司馬遼太郎さんの作品 

 司馬遼太郎さんの作品はまだ多くは読んでいませんが粒ぞろいでこれまで読んだのはどれもすばらしいものばかりです。まだ読んでいない膨大な作品が楽しみです。 

『最後の将軍』 文春文庫
 徳川幕府最後の将軍徳川慶喜の半生を描きます。平成10年の大河ドラマの主人公ですね。わたしは幕末はまだ勉強不足でこみいった人間関係が今一つなのですが・・・。(大河ドラマを見ながらちょっくら勉強するか。)彼は長生きだったんですね、それを考えるとまだ昔のこととは言えないような時代の話です。

『空海の風景』 中公文庫
 弘法大師、空海、昔からもちろん知っている名前でしたが、実際はどんな人?と思って読み始めました。司馬さんは仏教についても平易な表現でわかりやすく丁寧に書き込んでいます。とんでもないエネルギーに満ちあふれた人物である彼がどのような道のりを歩んでいったのか、他の司馬作品とはちょっと違った内容です。

『義経』 文春文庫
 源義経、なかなかに魅力的な人物です。日本の歴史上で彼ほどめざましい戦歴をもつ人物が他にいるでしょうか。しかも彼の才能はその初戦とも言える戦いから十分に発揮されます。軍神かのような戦の才能と、その無邪気とも言える幼稚な政治性。そのはげしいアンバランスが彼の人気なんでしょうか。判官贔屓のわたしは義経ファンですが、かといって頼朝嫌いと言うわけではありません。

『箱根の坂』 講談社文庫
 後北条氏の祖である伊勢新九郎長氏(俗にいう北条早雲、彼は実際には北条を称したことはないんですね)を主人公にした室町時代の小説です。文庫では三巻に分かれていますが、大雑把に言うと上巻は京都時代、中巻は駿河に下り今川氏親(永井路子さんの「姫の戦国」で主人公が嫁いだ相手ですね、今川義元の父にあたります)の後見をし彼を守護につけるまで、下巻は今川から独立し伊豆を手に入れさらに箱根の坂を越え相模進出を果たすまでを描いています。ちょうど足利義政、応仁の乱あたりの時代から物語が始まります。この辺の小説はあまり見かけませんから、司馬さんの描くこの時代の背景は興味深いものがあります。

『城塞』 新潮文庫
 大坂の陣を題材としています。最後のチャンスを求めて大坂城に入った真田幸村、後藤又兵衛、明石全登、長宗我部盛親らの歴戦の武将たちの最後は心を打たれます。判官贔屓でしょうか、幸村に家康の首を取って欲しかった。わたしは真田幸村のファンです。NHKのドラマで見ただけの「真田太平記」はぜひ読んでみなくては。

『項羽と劉邦』 新潮文庫
 中国ものは三国志があまりにも有名で人気がありますが、これもおもしろい時代です。中国の天下取りは日本とは全然ちがったスケールがありますね。しばらくの間、空想にふけることができました。そいえば昔「光栄」のゲームにもありましたが駄作でしたね、ゲームのできも悪く、もともとの知名度も信長や三国志には及ばないですから。学生の頃、漢文の教科書に「四面楚歌」で有名な文章が載っていましたが、もっと早くにこれを読んでおけばよかった。

『国盗り物語り』 新潮文庫
 全四巻のうちはじめの二巻は斎藤道三、あとの二巻は織田信長(と明智光秀)を主人公としています。油商人から美濃一国を手に入れるまでの道三、そして道三の二人の弟子として描かれる信長と光秀の間の確執から三人のそれぞれの非業の死まで。司馬作品の長編は遅読のわたしにとってはいつにないスピードで読み終えてしまいます。

『功名が辻』 文春文庫

『夏草の賦』 文春文庫
 土佐のうちの一郡のみを治める家に生まれた元親が天下を望みながら領土を広げ、四国統一まじかというところで豊臣秀吉に降伏、そして九州征伐に従って嫡男信親を失うにいたるまでを描いています。明智光秀の家老となる斉藤利三の妹菜々が、元親に輿入れするところから始まるというユニークな出だしです。奥州で天下を夢見た伊達政宗の生涯との比較はおもしろいかもしれません。地方の有力者であった、この長曾我部、伊達、そして島津のその後の運命は対照的です。

