2005年5月18日

環境大臣 小池百合子 様

十勝自然保護協会会長     安藤 御史

                 ナキウサギふぁんくらぶ代表  市川 利美

                (社)北海道自然保護協会会長  佐藤 謙

                 北海道自然保護連合代表    寺島 一男

「ラリー北海道2005(APRC)」および「ラリー・ジャパン2005(WRC)」

の環境問題についての要請

 本年7月22日〜24日に「ラリー北海道」が,9月30日〜10月2日に「ラリー・ジャパン」が開催されることが報道されています.私たちは、別紙で述べているように、今までのラリーが自然を破壊していると考えて厳しく抗議し、説明会や資料請求を行ってきました。しかし主催者はラリーが自然環境に悪影響を及ぼすことを認識し,自然保護団体に環境調査報告書を公開すると公言しながら,これをまったく無視して絶滅危惧種の生息地や国立公園の特別地域に隣接した地域でラリーを強行しようとしています.これは社会的に容認できることではありません.

 昨年12月に日本共産党の政府交渉でラリーについて,国立公園をはずすこと,シマフクロウ,クマタカの営巣地の調査,ナキウサギの調査を要請したのに対し,貴職は、コースが一部国立公園に入っていたことを認め,「シマフクロウの営巣は把握しており,クマタカについてもできるだけ早く把握していく,ナキウサギについてもできるだけ協力していく」とし,「主催者側でも十分把握してもらい,つき合わせをして,コースが生息地にかかる場合は避けるよう助言していく」と回答しています(「しんぶん赤旗」(2004年12月18日付け)の記事).

 この回答に従い,貴職がシマフクロウ・クマタカ・ナキウサギなどの希少種の把握を早急に行なうとともに,主催者に対して希少生物の生息地でのラリーを中止するよう指導することを,強く要請いたします.

 なお,この要請に対し5月31日までにご回答くださいますよう,お願い申し上げます.

回答送付先 080−0101 北海道河東郡音更町大通10丁目5番地

            佐藤与志松方 十勝自然保護協会


別紙


十勝地方では,2001年の「インターナショナルラリーイン北海道2001」を皮切りに毎年林道を使用した自動車ラリーが開催され,昨年はラリージャパン(WRC)が開催されました.本年も7月22日〜24日に「ラリー北海道」が,9月30日〜10月2日に「ラリー・ジャパン」が開催されることが報道されています.

 北海道の自然を守るために活動している私たち4団体は,林道を使用したラリーが自然環境に大きな影響を及ぼすことを懸念しております.2004年度は事業主体および関係者等に対して,以下のような申し入れを行なってきました.

●8月22日 

新得町のラリーコースにナキウサギが生息していることが判明したため,世界ラリー選手権実行委員長宛に新得町内の林道使用中止の申し入れを行なう.

● 10月6日

環境大臣・林野庁長官・北海道知事・世界ラリー選手権実行委員会委員長およびJRCアソシエイション会長宛に,「ラリー・ジャパン2004」が,シマフクロウ,クマタカ,ナキウサギ等希少生物の生息地で開催されたことについての抗議,および国立公園,国有林,道有林内でのラリーを今後開催しないよう申し入れを行なう.

●11月2日

パリの世界ラリー選手権本部宛に,ラリー・ジャパンが,シマフクロウ,クマタカ,ナキウサギ等希少生物の生息地で開催されたことに対して抗議と指導を求める要望書を提出する.

 これまでの私たちの活動やラリーイベントの経緯を踏まえて問題整理を行なうと,以下の2点が大きな問題として挙げられます.

