永井路子さんの作品

 永井路子さんは大正14年東京生まれ。東京女子大学国文科卒業後小学館に入社し、「女学生の友」「マドモアゼル」の編集者をつとめた。夫は歴史学者の黒板伸夫氏。小学館時代から歴史小説を執筆し始め、昭和36年に「マドモアゼル」の副編集長で退社。昭和39年「炎環」で直木賞を受賞しました。

 永井路子歴史小説全集(全十七巻 中央公論社刊)が欲しいのですがまだ手に入れていません。今後さらに作品紹介を加えたいと思います。

『三條院記』
 永井路子さんが27歳の時、サンデー毎日の100万円懸賞小説の歴史部門第二席に入賞した作品です。のちに書かれる「この世をば」とは逆の立場で藤原道長に翻弄される三条天皇の姿を描いています。第一作とのことで紹介したいのですがまだ読んでいないのです。

『美貌の女帝』 文春文庫
 壬申の乱の後、持統、元明、元正と三人の女帝が登場します。いずれもいわゆる中継ぎとして登場したと言われている天皇ですが、この中の元正天皇がこの小説の悲劇のヒロインです。壬申の乱後も絶えることのなかった天皇家における蘇我氏の血が藤原氏にとって変わられる過程を描きます。氷高皇女(のちの元正天皇)、吉備皇女とその夫になる長屋王に課せられた運命に感動しました。奈良に旅行に行ったとき、SOGOデパートを見てここに長屋王邸があったのかとしみじみとしてしまいました。

『裸足の皇女』 文春文庫
「冬の夜、じいの物語」「裸足の皇女」「殯の庭」「恋の奴」「黒馬の来る夜」「水城相聞」「古りにしを」「火の恋」「妖壺招福」の九篇からなる短編集です。最初の「冬の夜、じいの物語」は欽明天皇、蘇我稲目、馬子の時代で最後の「妖壺招福」が平安初期と、その間の時代を舞台にしています。表題作の「裸足の皇女」は天智天皇の娘であり、大津皇子のきさきである山辺皇女が主人公です。黒岩重吾さんの「天翔ける白日」と同じ時代ですね。いろんな主人公の視点から見たこの時代はおもしろい、ちょうど「美貌の女帝」とも同じ時代にもなります。

『氷輪』 中公文庫
 渡来僧鑑真、時の権力者藤原仲麻呂、女帝孝謙を軸に宗教、政治を永井路子さんらしい視点で捉えています。歴史上の人物も一人の弱い人間であったことを忘れてはいけないんですね。特に女帝孝謙と一般に巨根の怪僧と言われる道鏡の描き方は、黒岩重吾さんの「弓削道鏡」と比較するとなんともおもしろいです。

『王朝序曲』 角川文庫
 藤原北家隆盛の基礎を築いた藤原冬嗣の物語です。藤原4家(北家、南家、式家、京家)の中での権力争いが激化した時代、冬嗣の兄真夏とそのライバル藤原緒嗣の間の政争を一歩離れて見守っていた冬嗣が時の流れに乗り巧みな政治感覚で強大な権力を手中にしていきます。同じ家系からこれほど政治感覚に優れた人物が数多くでたのはなんとも不思議です。次の「この世をば」と合わせて読んでみるといいでしょう。

『噂の皇子』 文春文庫
 「噂の皇子」「桜子日記」「王朝無頼」「風の僧」「双頭のぬえ(空に鳥)」「二人の義経」「六条の夜霧」「離洛の人」の八篇からなる短編集です。表題作の「噂の皇子」は三条帝の第一皇子敦明が主人公です。永井路子さんの代表作である『この世をば』そしてデビュー作である『三條院記』とまったく同時代を別の主人公の目から描いています。非常にすばらしい作品です。王朝三部作と言われる長編とともにぜひとも読んで欲しい作品のひとつだと思います。「桜子日記」は和泉式部のそばにいた女性が主人公でこれも非常にいい作品です。

