林道でのラリーを主催している毎日新聞社の不誠実な実態を告発し不買を訴えます
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競技車のフロントグリルに突き刺さって死んだ野鳥(アオジ) 2004WRC_新得町 |
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抗議声明&要請書(一部) | |||||||||
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1. はじめに
毎日新聞社は世界ラリー選手権(WRC)の前身である「インターナショナルラリーイン北海道2001」の開催前に記者発表資料で公表した「自然環境への配慮」の数々の事項を守らず,自然保護団体の指摘や環境調査報告書の提出要請を無視して,希少動物の生息する北海道の林道で強引にラリーを推し進めています.毎日新聞社はラリー大会のテーマとして「人と車と自然との共生」を掲げてきましたが,林道でのラリーは自然に一方的に負荷を与えるものであり,「共生」はまやかしにすぎません.私たちは不誠実な態度のままラリーを強行している毎日新聞社に強い不信感を抱いています.マスコミではほとんど報じられていない林道ラリーの問題点と毎日新聞社の不誠実な態度をここに公表し,毎日新聞社が自然保護団体に対して誠実な対応をし,自然環境への配慮を十分行なわない限り,毎日新聞の不買運動をすすめていくことを表明します.
以下の事実から私たちの主張に賛同いただける方は,この情報を多くの人に知らせ,毎日新聞の不買運動への参加を広く呼びかけていただくことをお願いいたします.
2. 毎日新聞社と林道ラリー
林道を使用したラリーは,林道を閉鎖,管理したSS(スペシャルステージ)と呼ばれる区間でラリーカーが1台ごとにスタートしてスピードを競い,SSの合計タイムで順位を決める競技です.
路傍の蕗の葉は分厚く土ぼこりをかぶる。当然、光合成に支障が出る。2004WRC_新得 | |||
近年では全国でJAF(日本自動車連盟)公認のラリーが約200戦行なわれています.北海道の十勝地方では,2001年に「インターナショナルラリーイン北海道2001」,2002年・2003年に「アジアパシフィックラリー選手権(APRC・ラリー北海道)」が開催され,2004年には「世界ラリー選手権(WRC・ラリージャパン)」が開催されました.
毎日新聞社は2001年のラリーから主催者として開催に関わり,WRCの誘致を目指してきました.これらのラリーの大会運営事務局は東京の毎日新聞社内にあるラリー事業室です.また2004年の世界選手権(ラリージャパン)の大会長は毎日新聞社代表取締役会長の斎藤明氏であり,大会組織委員会会長は毎日新聞社常務の中島健一郎氏で,役員には毎日新聞社の社員が名を連ねています.表向きの主催者はAG.メンバーズスポーツクラブ北海道で,毎日新聞社は共催になっていますが,このような組織体制から実際には毎日新聞社がラリーを主導しているといっても過言ではありません.このほかにスポーツニッポン新聞社と十勝毎日新聞社が共催団体として名を連ねています.
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3. 驚くべき林道ラリーの実態
ラリーに関心のない人にとっては,林道でのラリーがどのようなもので,自然環境にどのような影響を与えるのかがピンとこないかもしれません.そこでその実態を簡単に紹介しましょう.
2001_InterNationalRalley_久保の森(豊頃町) | ||||
「ラリージャパン2004」でのラリーカーの平均時速最高は103〜118km,最高時速は180kmというものです.林道を車で走ったことのある人ならこれがいかに無謀なスピードであるか,想像できるでしょう.曲がりくねった砂利道の林道では,通常時速30kmから40km程度でしか走行できません.林道規定でも20kmから40kmとなっています.林道はもともと低速で走るように設計されているのです.このような道を猛スピードで走るのですから,日本の柔らかい林道では深いわだちができます.特にカーブでは数十センチもの深いわだちができ,林道の地盤構造が破壊されます.飛散した土砂が大量に路肩に堆積し,路肩の植物を覆ってしまいます.終了後には砂利を入れたりグレーダーをかけて整備しますが,地盤構造が破壊されるので完全に元の状態にもどるわけではありません.ヨーロッパのような地盤の固いコースで行なわれるラリーとは,この点で大きく異なっています.
