臨時便も発車させることがあるようです。詳しくは村営バス営業所に問い合わせてみると良いでしょう。
 村営バスはワンマンのマイクロバスです。観光バスほどの乗り心地の良さはありませんが、登山バスとしてはとてもきれいで快適です。なにより驚いたのは、ドライバーの丁寧な観光案内です。要所要所で山や植物の説明をしてくれます。また、絶景ポイントでは車を停車させ、十分に景色を鑑賞させてくれます。写真は戸台川の川原まで400mの絶壁の通過。空を飛ぶような感覚さえあります。

 ドライバーさんに藪沢新道を仙丈小屋まで向かう旨を伝えると、登山口の大平山荘前でバスを止めていただきました。また、すでに、途中の橋は冬支度のためにはずされているので、十分に注意するように忠告をいただきました。バスの運転や車内のサービスのみならず、登山道の状況まで把握しているドライバーさんの山岳バスの運転手としてのプロ意識と思いやりに、とても感動しました。

 今回歩く藪沢新道は仙丈岳への最短ルートです。登山口は大平山荘玄関のすぐ脇から始まります。すでに、大平山荘は営業を終え、冬期閉鎖になっていました。そのため、登山口には「冬期間通行止」の表示がありました。沢沿いのコースを行くため、なだれの危険があるからでしょう。
 私は、事前に仙丈小屋に積雪状況とこのルートの通行の可否について電話で確認をしておきました。はずされた橋も、水量が少なければ問題は無いし、凍結によるスリップに気をつければ、通過は可能との情報を得ました。
 初冬の登山は、ある意味とても慎重に行動しなくてはならないことは知っておくべきだと思います。なぜなら、ふもとは、紅葉真っ盛り、小春日和の穏やかなハイキング日よりにもかかわらず、山中は氷点下の真冬なんていうのは珍しくありません。あるいは、一夜明けると一面の銀世界、それならまだいいですが、猛吹雪で視界ゼロ、行動不能なんてことも無いわけではありません。夏山に十分登られて、そろそろ、次のステップとして、この時期をお考えの方も多いと思いますが、夏山とは全く違うものとして、経験者に同行することが必要だと思います。のちに小屋の主(あるじ)から聞かされる、最近の登山者の耳を疑う実話は、後ほどお話しましょう。
 
 大平山荘の脇の登山道はとても整備された歩きやすい道です。この時期、落ちて間もない木の葉を踏むたびに快い音と香りが林に広がり、山気分が高揚します。歩き始めてしばらくは、勾配の無い、ほぼ水平の樹林の中を行きます。いそぐ山行ではないのですが、なぜか、早足になります。
 小沢を渡ったころから、木漏れ日を感じるようになります。
種類によるものか密度によるものかわかりませんが、なんとなく林の雰囲気が変わります。
 整備された登山道はさらに続きますが、突然勾配が急になります。藪沢の大滝への登りです。緩むことなく、急登は続きます。いくえものつづら折を登っていきます。
 突然視界が開けると

苔のむす沢


はずされた橋 水量が少なければ飛び石で渡れる
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木漏れ日の登山道