『この世をば』 新潮文庫
 「この世をばわが世とぞ思う・・・」と自信で詠んだ藤原氏の中でももっとも権勢を誇った藤原道長を、これも永井路子さんらしい視点で捉えた傑作です。道長は時の最高権力者兼家の末っ子として生まれましたが、卓抜な能力を持つ長兄道隆は権力を集中しその権力によって自分の息子伊周、隆家の官位を引き上げます。年少の甥に出世を追い越され不遇な時代を過ごした道長は流行病に倒れた兄たちのあと、権力をわがものとしていきます。巧みな政治能力を持ちながら中枢と一歩離れた場所にいた主人公がいったん時の流れを掴んだのち、一気に全てを手に入れていく様は「王朝序曲」における冬嗣と共通するものがあります。

『望みしは何ぞ』 中央公論社
 「王朝序曲」「この世をば」につづく平安朝三部作の三作目となります。「王朝序曲」では藤原冬嗣が藤原摂関政治の基礎を作り、「この世をば」では隆盛を極めた藤原道長を描きました。この「望みしは何ぞ」では、藤原氏が最も権力を握った道長の時代から白河天皇が院政を開始するまでを扱っています。主人公は道長の息子である藤原能信。道長の後を嗣いだのは頼通ですが、彼とはいわゆる腹違いの弟です。母の違う頼通、教通らに出世で大きく遅れをとっていく主人公は対抗意識を燃やし、権力を握ることに一生を捧げました。しかし、そんな彼の行動は意図とは別に結果的に白河上皇による院政の基を作ったことになり、それによって藤原氏から権力が離れ新しい時代が幕明けていくこととなりました。
 この平安朝三部作は「美貌の女帝」とともにわたしの最も好きな作品です。

『絵巻』 新潮文庫
 「望みしは何ぞ」につづく源平時代の朝廷を扱った少し変わった形態の連作小説です。平忠盛(平清盛の父)、丹後局(後白河の寵姫)、平知康(時の権力者であった後白河、源義経、源頼家に次々とすり寄っていった鼓の名手)、源通親(女性関係を巧みに利用して権力を掴んだ久我源氏)、藤原兼子(後鳥羽の乳母として権力をわがものにした)を主人公にした5作を平治の乱で殺された信西入道の子で後白河に仕えたの日記を詞書としてつなぎ合わせています。彼らの逞しさにはもう言葉もないという感じです。

『雲と風と 伝教大師最澄の生涯』 中公文庫
 比叡山天台宗を開いた最澄の生涯を描いた作品です。永井路子さんは「氷輪」で、最澄より少し前の時代になる鑑真を主人公に仏教世界を書いていますが、こちらはそれをさらに発展させた内容となります。一緒に渡唐しのちに高野山を開いた空海とはつねに比較の対象となりますが、小説でも他の多くの作品に空海は登場しています。この二人の描き方は作品によってずいぶんと異なっていますね。永井路子さん独特の二人の解釈は他の作品と読み比べると興味深いものがあります。個人的には空海の方に魅力を感じるかな?

『波のかたみ 清盛の妻』 中公文庫
 平清盛の妻、平時子を主人公とし、乳母という制度から平氏の時代を見直した作品です。平家物語でしか馴染みのない時代でしたが、これを読んで目からウロコという印象です。強烈な印象を残すとともに、永井路子さんの最高傑作と言っていい作品ではないでしょうか。平家の側から見れば東国からの反乱はいかに理解しかねるものであったか、平家が無能だったのでは決してないことがわかります。永井路子さんは短編で、平忠盛や徳子(建礼門院、寂光院)などの平家一族を取り上げていますし、「平家物語の女性たち」でも現実、架空の人物をいろいろと取り上げておもしろい解釈をしています。

『寂光院残照』 集英社文庫
 「右京局小夜がたり」「土佐坊昌俊」「寂光院残照」「ばくちしてこそ歩くなれ」「頼朝の死」「后ふたたび」の六篇からなる短編集です。表題作は、平清盛の娘で安徳天皇の母である寂光院(建礼門院徳子)の壇の浦後をちょっと皮肉っぽく描いたおもしろい作品です。『絵巻』で登場する静賢法印の妹にあたり寂光院につかえる女性の目を通して、後白河法皇、寂光院などの人物が語られています。「右京局小夜がたり」は源実朝を彼の妻の侍女がのちに語るという形式をとっています。形式としては太宰治の「源実朝」を思い出します。