ヨーロッパと違って柔軟な路盤はときに数十センチの深掘れになる。ここの生態系はどうなる? 豊頃町 砂川林道 | |||
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4. 林道でのラリー競技が野生生物に与える影響
私たちの生活のなかでも騒音による公害はよく取り上げられています.さまざまな騒音によってストレスを感じ,健康を害する人もいます.近年,野生動物の生息地に隣接する場所で工事などが行われる場合に,野生生物へのストレスを最低限におさえるため,騒音が野生動物に与える影響を考えようという動きがでてきています.
一般的に人の聴覚範囲は20ヘルツから20キロヘルツとされています.鳥類の聴覚範囲は人よりも狭く,1キロヘルツから10キロヘルツ程度までです.やや聴覚範囲の広いフクロウ類でも12キロヘルツまでです.しかし感度(聞くことができる最低の音圧)は非常に高いのです.特に1から2キロヘルツの周波数閾に対しては人よりも高いことがわかっています(Dooling & Okanoya 1995).猛禽類についてはハイタカやオオタカで聴感度曲線が得られており,可聴閾は1から4キロヘルツですが感度は人よりもはるかに高く,最も高い感度は2キロヘルツで−15デシベルです(Klump 1986・岩見 2002).
都合によりこの写真の掲載を中止します。 ラリー実施により、ラリーをまねた車両などの往来が頻繁となっています。不心得者に巣箱を詮索する情報を与えないためです。 |
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新得町の森林に設置されたシマフクロウの繁殖用巣箱。コースはこの近くを通る。 | ||||
騒音が動物に与える影響としてはさまざまな報告があります.たとえば航空機上空通過や騒音による家畜への影響として,乳牛ではエストロゲンやプロゲステロンといったホルモン分泌が変化し妊娠している牛が流産した例や,馬では暴走や噛む,けるなどといった突発的な行動が報告されています.
野生動物では,行動の変化や繁殖成績などによってその影響が評価されてきました.猛禽類ではジェット機の騒音(140デシベル)などによって飛び立ちや抱卵の中断などの行動がみられ,ソウゲンハヤブサでは航空機の騒音によって心拍数の上昇が確認されています (Ellis & Ellis 1991).Fleischner & Weisberg(1986)は繁殖期のハクトウワシは騒音に対して敏感であるとしています.家畜や野生動物は一般に航空機の通過やそれにともなう騒音については慣れが生じる,とされていますが,繰り返し定期的に発生する騒音よりも突発的で不規則に発生する騒音のほうが,個体にとってはよりストレスを感じる可能性があります.前述の航空機の騒音は上空およそ1000mの通過の際とされていますので,ラリーのように車両が生息地の近くを走り抜ける場合は,より強いストレスを与える可能性があります.
さらにラリーなどのコースが猛禽類の営巣地近くを通る場合,騒音とともに視覚的な影響が懸念されます.鳥類は視覚が人より優れており,特に猛禽類で著しいことから,騒音を発生させている車両や人などの接近のほうが影響があります.河川で採餌するハクトウワシについて人のレジャー活動が与える影響を調べたところ,モーターボートによる接近が採餌活動の妨害の大部分を占めていました(Stalmaster & Kaiser 1998).コース整備や下見走行による人や車の頻繁な立ち入りも猛禽類の繁殖を放棄させるには十分なストレスとなる可能性があるのです.
物理的な事故もさけられないでしょう.巣立ち直後の雛は地上に降りることが多く,タカ類ではとくに開けた場所で狩をするため,げっ歯類や鳥,爬虫類などをさがして道路を利用することがよくあります.フクロウ類の雛についても同じで,交通事故による死亡の多くは路上にいる獲物を捕らえようとしていることが多いのです.このような幼鳥がコース上に降り立っている場合,ラリー中の走行車を避けることは難しいでしょう.
一般的に猛禽類は何年にもわたり同じ営巣地を利用します.クマタカでは,巣立ち後の幼鳥はしばらくの間巣の近くに留まり,親鳥とともに過ごすことがわかっており,繁殖期をはずしてラリーを行なっても幼鳥に影響を与える可能性があります.近年の開発行為によって希少な猛禽類の営巣に適した場所は少なくなりつつあり,現在残されている環境を保護していかなければならない状況にあります.そのような状況のなかで繁殖の妨害や個体数の減少につながるような行為は許されません.