『戦雲の夢』 講談社文庫
 上の「夏草の賦」のちょうど続編になるような格好です。土佐の長曾我部盛親の生涯を描いた作品です。偉大だった父、元親に較べるとマイナーな人物ですね。九州征伐で嫡男を失った元親はすべてに気力を失い、四男であった盛親が家を継ぎました。しかし、元親が関ヶ原を目前に控えた政局混迷の時期に死に、家を継いでまもなくに盛親は天下分け目の戦いを迎えることになりました。六千の兵を率いて戦場に臨みながら一戦もせずに西軍は敗北します。島津が西軍に属しながら本領安堵だったのにもかかわらず、長曾我部は取り潰しとなり盛親は浪人しました。再起のチャンスを与えられた彼は大坂の陣で大坂城に入り、ついに戦う場を与えられたのでした。

『尻啖え孫市』 角川文庫
 なんのテレビ番組だったか忘れてしまいましたが、子供の頃に孫市の射った弾が信長をかすめるシーンを見たのを覚えています。雑賀の孫市はけっこう強烈な印象が残っていました。

『播磨灘物語』 講談社文庫
 秀吉の軍師として有名な黒田官兵衛孝高が主人公です。野心に満ちた彼はよく竹中半兵衛と対照的に書かれますが実際はどうだったんでしょうか。

『軍師二人』 講談社文庫
 八つの作品からなる短編集です。何と言ってもお気に入りは当然のごとく表題作の「軍師二人」です。軍師というと黒田官兵衛、竹中半兵衛が思い浮かびますが、この作品の主人公は真田幸村と後藤又兵衛の二人です。「城塞」でも登場しますが、大坂の陣で大坂方として参陣した名将です。大坂の陣に参陣した武将にはなかなか魅力的な人物が多いのですがこの二人はその中でも別格ですね。この二人のどちらかが大将であったなら大坂城と大軍を擁した大坂方に勝利のチャンスがあったのでは・・・。

『 豊臣家の人々』 新潮文庫
 豊臣家の人々を題材にした少し変わった形式の小説です。豊臣秀次、小早川秀秋などを思い浮かべると秀吉は恵まれなかったなと思いますね。これは織田信長にも言えることですけれど。どうしてこんな家から秀吉のような傑物が突然でてきたんでしょうか。

『覇王の家』 新潮文庫
 徳川家康、その実像に迫る一風変わった小説です。作者の言う、中国やヨーロッパの概念の英雄からもっとも遠い存在である、徳川家康。わたし自身は今一つ頭の中でこの人物像を組み立てることができません。無類の戦好きで野戦の名手、信長のどんな要求にも耐え妻子まで殺す冷血さ、死ぬまで絶えることのなかった女好き。今一つ好きになれないわたしは徳川家康ものの小説はあまり読んだことがありません。実際はどんな人物だったのか知りたくもあります。しかし、わたしの好きな信長にとって、もっとも頼りになる男であったことも間違いないんでしょうが。

『関ヶ原』 新潮文庫
 石田三成と島左近、徳川家康と本多正信、二組の主従を中心に関ヶ原にいたる経過そして関ヶ原の激闘を克明に描いた長編です。わたしの石田三成びいきはこの小説によるものがかなり大です。関ヶ原で敗れた三成は敗者として不当な評価を江戸時代に受けたのは当然でしょう。五奉行筆頭とは言え小身の大名にすぎず、実戦経験では家康とは較べるべくもない彼があれだけの戦いをしたことに感動すら憶えます。歴史はつねに勝った側に正義があるのは仕方ないことですが、彼の戦いぶりはもっと評価されるべきと思います。島左近、大谷吉継もその戦いぶりは、大坂の陣の真田幸村、後藤又兵衛とともにわたしの心を打ちました。

『菜の花の沖』 文春文庫
 高田屋嘉兵衛という名前は知っていますか。江戸時代には蝦夷と本州の間で盛んに交易が行われ財をなした商人はたくさんいました。彼もそのうちの一人ですが、国後島、択捉島への航路を開いたり、ロシアとの外交面でも活躍した人物です。彼は函館発展の祖というわけで北海道ではNHKの大河ドラマの題材にと運動をしています。

『世に棲む日日』 文春文庫
 幕末、なぜ長州藩はあれほどまでに突っ走ったのか。その理由を吉田松陰、高杉晋作のふたりの人物をとおして描き出しています。天才なのか狂人なのかふたりはまったく異なる人物ではありますが、ほんの短い間ながら師弟関係にあり、ふたりともに非常に短い人生を駆け抜けていきました。この時代に絶対になくてはならなかったふたりですが、幕末という時代に生まれなかったらどういう人生だったのかと考えてしまいます。わたしは高杉晋作というおとこにすっかり惚れこんでしまいました。幕末に疎いわたしはこのような英雄がこの時代にいたとは知りませんでした。