『炎環』 文春文庫
 永井路子さんが直木賞を受賞した傑作です。「悪禅師」「黒雪賦」「いもうと」「覇樹」の四編が連作となった少し変わった形式の作品です。「悪禅師」は源頼朝の弟の僧全成、「黒雪賦」は梶原景時、「いもうと」は北条政子の妹で全成の妻となった保子、「覇樹」は北条義時が主人公となり、武士の時代の幕開けとなった時代を見事に描いています。いずれも頼朝や政子に比べこの時代の脇役と言える人物たちですが、彼らの野望、生き様がこの時代をよく表現しているように思います。

『つわものの賦』 文春文庫
 これもわたしがかなり好きな作品の一つです。他の多くの作品とは少しちがった趣ですがぜひ読んでもらいたいですね。関東武士が頼朝とともに立ち上がってから承久の乱を通して北条政権が確立するまでの時代を書いています。この時代を永井路子さんがわかりやすく解説し、とてもよみやすい内容になっています。戦国の頃とは随分ちがった東国武士が多少理解できるかもしれません。戦国にくらべても、太平記の時代にくらべてもさらに人気のない時代ですが知れば知るほどおもしろくなります。

『北条政子』 角川文庫
 鎌倉幕府を開いた源頼朝の妻、北条政子を主人公としています。尼将軍とも言われ、頼朝の死後実権を握ったとされる人物です。しかし、この作品での政子は東国に生まれたごく普通の女性として描かれています。夫の浮気に嫉妬し、夫の出世よりも平穏な生活を望む一人の女性でありながら、運命はどんどん彼女を押し流します。彼女は自分の子どもたちすべてに先立たれました。木曽義仲の嫡男義高という婚約者を父に殺された大姫、頼朝の後を嗣いだ頼家は彼女みずから謀殺しなければなりませんでした。天皇家との架け橋として期待された三幡は早世しました。三代将軍となった実朝は頼家の遺児公暁に暗殺され、その公暁もこの事件で殺されています。(この事件の黒幕を作者は三浦義村としています。)自分の血をひく子どもたちの悲劇的な最後を目の当たりにしなければならなかったのにかかわらず、彼女は頼朝の妻として幕府を支えていくのです。この作品の中では政子は北条側の人間としては描かれていません。永井路子さんは「炎環」でもそうであるように、北条四郎義時(政子の弟です)を非常に有能な人物とし鎌倉幕府(北条政権)を確固たるものにした功労者としています。

『源頼朝の世界』 中公文庫
 源頼朝そして彼と同時代を生きた様々な人々を描く作品です。これは上の「北条政子」とともにNHK大河ドラマ「草燃える」の原作となった作品でもあります。源頼朝を取り巻く人々、東国武士たち、そして西国の権謀に長けた貴族たちがそれぞれ登場します。

『執念の家譜』 講談社文庫
 七編からなる短編集です。表題作「執念の家譜」は源頼朝旗揚げから戦国時代まで、三浦一族の執念を描いた作品です。他に曽我兄弟の仇討ちを扱った「裾野」、松永久秀の「信貴山落日」、長谷川等伯の「群猿図」、小早川秀秋の「裏切りしは誰ぞ」、宮部長煕の「関ヶ原別記」、山口重政の「刺客」と歴史上はマイナーと思われる人物を主人公にしていて、知らないことも多いだけにおもしろいです。小早川秀秋には同情してしまいます。

『銀の館』 文春文庫
 室町時代、8代将軍足利義政の妻となった日野富子を中心とした作品です。のちに戦国時代につながる応仁の乱の頃の話です。ちょっと前の大河ドラマ「花の乱」と同じ時代ですね。このドラマでは確か三田佳子が日野富子でした。(少女時代は松たか子でしたね。確かデビュー作だったような・・・。)かなり脱線しますが、このドラマは非常に期待していたのに、ライバルである山名宗全と細川政元の役をやった萬屋綿之介と野村万斎(最近はあぐりで大人気ですね。)の役者としての重みのちがいが大きすぎたのが全体に響いてしまったような気がします。比べるのがかわいそうですけど。(わたしは萬屋綿之介の大ファンでした。)