毎日新聞社は「インターナショナルラリーイン北海道2001」の開催前に,十勝自然保護協会の要請に応じてラリーの説明会を開催しました.このときに「記者発表資料」と「INTERNATIONAL RALLY in HOKKAIDO 開催実施計画に係る自然環境の保全措置等の検討報告書(抜粋版)」(株式会社地域環境計画)という資料を配布しました.つまり毎日新聞社は林道でのラリーが自然環境に影響を与えることを当初から十分認識しており,国民の理解を得られるように「環境に配慮したラリー」を謳い,環境調査を実施してコースの選定をしたのです.
「記者発表資料」の8ページ目には「環境に配慮したラリーの展開」とのタイトルで,周囲の自然環境に配慮した運営を目指すことが謳われています.このなかで,特に問題になるのが「非開発イベントの運営」と「自然環境調査の実施」の項目です.これらの内容を以下に抜き出し,実践しているかどうか検証してみます.
☆非開発イベントの運営 樹木の伐採,土砂の採取,道路建設などといった開発行為を一切行なわず,環境に対して手を加えず,森林を現状のまま活用します.生態系の維持を最優先とし,恒久的な建造物はつくらず,国立公園,鳥獣保護区といった保護区域内をはじめ,貴重な自然環境地域はコースから除外します.(記者発表資料より) |
☆自然環境調査の実施 候補コース周辺の自然状況について,現地踏査を含め環境調査を行い,最も影響の少ないコースを選定します.運営委員会内に環境安全委員会を設置,環境への配慮がなされているかを徹底してチェックします.環境調査結果などの情報は環境NGOなど第三者に対して内容を公開します.ご意見やご批判については,速やかに運営に取り入れ,問題点については直ちに改善できる機動的・柔軟な組織にし,環境NGOとのパートナーシップを目指します.(記者発表資料より) |
2001年の「報告書」の「本検討のフロー」によると,2次候補コースの決定にあたって希少な動植物のうち特に影響が危惧される動物としてナキウサギとシマフクロウを選定し,ラリーコースはそれらの繁殖地からそれぞれ3kおよび5km程度離すことが望ましいとしています.陸別町や足寄町にはこれらの動物の繁殖地・生息地があるため,このような基準を設定したのでしょう.実際にこれらの生息が文献などによって確認されている地域の林道は2次候補コースとして選定されませんでした.
ちなみに,この環境調査報告書の冒頭で,調査を行った株式会社地域環境計画の取締役・北海道支社長は,「…私たちは本報告書のほかにも,今後,スタッフ,競技者,観客に対しても環境保全の指導を実施し,競技期間中には,この結果の通り実施されているかどうかをチェックして,野生生物に対してロードキル等がどの程度起こったかもモニタリングして報告・公表することにしている.この報告書や指導を通じて,少しでも多くの関係者が十勝の自然の特性を理解して,野生生物や環境に影響が少なくなるように意識して行動するようになって欲しいと願っている」と記しています.このことからも,調査の内容や手法,評価が適正であるかどうかは別として(私たちはこの調査自体も不十分なものであったと考えています.特に,クマタカのような確認の難しい猛禽類の調査は不十分と考えられます),株式会社地域環境計画はラリーの環境への影響を十分認識して調査を行い,ある程度の環境保全対策を図る方針であったことが伺われます.この会社の設定した基準では,ナキウサギやシマフクロウの生息地であり,国立公園の特別地域内を通過する新得町のコースはラリーコースとして選定することはまずできないでしょう.
2004年_WRC_新得町の林道にできた深ぼれ | |||
その後,2003年と2004年には豊頃丘陵ではラリーは行なわれず(豊頃丘陵の林道は地盤が軟らかく,リタイアーが続出し不評であったこと,林道の現状復元が不十分であったことが理由のようです),替わりに新得町の林道を使用しています.この新得町の環境調査は,先の地域環境計画ではなく地元帯広のZ社という調査会社が行なっています.この地域では,農業用水確保のため「美蔓ダム」というダムを建設する計画があり,かつて環境アセスメントが実施されました.この調査報告書をナキウサギふぁんくらぶが情報公開で入手したところ,この地域にナキウサギの生息地があることがわかりました.実際にナキウサギふぁんくらぶや自然保護団体のメンバーも,2004年の夏にラリーコースの林道脇でナキウサギの生息を確認しています.「美蔓ダム」の調査報告書では,黒塗りにされているため種名はわからないものの,ナキウサギのほかにも複数の絶滅危惧種が生息していることもわかりました.