1)国立・国定公園の「過度な利用」を助長させるおそれがあること

 「世界ラリー選手権」(大会会長は毎日新聞社代表取締役会長)の端緒となった「インターナショナルラリーイン北海道2001」(大会運営委員会会長は毎日新聞社代表取締役社長)の開催に際し,主催者である毎日新聞社は「記者発表資料」の中で「環境に配慮したラリーの展開」を掲げ,周囲の自然環境に配慮した運営を目指すとしています.そのなかのひとつの項目として「非開発イベントの運営」をするとし,「樹木の伐採,土砂の採取,道路建設などといった開発行為を一切行なわず,環境に対して手を加えず,森林を現状のまま活用します.生態系の維持を最優先とし,恒久的な建造物はつくらず,国立公園,鳥獣保護区といった保護区域内をはじめ,貴重な自然環境地域はコースから除外します」と記述していました.しかし「世界ラリー選手権」ではこの公約を破り,新得町のコースでは連絡路に重機で排水路を掘り土石を谷へ落としたり,コース脇の植物の刈り払いを行ったほか,観客席周辺の樹木の伐採を行いました.また,「インターナショナルラリーイン北海道2001」の開催前に,ラリーの大会運営主催者である毎日新聞社は十勝自然保護協会に説明会を行い,「インターナショナルラリーイン北海道開催実施計画に係る自然環境の保全措置等の検討報告書」(抜粋版)を配布しました.この報告書の「本検討のフロー」というコース選択の基準や手順を示した図によると,2次候補コースを選定(最終コース決定は,3次候補コースの中から決定)するにあたり国立・国定公園の特別保護地区・特別地域から10?程度をバッファーゾーンとし,この範囲内ではコースの使用を避けることが望ましいとしています.しかし新得町のコースおよび足寄町東部のコースではこの基準は適用されず,それぞれ大雪山国立公園・阿寒国立公園の特別地域に隣接する地域でラリーが開催され,特に新得町のコースでは,国立公園の特別地域内をコースの一部が通過していることがわかりました.このような「過度な利用」が許されるようなことがあれば,その悪しき前例によって,今後の国立公園・国定公園での「利用」に歯止めが効かなくなっていくことが予測されます.

2)該当地域の生態系を無視した自然環境調査を改めないこと

 「記者発表資料」の「自然環境調査の実施」という項目では,「候補コース周辺の自然状況について,現地踏査を含め環境調査を行い,最も影響の少ないコースを選定します.運営委員会内に環境安全委員会を設置,環境への配慮がなされているかを徹底してチェックします.環境調査結果などの情報は環境NGOなど第三者に対して内容を公開します.ご意見やご批判については,速やかに運営に取り入れ,問題点については直ちに改善できる機動的・柔軟な組織にし,環境NGOとのパートナーシップを目指します」と明記しています.上記の報告書の「本検討のフロー」では,希少な動植物のうち特に影響が危惧される動物としてナキウサギとシマフクロウをとりあげ,ナキウサギの繁殖地から3?程度,シマフクロウの繁殖地から5?程度はコースの使用を避けることが望ましいとしています.しかし,新得町のラリーコースではこの基準は適用されず,ナキウサギやシマフクロウの生息地でラリーが行なわれました.陸別町西部のコースでは,ナキウサギの生息地から約1.5?しか離れていない場所にコースが設定されました.これら以外でも,ラリーコースには,クマタカやオオタカ・クマゲラなどの絶滅危惧種が生息しており,とりわけ警戒心の強い猛禽類などはラリーカーやヘリコプターによる騒音が大きなストレスとなり,繁殖や幼鳥の生存に影響を及ぼすことが懸念されます.昨年8月に北海道の鳥類研究者など6名が,シマフクロウの生息地でのラリーの開催を中止するよう申入れを行なっています.さらに,陸別取布珠川林道において,樹上監視中と思われるオジロワシが確認された(2005.4.28.北海道自然保護協会理事)ことから,オジロワシの繁殖の可能性も否定できません.

 このため私たち4団体は本年2月19日付けで,ラリー・ジャパン2004実行委員会委員長に対して,環境調査報告書等の資料提供と説明会の開催を申し入れました.しかし4月に入っても回答がないために4月28日までに回答するよう再度求めましたが,期限になっても回答はありません.このように私たちの要請を無視したまま4月17日には音更町で「ラリー北海道」の記者会見が開かれました.また問題とされた新得町のコースも再び2005年のラリー・ジャパンのコースとしてラリー・ジャパンの公式ホームページで公表されました.

 このような態度は上記の「記者発表資料」の記述にことごとく反した無責任なものであり,強い憤りと不信を感じております.しかも,これまでは多くの生物の繁殖期を避けて秋に開催されていましたが,今年は「ラリー北海道」が7月下旬に開催されることになっています.この時期はクマタカの巣立ちの時期に当るほか,多くの動物が子育てをしている季節であり,動物に対するインパクトはより大きくなると考えられます.