『姫の戦国』 日本経済新聞社
 京の公家の家に生まれ当時の有力な戦国大名であった駿河の今川氏親に嫁ぎ、のちに有名になる今川義元を生んだ女性が主人公です。(話がずれますが今川義元の評価が桶狭間一戦で評価されるのはかわいそうですね。これを読むと少し今川びいきになります。)織田信長以前の戦国時代は一般にはあまり知られていないかと思いますが、信長の時代に今川義元が相当な力を持っていたことは桶狭間によって知られているでしょう。その義元以前に守護大名から戦国大名に変遷する過程で主人公の強さが生きてくるのです。

『朱なる十字架』 文春文庫
 主人公は細川ガラシャ、明智光秀の娘で細川忠興の妻となり、関ヶ原前夜、西軍の人質となるのを嫌って命を絶った女性です。(この作品中では少し違った見解をとっていますが)永井路子さんらしく自分をしっかり持って時代に翻弄されるだけではない強い女性として描いています。わりと短めの作品です。

『一豊の妻』 文春文庫
 「御秘蔵さま物語」「お江さま屏風」「お菊さま」「あたしとむじなたち」「熊御前さまの嫁」「一豊の妻」の六編からなる短編集です。御秘蔵さまは徳川家康の側室お梶。お江さまは「乱紋」の主人公でもあります。お菊さまは有馬直純の妻だった女性。あたしは古河の住む百姓の娘。熊御前さまは徳川家康の長男で織田信長の命で自害させられた信康の忘れ形見。一豊の妻は貞女として名を残す山内一豊の妻が主人公です。作者はこの作品を「戦国おんな絵図」と呼んでいます。戦国という時代に翻弄されただけではなくしたたかに生きた女性たちをいきいきと描いているように思います。

『流星 お市の方』 文春文庫
 織田信長の妹で政略結婚で浅井長政の妻となった有名な女性です。浅井長政はのちに織田信長に敵対し、反信長陣営に加わったため結果的に滅ぼされることになりました。落城の際、三人の娘は助けられましたが嫡男万福丸は捕らえられ殺されています。そののち、柴田勝家に再嫁し北庄城落城とともに夫と自殺しました。永井路子さんらしく、戦国の女性にも主体性をもたせ家のために犠牲になっただけとは描いていません。柴田勝家に嫁ぎ、秀吉との戦いを挑んだのは彼女自身の意志と解釈しています。

『乱紋』 文春文庫
 浅井長政とお市の方(言うまでもなく織田信長の妹です)の間に生まれた三姉妹(男子もいましたが信長に処刑されていますね)の末っ子おごうの数奇な運命を描いています。三姉妹の長女はあまりにも有名な淀君ことお茶々(豊臣秀吉の側室となり秀頼を生みました)、次女は京極高次の妻となったお初(大坂の陣の際には秀頼の母であるお茶々と秀忠の妻で千姫の母であるおごうを姉妹とするため微妙な役割を果たしました。)です。信長の姪として生まれ、父が殺されたのちは秀吉の保護のもとで二度の結婚を経験し、三度目の嫁ぎ先が徳川二代将軍である秀忠であったというのですから、これほどの波瀾万丈な女性が他にいるでしょうか。彼女は三代将軍家光、その家光との相続争いに敗れ自害させられた駿河大納言忠長、豊臣秀頼の妻となった千姫、のちに天皇の生母となった和子の母でもあります。

『山霧』 文春文庫
 平成9年のNHK大河ドラマ「毛利元就」の原作です。吉川家から毛利に嫁いだ主人公は永井路子さんの小説のヒロインが概ねそうであるように強くたくましい女性です。元就が手伝い戦から開放されるのは妻が死んだ後のことです。小説では国人領主として尼子、大内に挟まれながら巧に生き抜いていく男女の様を描いています。有名な三本の矢については逆にそれだけ仲の悪い兄弟を持った元就が苦労したのだと言う解釈をしています。ドラマの方はみいが死んでからはおもしろくないですね。ここからは原作にはないオリジナルになりますが、長男隆元を中心とした人間ドラマはちょっと・・・。

