平成10年3月

遂に発見!究極のつわり克服法

 もう一昔前の話になりますが、私に「陣痛=(生理痛+腰痛)×5」の公式を教えてくれた友人が第1子を妊娠中のことです。彼女は会社を結婚退職する少し前に、気が緩んだのかどうか、子供を身ごもってしまいました。きちんとしたお家のお嬢様である彼女は「誰にも気付かれてはならない」と、意識していつもと変わらない様に振る舞っていたそうです。結果、つわりはほとんど無かったそうです。しかしその後(彼女は現在男の子3人の母ですが)2人目、3人目の時は、かなりきついつわりを経験したそうです。

 「つわりは甘え」「気の持ちよう」「妊娠は病気じゃない」などと、特に年配の、つわりの経験のないオバサン、時には子供を産んだことのないはずのオジサンまでもがおっしゃいますが、私はこれらの言葉に激しい反発を感じていました。「妊娠は病気じゃないが、妊婦は病人だ!」と事あるごとに主張し、いかにつわりが苦しいか、あらゆる描写を駆使して周りの人に伝えたものです。私は自分でいうのもなんですが、根性というものがかけらもありません。黙って何かに耐えるなどという芸当は到底できない。特に自分の肉体的な苦しみに関しては、非常に大げさで、すぐに「死にそう」という言葉を連発し、薬を必要以上に飲み、「うう」とか「ああ」とか唸りながらダンナに子供を押し付けて布団にもぐってしまいます。そもそも痛いのや苦しいのを黙ってがまんしても誰も褒めてくれません。特にうちのダンナは鈍感なので、目の前で少々大げさに「うう〜ん」としかめつらをしてやらないと女房が具合悪いのに気付かないのです。ですから結婚してからは、いつも必要以上に具合の悪いふりをするのが習慣になっています。もし「病は気から」「つわりは甘え」が真実だとしたら、私は自分でわざわざ症状を重くしていたことになるわけです。

 さて、いまだに、なぜデキたのだろう、あたしゃ聖母マリアかい、いや、とうちゃんの精子はゴムを溶かす酵素を持ってんじゃないの?と夫婦共々頭を傾げている今回の妊娠は、末の妹が結婚するので東京の実家に5歳、3歳、1歳の子供を連れて飛行機で帰省する直前に発覚(浮気じゃないんだからこんな言い方もなんですが)しました。また、例のバンドでライブをしようという企画も持ち上がっていました。何かと忙しくなりそうなので、間違っても妊娠はしないようにと(ありがたいことですが、妊娠しやすい体質なもので)気をつけていたにもかかわらず、絶妙なタイミングで赤んぼがやってくるのですから、本当にこれは授かりものと言えるかもしれませんね。
 さて、場面は妊娠発覚の現場に戻ります。自宅のトイレで陽性の妊娠検査スティックを見つめながら「なんでやねん?????」と一生懸命心当たりを頭の中で探し「どうしようどうしようどうしよう」とひとしきり動揺した後、目の前の現実を真摯に受け止めることにし(つまりは開き直り)私はあることを決心しました。

「誰にも言わんでおこう」

 妹の結婚式にも行きたいし、バンドもやりたい。しかし妊婦であることがバレたら、帰省はともかく、ドラムを叩くのは「よしなよ〜〜〜〜そんな人いないよ〜〜〜〜」と誰かに言われそうな気がしたからです。実際には、スキーをしようが、乗馬をしようが、産まれてくるやつは無事産まれてきますし(誤解のないように書き添えておきますが、私には一度ならず流産の経験があり、「何をしててもダメなときはダメ」と身をもって理解しているつもりでいます)「妊娠、出産大百科」の「妊娠中にしてはいけないこと」に「ドラムをたたく」とは書いてありませんから(あたりまえだ)大丈夫だと胸を張って言えないこともないのですが、やはり周囲の人はいろいろと心配するもんです。もちろんありがたいことなのですが。

 さらにもう一つの理由として、逆に誰もいたわってくれないという可能性が無きにしもあらず、ということでした。さすがに4人目ともなると、半分あきれ顔で「たくましいわねえ」とか「がんばるねえ」などと言われたあげく「ベテランだから大丈夫よね」とうれしくもない太鼓判を押されたりしかねないなと思ったのです。これはこれで腹が立つ。特に男性に言われたりした日にゃ〜、アンタねえ、と400字詰め原稿用紙で20枚分くらいは反論できる気がしますね。その都度その都度、いろんな事のある妊娠に慣れなどあるもんかね、けっ。
 しかしそんなことよりも、冒頭に述べた友人の話にヒントを得、つわりをなんとか軽く乗り切りたいという切実な思いがなにより大きくありました。思えば、胃薬の服用、食餌療法、漢方薬、ツボ療法、自律訓練法、獣医であるダンナに頼んでの点滴、などあらゆる方法を試しても、一向に軽快しなかった私のつわり。果たして、この大げさに騒ぎたてるハタ迷惑な性格が一因となっているのか。かくして多忙なスケジュールの中、ダンナにも知らせずにつわりの時期を迎え、自らをモルモットにした生体実験が開始されたのでした。

 その結果、くやしいことに「つわりは気のもちようである」という説を半分は(そうね、それでも47%くらいだね)支持せざるを得ないという心境に至りました。確かに忙しく動きまわったり、緊張していたりすると、つわりの症状はかなり抑えられる、ようです。そして今あらためて考えてみれば、そんなことはとうの昔からの常識で、ただ単に私一人が「そんなことないっ!!具合の悪い時は何してたって悪いっ!!」と言い張っていただけなのでした。がしかし、私と同じように、根性がなく、専業主婦で、家事育児をきちんとしないので暇があり、出血やお腹の張りなどの異常がなく、入院するほどではないがつわりがつらくてまいっちゃう、という方が少なからずいるはずで、そういう方はぜひ次回の妊娠の際、「妊娠をナイショにする」という方法をご一考ください。コツは「妊婦であることを忘れる」というあたりにありそうです。欠点として、あたりまえですが「いたわってもらえない」「文句がいえない」ということがありますので御了承ください。

 さて、その後わが家ではバンドのライブの3日ほど前に、とうちゃんが私のハンドバックの中にあった胎児の超音波写真をどういうわけか見つけてしまいました。これはなんだ?というので、「実は妊娠している。もう安定期に入っているのでたぶん無事産まれてくるだろうからその旨よろしく」と言ったところ、彼にしてはめずらしく驚いた表情を見せたので、やはり全く気付いていなかったようです。ばれないようにと気をつけていたのも確かですが、それにしたってつわりの最中ですから不審な行動(変な時間に変な物を食べたりしていました)も多かったんですけどね。
 現在妊娠7か月に入りました。頭痛や便秘や下痢や不眠や静脈瘤や腰痛その他あらゆるマイナートラブルに悩まされながら「これで最後」の妊娠生活を文句タラタラ過ごしている今日この頃なのでした。

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