最後の砦

〜無理難題を押し付けてみよう〜

ポイント
さあ、ついに「あの一言」が出ました。ここまでこぎつけた敵もあっぱれですが、最後にもうひとがんばりしてもらいましょう。「娘は君にやろう、そのかわり・・・」と最後の試練です。ここでは真剣に直してもらいたいところをあげてもいいですが、非のうちどころのない相手にはいわゆる「いいがかり」が必要です。ここにあげた作戦は、どんなに欠点のない相手にも通用するはずです。おためしください。お嬢さんの幸せのために、多少の努力はしてもらいましょう。

人間ドック作戦

B男 「お父さん、A子さんと結婚させてください」
父  「うむ、B男君。君はよくここまでわたしに付き合ってくれた。よろしい、娘は君にやろう。しかし・・・!」
B男 「は、はい?」 (まだ何かあるのかよ)
父  「その前に人間ドックで健康診断をしてきたまえ」
B男 「は?はあ、人間ドック・・・」
父  「結果を待っているよ」
B男 「・・・分かりました、はい」(釈然としない)

後日

父  「B男君、約束は守ってくれただろうね」
B男 「はい。結果を持って来ました。これです」

父   老眼鏡をかけ、受け取った紙を見る。

B男 「しかし、あれからいろいろ考えたんですがお父さんのこの提案には正直いって感動しました。A子さんのことを本当に心配してらっしゃるんだなあって・・・ぼくに健康診断を勧めてくださるとは、普通なかなかそこまで気付かないものですよね。けど考えてみればやはり幸せな生活は健康あってこそです。いや、本当にありがとうございました。ぼくなんか自分ではまだまだ若いと・・・」
父  (煙たそうに)「すまんがちょっとだまっててくれんか?」
B男 「・・・はい」(しょげる)

しばし沈黙

父  「この、体脂肪率だがねえ、男のくせに23%てのはちょっと多くないかね」
B男 「はあ、ぼく少し太りぎみですから・・・すみません」
父  「あやまらんでもいいがね、なんとかしないといかんのじゃないか?」
B男 「はあ、じゃ運動でもします」
父  「運動でも、ってのはなんだね。君はただ運動すれば脂肪が減るとでも思っているのか?甘いな、脂肪を減らすには脂肪を減らすような運動法でなけりゃいかんのだぞ」
B男 「はあ、そうですか。どうすればいいんでしょうか」
父  「教えてやらん。自分で調べたまえ。自分で調べてこそ知識となるんだ」
B男 「そ、ですね・・・」
父  「おや、君はA型なのかね」
B男 「はあ。家は全員A型です」
父  (沈痛な面持ちで)「家は全員B型だ・・・・・・まずいな」
B男 「な、なにか不都合でも・・・?」
父  「うん・・・いや、こっちの話だ。しかし・・・いや、気にしないでくれたまえ」
B男 「はあ。けどこればっかりはどうしようもないし。なんだろう?」
父  (かまわず)「う〜ん、この赤血球数、430万、少ないぞ」
B男 「けど、ぼく、異常なしって言われました」
父  「そりゃ医者は数字でしか見ていないからな。しかしB男君、君は男のくせに血の気が足りない面が多々ある。私はこの結果を見て『やはりそうか』と思った。赤血球数500万以上なけりゃ男とは言わん。なんとかしたまえ」
B男 「なんとかって・・・輸血でもしますか。はは」
父  (露骨に見下した風に)「B男君、君は病気でもないのに輸血してもらえると思っているのかね。非常識な」
B男 「けど、なんとかするったって・・・」
父  「レバーでも食いたまえ。まさかレバーが嫌いだなどと言わんだろうな、男のくせに」
B男 「は、はあ、まあ、あんまり好きじゃあないですけど、食えます」
父  「人間、努力すればかなわぬことはない。めざせ500万だ!」
B男 「・・・はい」(レバーで赤血球が増えるのか?)
父  「いかん!尿酸が7.8もあるではないか!こりゃいかん!」
B男 「尿酸てなんですか?」
父  「そんなことも知らんのかね。自分で調べたまえ」
B男 「けど異常なしって・・・」
父  「牛丼ばかり食ってるからだろう」
B男 「げげっっ。そうなんですか?」
父  「知らん。勘だ」
B男 「けど、確かに、正常値のぎりぎり上なんですよね。これ」
父  「うむ、このままでは3年後には確実に病気になるぞ」
B男 「え?尿酸てそんなに大事なんですか?」
父  「どれもこれも大事だろうがな、尿酸が高いのはよくないんじゃないか?やはり」
B男 「はあ、どうすればいいんでしょうか。やっぱり牛丼を・・・」
父  (無視)「よし、赤血球数と尿酸をなんとかしてきたまえ。結婚はそれからだな」
B男 「そ、そんな〜」
父  「お〜い、B男君、帰られるそうだ」



あとがき

娘が産まれるとすぐ「絶対嫁にやらない」と言う男、結構いますね。どの程度本気かは分かりませんが、中には冗談抜きのヤツもいそうです。それほど父親にとって娘ってのはかわいいモンらしい。その後25年も経つと「やっぱりいつまでも家にいられてもなあ」とその頃の決心はかなり軟化してくるものの、いざそういう事態に直面すると、実際約束の日に逃げちゃったりするお父さんはいるようですね。しかし反対に「お嬢さんをください」と言われて「どうぞどうぞ」とのし付けて差し出すお父さんも結構多いです。「ああ、いいお父さんだなあ」と思いきや、結婚式が近づくにつれてなんだか不機嫌になってきて、そのうちブチブチとどうでもいいことに文句をつけたりする。「やっぱり披露宴の料理が1万円じゃ安いんじゃないか?せめて1万2千円に・・・」なんて変更できない時期になってからゴネたりします。最後まで「いいお父さん」だったと思ったら、披露宴が終わってから古女房に抱きついて号泣したというカナシイお父さんの話も聞いた事があります。笑っちゃ悪いと思いつつも傍から見ていてこれほど面白い存在もないですね。これが嫁と姑になると一気に笑えなくなりますから、やはり男性というのはそれ自体が「可笑しくて、やがて悲しき」生き物なのでしょう。

私は3人姉妹の長女です。お陰様で3人ともまずまずの相手と結婚できましたが、順番に嫁に出すに当たっての父の変遷がこれまた面白かった。
私の今のダンナが挨拶に行ったときは、それこそ「どうぞどうぞ、こんな娘でよかったら」と上機嫌で秘蔵のブランデーを振る舞ったりしたものでしたが、すぐ下の妹の時は、別に反対されるような相手でもないのに「おれは賛成でも反対でもないからネっっ」なんて困ったことを言ってました。末の妹の時は、申し分のない相手であるにもかかわらず、やっぱり「最後のいっこ」だからなのか猫を抱いたまま布団にもぐって出てこない、という抗議行動に出たそうです。ぶははははは。
こういう話は母親と娘の間で爆笑とともにしつこく語られていきます(タチの悪い娘の場合、こうやってWEB上で実の父を笑い者にしたりします)から、それが嫌な人はいくら娘をやりたくなくても妙な行動は慎みましょう。くやしいでしょうけど、ね。ポンポン(肩を叩く音)

うちも娘が3人になりました。うちのダンナはどう転んでも娘の結婚式で泣くタイプではないのですが、つい先日「演出にもよる」と弱気な発言が出ました。特に「娘からの手紙」「花束贈呈」は大変危険である、と指摘していました。ちなみに私の父も「それだけはカンベンしてくれ」と言っていたので、3人ともやりませんでした。こっちだって照れ臭くてヤダけどさ。

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