『元就、そして女たち』中公文庫
 元就を支えた女性たちに焦点を当てて、元就の戦国を描き出した作品です。大河にも登場した、元就の父広元の後家である「大方」(ドラマでは松坂慶子、元就の母ではない)、元就の正室で吉川家出身の「おかた」(ドラマでは富田靖子)、その他、「おかた」の死後に元就を支えた側室や嫡男隆元の正室などが登場します。いずれも戦国という時代に翻弄されるだけではなく、自らの意志で行動した強い女性たちです。

『王者の妻』 PHP研究所
 豊臣秀吉の正妻ねねを主人公とした作品です。籐吉郎がおねねに求婚するところから始まり、大坂の陣で豊臣家が滅ぶまでを描いています。この作品の中で秀吉は決していい男ではありません。夫が敵を倒せば倒すほどにおねねの敵は増えていきます。すべての権力を手にしたときにその人物の本性があらわになると作者は言います。秀吉の晩年のくだらなさ、天皇の落胤説などの出自の改ざんや多くの妻妾への溺愛など醜いことこの上ないという感じです。また、徳川家康の晩年も陰湿で醜いものと描かれています。逆に秀吉の縁者でありながら権力にまったく固執しなかった、おねねの兄家定、その長男勝俊はさわやかな印象をあたえています。(ただ無能な人物であったとしているのではありません、念のため。勝俊の弟、木下利房、小早川秀秋はそうではないのですが・・・。)

『わかぎみ』 新潮文庫
 「わかぎみ」「母子かづら」「夢の声」「海の月」「海から来た側女」「大きなお荷物」「ミサンサイ物語」「声なき村からの便り」の八篇からなる短編集です。時代はみんな江戸で、どれも歴史小説というよりはいわゆる時代小説の領域にある作品で、読んでもらえればわかるのですが永井作品としては異色のものが多いと思います。永井さんは男と女を描いてもすごいぞ、というところを存分に見せていますよ。

『葛の葉抄 -あや子、江戸を生きる-』 PHP研究所
 「赤蝦夷風説考」の著者として有名な仙台藩医工藤平助の娘で、のちに仙台藩士只野行義の妻となった只野真葛を題材とした小説です。彼女は身の回りに次々と不幸が襲いかかりながらその苦難に耐え、「ひとりかんがへ」「むかしばなし」などの著作を残しました。永井路子さんは戦国物では政略結婚で他家へ嫁いだ女性の外交官的な役割をいくつかの作品で書いていますが、この作品ではこれまで何となく怪しい世界だった大名屋敷の奥へあがる女性を新しい視点で描いています。たぶん歴史の中でも相当に女性が抑圧されていた時代にこんな女性もいたんですね。

『悪霊列伝』 新潮文庫
 死んでのち悪霊となった人物たちを取り上げた物語です。六つの話からなり、吉備内親王(草壁皇子の娘で長屋王の妻)、不破内親王(聖武天皇の娘、ただし光明皇后の娘ではない)、早良親王(桓武天皇の弟)、伴善男(応天門の変で有名な)、菅原道真(説明の必要なし?)、藤原顕光(藤原道長のいとこにあたる)を主人公としています。奈良、平安の時代にいわゆる政敵に陥れられ不遇な最後を遂げた人物たちですが、どのようにしてなぜに悪霊として恐れられたのか。のちの世が悪霊を作り上げたんですね。

『続悪霊列伝』 新潮文庫
 「悪霊列伝」では王朝時代の悪霊について扱っていますが、この続編は中世、近世の武家社会の悪霊を取り上げています。有名な平将門をはじめ源頼朝、楠木正成、徳川家斉といった悪霊と聞くとちょっと意外な人物も入っています。家斉と言えば50年にもわたって君臨し大御所政治を行い、徳川将軍随一の子沢山(育ったのはずいぶん少なかったようですが)で有名ですよね、彼が悪霊に悩まされるなんて(彼が悪霊になったのではありません)。