また,鳥類研究者ら6名は,新得町のコースから3km以内にシマフクロウの保護増殖のための巣箱が設置されており,約1.5kmのところに採餌場があることから,新得町のコースの使用を中止するよう毎日新聞社に申入れを行い回答を求めました.この要請書では,「シマフクロウは警戒心が強い鳥で,繁殖期でなくても多くのラリー車による爆音や高速走行,ヘリコプターの騒音や接近,また多くの人が集まることによって縄張りや巣を放棄してしまう恐れがあります」としています.しかし毎日新聞社は,回答を拒否しました.このほかに,コースの近くにクマタカの繁殖地が複数あるという情報も得ています.
私たちの得た複数の情報から,新得町のラリーコースの環境調査を請けたZ社は,この地域がシマフクロウ・クマタカ・ナキウサギの生息地であることを認識していたものと思われます.それにもかかわらず,ここをラリーコースとして選定したのです.
WRCでは,主催者が自ら設定したコース選定の最初の基準である「国立公園の特別地域から10kmはバッファーゾーン」「ナキウサギの繁殖地から3km,シマフクロウの繁殖地から5km離す」という,「第一番目のふるい」すら取り除いてしまったのです.もはや「環境への配慮」は完全に反故にされたに等しいと言えるでしょう.
自然保護団体は,「ラリージャパン2004」の前に新得町のコースがシマフクロウ,ナキウサギの生息地であるという情報を得たため,主催者にコースを変更するよう申し入れましたが,この申し入れを無視してラリーが強行されました.ラリーの開催前に,十勝自然保護協会とナキウサギふぁんくらぶは主催者に環境調査報告書の提出を求めましたが,係争中(十勝自然保護団体の会員が,ラリーの補助金支出問題で道知事と毎日新聞社を提訴していました)を理由に拒否されました.裁判の終了後,2005年2月19日には十勝自然保護協会・ナキウサギふぁんくらぶ・北海道自然保護協会・北海道自然保護連合の連名で,毎日新聞社のラリー事業室に対して環境調査報告書の提出と2005年のラリーの説明会を要請しましたが,回答の期限とした4月28日になっても報告書の提出もなければ,説明会についての回答もありません.
新得町のコースで環境調査を行ったことは確かなようです.しかし足寄町の阿寒国立公園に隣接するコースなど,2001年の「報告書」で現地調査の対象にならなかったにもかかわらずラリージャパン2004で使用したコースや,ラリージャパン2005で新たに選定されたコースで詳細な環境調査が行われたかどうかは不明です.
環境調査報告書の公開や自然保護団体への誠実な対応などについては2001年の説明会以降,何一つ実行していないというのが事実です.なぜ環境調査報告書を提出しないのか,なぜ自然保護団体に説明をしないのかは,このような経緯から察することができます.WRCのような長距離のコースを確保しなければならないレースでは,もはや「環境に配慮したコース選択」などは困難なのではないでしょうか.このようなことは,2001年の時点である程度予測できたものと思われますが,そうであれば毎日新聞社はこのラリーから手を引くべきだったのです.ところが,公表した基準でのコース選択が難しくなると調査会社を変え,しかもその報告書の公開もせず,また問題とされたコースを選定したのです.結局のところ「環境に配慮したラリー」は理解を得るためのお題目だけで,「はじめにラリーありき」だったのです.
これまでは動物への影響を考慮して繁殖期を避け,秋にラリーを行なってきましたが,2005年は「ラリー北海道」を7月下旬に行なうことになっています.この時期はクマタカの巣立ちの時期でもあり,繁殖期の動物への影響はさらに深刻です.
真実を取材し報道すべきマスメディアである毎日新聞社が,このような態度をとっていることに対し,私たちは強い不信感と憤りを感じています.毎日新聞社が「記者発表資料」で表明した「環境への配慮」に関することがらを誠実に実行しない限り,私たちは毎日新聞社のこのような実態を公表し,不買運動を訴えていきます.
4 Nov. 2004 President
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7. 抗議声明・要請文 一覧 |
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