『花神』 新潮文庫
 かつてNHKの大河ドラマにもなった作品ですが、わたしはまだ見ていない古い時代です。村田蔵六(のち大村益次郎)は長州の村医者の子として生まれ、緒方洪庵の適塾で蘭方医学の修行をします。しかし、幕末という時代の要求のままにヨーロッパの兵制を研究するに到り、最終的には長州のそして新政府軍の司令官となり明治維新を完結させました。彼はずっと一個の学者、技術者であり、長州軍を率いて維新の表舞台に登場し刺客に襲われ死に至るまでたった3年にすぎません。いわゆる志士として活躍したのではない異色の人物であり、明治維新に欠くことのできなかった人物でもあります。彼の思想はちょっと理解しがたいものがありますが・・・。

『竜馬がゆく』 文春文庫
 これをバイブルのように思っている歴史ファンは多いと聞きます。わたし自身はなぜかそれほどの思い入れはないんですけれど。

『燃えよ剣』 新潮文庫

『新撰組血風録』 中央公論社

『翔ぶが如く』 文春文庫
 大長編ですね。わたしは幕末から明治維新はあまり守備範囲ではありませんでしたから理解するのが大変でした。大河ドラマで放送されたので原作を読んでいなくとも知っている人は多いでしょう。これを読んで大久保利通がすっかり好きになってしまいました。どうも西郷隆盛は好みではありませんでした。結局のところ西郷ってよく理解できませんでした。鹿児島の人の西郷の評価するところはいったいどの辺りなんでしょう。最近になって地元で復権の兆しがあるらしい川路利良については、地元でよく思われないのも多少わかる気がします。大河ドラマの最後で、大久保が暗殺されるシーンはしばらく茫然となってしまいました。西郷、木戸、大久保が死に、ひとつの時代がここで終わったんですね。

『酔って候』 文春文庫
 表題作の「酔って候」は土佐の山内容堂、「きつね馬」は薩摩の島津久光、「伊達の黒船」は伊予宇和島の伊達宗城、「肥前の妖怪」は肥前の鍋島閑叟を主人公にしています。なまじこんな時代に藩主であったこと、そして能力を持っていたことはかえって不幸だったかもしれませんね。毛利敬親みたいな方がずっと幸せかも。どんなに優れた能力を持っていても時代の大きな波に逆らうのは無理というものです。

『王城の護衛者』 講談社文庫
 表題作の「王城の護衛者」そして「加茂の水」「鬼謀の人」「英雄児」「人斬り以蔵」の五編からなります。表題作は京都守護職となり幕末京都で奔走した会津藩主松平容保、「加茂の水」は岩倉具視の謀臣玉松操、「鬼謀の人」は「花神」で長編として描かれた大村益次郎、「英雄児」はこれも「峠」で長編化された長岡藩河井継之助、「人斬り以蔵」は土佐勤皇党の殺し屋岡田以蔵が主人公です。滅びる側にいるいかにも純粋な男、松平容保の悲劇は切なくなります。大村益次郎、河井継之助はのちに長編の主人公となるだけに司馬さんの思い入れが伝わってきます。

『坂の上の雲』 文春文庫
 文庫で全8巻の長編です。これがこれまでの読んだ司馬作品のベストになりました。構想から完成まで10年の歳月を作者は費やしたとのことですが、すばらしいの一言。松山の元士族の家に生まれた秋山好古、真之兄弟そして有名な正岡子規の3人を中心として明治という国家、その命運を賭けた日露戦争を克明に描いています。わたしの稚拙な文章ではこの作品の良さを表現するのは困難なことです。みなさん、ぜったいに読んで下さい。この時代に生きたすべての人々が何ともいとおしいような気分になりました。

『殉死』 文藝春秋
 乃木希典、という不思議な人物を司馬遼太郎さんが考察した風変わりな作品です。彼の出自、軍人としての戦歴、西南戦争、日清戦争、日露戦争、特に旅順攻略戦、そして明治天皇との関係など、乃木という人間を掘り下げていきます。なぜに彼は明治天皇に殉じるに到ったのか?一つの解答がここにあります。

 

 

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