『闇の通い路』 文春文庫
 平安末期から鎌倉にかけての時代を描いた八編からなる短編集です。歴史書の中にわずかに登場するのみの人物も大きな変革期を生きた人間として少なからず時代に影響されていくさまを主に描いています。時代の主役ではなかった人物たちについてわれわれが知ることはほとんどありませんが、そんな人物たちの生き方を垣間みることができるようです。

『歴史をさわがせた夫婦たち』 文春文庫
 表題の「歴史をさわがせた夫婦たち」のほか「江戸の夫婦たち」「離婚とヤキモチ」として12の小作品からなっています。藤原道長のように長編小説の題材となった夫婦も登場していますし江戸の芸術家夫婦、王朝貴族の夫婦関係などいろいろな側面から意外な日本の男女関係を紹介しています。現代の道徳をまったく当てはめることのできない人々に新鮮な驚きがあります。

『平家物語の女性たち』 文春文庫
 いってみれば平家物語にとっては脇役である女性たちに注目し、有名な建礼門院はじめ十二人の肖像を描いています。作者はこれを「平家女人探訪」と読んでいます。平家はもともとあまり女性をいきいきとは描いていません。女性にとっても激動の時代であったわけですからもっと人間味のある人物が登場してもいいのにと思います。わたし自身、平家物語を通読(原文では読めないのでもちろん口語訳ですが)したことはありません。学生の頃にかなりの部分は読みましたけど、あんまり憶えてません。そのうち一度は通読してみたいと思いました。

『わが千年の男たち』 文春文庫
 歴史をさわがせた女たちの男性版です。蘇我入鹿、吉良上野介、徳川吉宗、遠山金四郎などの有名な人物をそれぞれ紹介しています。どの人物もやたらと逸話の多い人たちですがこれがどうも信用が置けない。著明でありながらその実体をあまり知られていないこの人物たちの素顔を永井路子さんの推理も多少まじえて軽快に綴っています。

『歴史の主役たち 変革期の人間像』 文春文庫
 古代から中世、南北朝の変革期に活躍した様々な歴史の主役たちを、永井路子さんの独自の視点で描いています。伴善男、源義家、平忠盛、清盛、源頼朝、後醍醐天皇、文観、楠正成、足利義満、義政、富子など多くの人物が登場します。

『太平記紀行』 中公文庫
 やや変わった構成になっています。太平記の史跡を巡る紀行ものですが、楠正成とは何者なのかというのを軸に謎解きのようにストーリーが展開されます。戦前の大忠臣でも、戦後の悪党でもない、正成の実体は?

『異議あり日本史』 文春文庫
 いろいろな時代のいわゆる定説となっている歴史に異議を唱えるという内容です。異議あり近世史、異議あり中世史、異議あり古代史の三部に分かれ、それぞれに何人なの人物が登場します。近世史の「維新をにらむ」はなかなか大胆な内容です。一部の人は逆上しちゃいそう。新撰組をこき下ろしています。このページにも新撰組ファンが多く来てくれているので言いにくいんですが、わたしも新撰組をもてはやす気にはなりません。
 その他、南北朝期の北朝の天皇である光厳天皇や額田王、長屋王と吉備、氷高内親王などひじょうにおもしろい作品です。

『日本の亭主五十人史』 文春文庫
 タイトルの通り、古代から近代までの歴史上の有名人五十人の亭主像であります。藤原鎌足から小林一茶までいろんな時代の人物が登場します。よく知られた人物でも、あまり知られていない一面が紹介されていて楽しめます。永井路子さんの好みの夫像が見えてくるようでおもしろいです。

『日本史にみる女の愛と生き方』 新潮文庫
 こちらは歴史に名を残した女性たち33人の実像を作者らしい視点で描いています。千姫、建礼門院徳子なんかの悲劇のヒロインはボロボロにこき下ろされています。ただ波に流されるだけの女性ではなく例え戦国時代であっても人生を切り開いていくことの女性の方が確かに魅力的ですよね。「日本の亭主五十人史」とペアで読みましょう。

『愛に生きる 古典の中の女たち』角川文庫
 数々の古典に登場する女性たちの様々な愛について、永井路子さんなりの解釈を加えて書き綴ったものです。全16篇からなります。「万葉集」から「雨月物語」までいろいろな時代の女性が登場します。わたしにはちょっと・・・、の内容でした。女性向けかな?

