2005年8月16日

環境省自然環境局西北海道地区自然保護事務所長 様

十勝自然保護協会会長 安藤御史

大雪山国立公園内の北海道自然歩道「東大雪の道」における

ヒグマへの対応に関する質問書

 7月12日,上士幌町のタウシュベツ橋梁付近に出没していた若いヒグマが射殺されました(北海道新聞2005年7月13日付けによる).殺害現場は大雪山国立公園特別地域であり,付近に人家などもないところです.また射殺されたヒグマが人に危害を加えたという情報もありませんでした.このような状況でしばしば目撃されたという理由から安易にヒグマを射殺することは,自然保護上問題ですし,自然公園法上も問題があります.

知床国立公園では,ヒグマの動きを頻繁に観察し,歩道付近に出没するヒグマをゴム弾や花火弾で威嚇して追払う対策をとったり,状況に応じて通行止めにして対処しています.大雪山国立公園の高原沼の遊歩道でも,ヒグマの出没状況を把握し状況に応じて通行を規制しています.このように国立公園ではヒグマの行動を見守りながら威嚇したり通行規制を行なうことにより,人とヒグマの共存をはかっており,射殺はさまざまな対策を講じても危険が回避できない場合の最後の手段とするのが今日の一般的な考え方です. その法的裏づけは,2002年に改正された自然公園法に求めることが出来ます.同法第三条第二項は国および地方公共団体に対し生態系の多様性の確保と生物の多様性の確保を義務付けています.

大雪山国立公園内の旧士幌線跡および丸山橋からタウシュベツ橋梁にいたる区間は,北海道自然歩道の「東大雪の道」として整備が進められています.タウシュベツ橋梁付近では昨年もヒグマがしばしば出没していました(北海道新聞2004年7月14日および同年7月21日付け).このため,当会は「東大雪の道」の整備を行なっていた十勝支庁に,昨年8月18日付けで「『東大雪の道』でのヒグマへの対応に関する質問及び要請」を送付しました(別添1).

これに対し,十勝支庁から平成16年9月10日付けで「標記要望書には北海道新聞の記事を根拠に『現実は危険であればただちに射殺や捕獲をするという状況にあります.』と記載されていますが,ヒグマとの共存を目指すべきであり,当課ではこのようなことは考えておりません.この点につきましては,上士幌町にも問い合わせましたが,町もこのような考えがないことを確認しております.」との回答がありました(別添2).したがって,今回のヒグマ射殺は,ヒグマとの共存という十勝支庁の方針にも反するものであることを指摘しておきます.

 大雪山国立公園内の「東大雪の道」予定地はどこもヒグマの生息地であり,今後も自然歩道で利用者がヒグマに遭遇することが予測されます.その際に今回のように射殺が行なわれるのであれば,自然歩道の整備を行なうこと自体が不適当であるということになります.

 環境省からの委託を受け自然歩道の開設に携わった十勝支庁は「ヒグマとの共存」を公言し,事業を進めました.この考え方は,環境省においても引き継がれなければならないものです.ついては次の2点について質問いたします.なお,回答は文書で8月31日までにお願いいたします.

1.大雪山国立公園内の自然歩道にヒグマが出没した際,自然歩道管理者である貴省はどのように対応するのでしょうか.

2.今回のタウシュベツ橋梁付近でのヒグマ射殺が自然公園法第三条第二項に照らし適切な対応であったと認識しているのでしょうか.