『科学は不確かだ』―― 科学肯定派にも否定派にも刺激的なタイトルだ。しかも、超一流の物理学者がそう言うのだから。
ファインマンは理論物理学者で、朝永振一郎らとともに、量子力学のくりこみ理論の提唱でノーベル賞を受賞した。原爆開発を行ったマンハッタン計画では計算部門の主任を20代で務めた。物理学教育でも著名だ。
科学者は観察や実験によって不確かな知識をテストして、入念に疑って慎重に知識を獲得する。だから、不確かなことは科学者への挑戦であって、思い悩むべきこ とではない。逆に、根拠がないのに確実だと思い込むことほど危険なことはない。本書で、ファインマンは超常現象や道徳、政治的・宗教的信念という、科学と は遠い分野の話題にも触れるが、ここでも彼の態度は変わらない。タイトルには、こういう意味がこめられている。
本書は、1950年 代の彼の講演をまとめたもの。すぐれた科学者が科学や社会現象について、どう考えていたのかが、わかりやすいことばで語られる。また、自由がなぜ大事なの
かという彼の主張や軍事技術に対するアンビバレントな態度も興味深い。ただし、記録が不確かだったらしく(こうした不確かさは困るが)、ときどきわかりに
くい部分や、講演から起こした本に特有の中だれ感はやや不満だ。
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