『旅する女人』集英社文庫
 古代から江戸時代まで4人のいろいろな旅をした女性にスポットを当てます。有名な持統天皇の吉野への旅そして吉野からの旅、「更級日記」作者の菅原孝標の女が少女時代、上総介だった父とともに京都に帰る旅、「とはずがたり」作者の二条が愛憎の果てに出た旅、信州の酒造家の主婦である沓掛なか子の札所めぐりの旅、時代によって、負っている人生によって様々な旅の足跡を追います。

『わが町わが旅』中公文庫
 「鎌倉の春秋」「大和路散策」「旅への思い」の三部からなります。鎌倉は永井路子さんが長年住んでいる土地だそうで、そこにあふれる歴史の面影を綴っています。鎌倉へ旅行する際には読んだほうがいいかもしれませんね。わたしは鎌倉には大学の時に一度だけ行ったことがあるのみです。その時に、将来絶対にここに住みたいと強烈に思ったことを思い出します。

『古典を歩く7 「平家物語」を旅しよう』講談社文庫

『長崎犯科帳』 文春文庫
 「長崎犯科帳」「みのむし」「死ぬということ」「青苔記」「下克上」「さなだ虫」「応天門始末」の七編の短編集です。「青苔記」は明智光秀の娘(細川ガラシャの姉にあたる)、秀姫が主人公です。筒井順慶の養子筒井定次に嫁いだ時から順慶が死ぬまでを描いています。順慶は知っているようで知らない人物でした、この作品中では以外な人物として登場します。「下克上」は永井路子さんのかなり初期の作品です。嘉吉の乱、赤松満祐による足利義教殺害を描いています。

『茜さす』 新潮文庫
 永井路子さんにとってはじめてで最後(?)の現代小説です。現代に生きる国文科の女子大生友田なつみと持統天皇、二人をとりまく人々を通して、女性の自立、恋愛などをテーマにした小説になっています。現代と古代がうまく絡み合って何とも言えずすばらしい長編に仕上がっています。「美貌の女帝」「この世をば」なんかと並んで、わたしのもっとも好きな作品に入ります。

『うたかたの』 文春文庫

『よみがえる万葉人』 文春文庫

『新・歴史をさわがせた女たち』 文春文庫
 推古天皇から絵島(絵島生島事件の)まで12人の女性が主人公。中には永井路子さんの傑作長編小説「美貌の女帝」の元正天皇と「波のかたみ」の平時子の二人も登場します。

『歴史をさわがせた女たち 日本篇』 文春文庫
 神功皇后から若江薫子(幕末の人です)まで33人の女性たちが描かれます。歴史が好きな人も、あまり興味ない人も楽しめる作品です。

『歴史をさわがせた女たち 庶民篇』 文春文庫

『歴史をさわがせた女たち外国篇』 文春文庫
 ローマ帝国時代にはじまってたくさんの歴史上有名な女性たちが登場します。ぜんぜん聞いたこともない人物からエリザベス1世、西太后、マリーアントワネットのような誰でも知っている女性まで、強い女、怖い女、まあ世界にはいろんな女性がいたんですね。日本篇よりもスケールが大きいかも。イギリスのエリザベス1世、ロシアのエカテリーナ2世、オーストリアのマリアテレジアなんてすごいですね〜〜。比肩できるのは持統天皇くらいか?

『日本夫婦げんか考』 中公文庫

『はじめは駄馬のごとく』 文春文庫

『時宗の決断』中公文庫
 21世紀最初の大河ドラマ「北条時宗」放送に合わせて出版されたものです。「歴史と人物」1978年2月号特集「北条時宗と蒙古襲来」を再構成したものです。永井さんは時宗を高く評価しているようですが、それは今も変わらないのでしょうか? 興味あります。

 

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