ポイント
さあ、戦闘開始です。先方が「お父さんにお会いしたい」と言ってきた時点で、あなたの妻はすでに向こう側に取り込まれていると思ってまず間違いありません。そう、あなたに味方はいないのです。心してかかりましょう。まずは「逃げる」に尽きます。娘に「今日は絶対家に居てね」と言われたら、快く引受け、その後あの手この手で逃亡を計りましょう。最低でも3回は約束をすっぽかしたいところですし、敵もバカではありませんから阻止されることも前もって考え、念のためいくつかの作戦を用意しました。
A子 「ただいま〜」
B男 「こ、こんばんはあああ」(裏声)
母 「いらっしゃいB男さん」
B男 「あ、先日はドモ」
A子 「おとうさんは?」
母 (困り顔で)「あのねえ、実はお父さん、いなくなっちゃったのよ」
A子 「え〜〜〜??だって今日B男さんが来るってあれほど言っといたのに」
母 「どうも逃げちゃったみたいねえ」
A子 「んもう!お母さん、ちゃんと見張ってくれなくちゃ」
母 「ごめんなさいね。ちょっと目を離したすきにお勝手口から出てっちゃったみたいで」
B男 「いえ、気にしないでください。また出直しますから」(ため息)
A子 「ただいま〜」
B男 「こ、こんばんはあああ」(まだ少し裏声)
母 「いらっしゃいB男さん。こないだはご免なさいね」
B男 「いえ」
これ見よがしにデカイ音で電話のベルが鳴る
父、非常に素早い動きで受話器を取る
父 「はいっっ!はいっそうです。はい。え?えええええ????はい、分かりました、すぐ行きますっっっはい」ガチャン
父 「急用だ!スマン」
そのまま3人の脇を駆け抜け、外へ飛び出す。
A子 「ただいま〜」
B男 (どうせ今日も、と元気なく)「・・・こんばんは」
母 「いらっしゃいB男さん。こないだはご免なさいね」
B男 「・・・・・・いえ」
母 「今日は電話の線もさっき抜いたし、靴やサンダルも全部隠したし」
A子 「逃げ場はないわね」(母と顔を見合わせてにやっと笑う)
明らかに酔っ払っているとおぼしき複数の男性の声
「こんばんはあああああ」
「いやああ、奥さん、お久しぶり」
「ダンナ、いるんでしょ?どこ?」
母 「M崎さん、K上さん、N田さん・・・あ、今日はちょっと」
オヤジたちかまわず上がり込む
M崎 「あ、いたいた、みーっけ!」
K上 「さ、行こ行こ。例のとこ、ほら」
N田 「Y村さんがいなくちゃ話んなんねえや」
父 (笑いを噛み殺しつつ)「いや、君たち。スマンが今夜は大事な話が・・・」
M崎 「なあに言ってんのっYちゃん!そんなのアトアト」
K上 「担いでっちゃえ、めんどくさい!!」
N田 「そおれ、よいしょ」
父、3人におとなしく担がれる
M崎 「じゃ、奥さん、ちょっとお借りしますよ〜スイマセンね〜」
3人、酔っ払いのわりにはしっかりした足取りで玄関を出る
A子 「ただいま。お父さん、どう?」
母 「大丈夫。今日は不審な動きはないわ。あ、B男さん、そこの和室へどうぞ」
B男 (いよいよか?)「こんばんは」
父 「あ、どうぞ。入ってくれ給え」
B男 (緊張のあまり、オカマのような手つきでふすまをあける)「失礼しまあ・・・!!!」
黒板消しがB男の脳天を直撃。あたりにたちこめる白煙。
B男 「ぶほっっげほっっ」
A子 「だ、だいじょうぶ?!!ちょっと、おかあさんタオル!」
父 白煙をかくれみのに逃げる
A子 「ただいま。どう?敵の様子は」
母 「一日見張ってたけど、今日はいやに静かなのよ」
A子 「・・・不気味ね」
母 「いいかげん観念したのよ、きっと。さ、B男さんどうぞ」
B男 (ふすまを開けつつ)「し、失礼しま・・・!!」
なにか黒いものがB男の脇を飛んでいった
父 「うわああ、逃げた!!1万2千円もしたカブトムシがあああ」
B男 「え?うわ!大変だ、どこ行った?」
A子 「台所の方よ」
母 「いたわ、電灯の傘に止まってる」
父 この騒ぎに乗じて逃げる