大雪山国立公園の問題

        大雪山国立公園管理計画案に係る意見

【参考・追記】十勝自然保護協会は電子メールにて次のように送付してあります。
Date: Fri, 16 Mar 2007 23:05:37 +0900
To: REO-HOKKAIDO@env.go.jp
From: kagami <nacs-t@north.hokkai.net>
Subject: 大雪山国立公園管理計画案に係る意見
Cc: kagami@hokkai.or.jp, nacs-t@north.hokkai.net

大雪山国立公園管理計画案に係る意見

環境省北海道地方環境事務所 国立公園・保全整備課 御中

十勝自然保護協会会長 安藤 御史

080−0101 北海道河東郡音更町大通10丁目5番地 佐藤与志松 方
Tel & Fax 0155−42−2191

 

1.今回のパブリックコメントの時期について

要約 今回のパブリックコメントは予定から大きく遅れて年度末となったが,国民の意見を真摯に聞く姿勢がない.意見がどのように反映されたか明らかにするよう求める.

意見および理由

 今回のパブリックコメントは2006年12月に実施される予定であったものが,大幅に遅れて2007年2月20日となった.しかし公表された計画案は検討会に出されていたものと大きく変わっているとは思われず,遅れた理由が理解できない.また,北海道地方環境事務所に問合せたところ「プレスリリースも行う」とのことであったが,シェアのもっとも大きい北海道新聞にも掲載された形跡がない.

 この管理計画案の確定を年度内に行う予定であるなら,意見募集を締め切ってからたったの10日ほどしかなく,十分な検討を行うのは不可能である.環境省のこのような進め方は,国民の意見を真摯に聞く姿勢がないことを証明しているものである.

 国民の意見がどのように反映されたのか,HPなどを通じて具体的に明らかにしていただきたい.

 

2.意見募集の範囲が不適切であることについて

要約 管理計画全体についての意見募集をしないことは理解できない.その理由を明らかにすることを求める.

意見および理由

今回のパブリックコメントは,資料も加えると89ページに及ぶ管理計画案の中の「5.公園事業及び行為許可の取扱に関する事項」だけである.管理計画案は「管理の基本方針」や「自然環境の保全」,「利用の制限」などの重要な項目があり,これらは「公園事業及び行為許可」にも密接に関係している.それにも関わらず,「公園事業及び行為許可」の部分しか意見募集をしない理由が理解できない.なぜ管理計画全体についての意見募集をしないのか,HPなどを通じて理由を明らかにしていただきたい.

 

3.27ページ (2)車道 ?基本方針

要約 特別保護地区ならびに第一種特別地域を通過する車道の建設を行うべきではない.

意見および理由

「特別保護地区および第1種特別地域を通過しなければ施業地へ到達できない場合は,別途調整をはかる」とのことであるが,特別保護地区は厳重に保護すべき区域である.また第1種特別地域の大半は特別保護地区をとりまく地域や高山帯であり,このような厳しい気象条件の場所で施業や車道建設をした場合,復元が極めて困難である.このような地域はもとより国立公園内の天然林で施業を行うべきではなく,深刻な自然破壊を招く車道を建設することも当然許可すべきではない.この部分を削除することを求める.

 

4.28ページおよび38ページ 車道の法面

要約 植生袋による緑化ではなく,在来種による緑化を検討し,現在,外来種の繁茂している法面についてはそれを除去して在来種に置き換えること.

意見および理由

「地形が全体に急峻で法面を構造物で抑える必要がある場合は,木製法枠工及び軽量法枠工法,木本類による緑化が可能な工法を使用する.さらに急勾配でそれらの工法を使用できない場合は,フリーフレームを採用する.この場合,植生袋による緑化を実施する」とのことであるが,植生袋による外来種を用いた緑化は不適切である.このようなところでは,ササなどの在来種による緑化を導入することを求める.また,すでに牧草,イタチハギ,エニシダ,キヌガサギク,ルピナスなどの外来種が繁茂している法面は生態系の撹乱につながるだけではなく,セイヨウオオマルハナバチを誘引する危険性があるので,早急にこれらを除去し,ササや在来樹木に置き換えることを盛り込むよう求める.

 

5.29ページ (3)治山及び砂防施設

要約 生態系に悪影響を与える治山ダムや砂防ダムの建設は,原則として認めないこと.

意見および理由

治山及び砂防施設は「?層雲峡峡谷地区以外の特別保護地区については原則として認めない」としているが,これは特別地域と層雲峡峡谷の特別保護地区では認めるということである.しかし,治山ダムや砂防ダムで土砂が堰き止められることにより,ダムの下流で河床低下,河岸崩壊が生じていること,ダムへの土砂の堆積が問題になっていること,さらにコンクリートの耐用年数を考えるならいずれ撤去せざるを得ないことなどを考えると,治山ダムや砂防ダムは撤去が求められるのであり,これ以上新設すべきではない.したがって,「原則として認めない」とすべきである.

 

6.31ページ 2木竹の伐採

要約 国立公園の天然林は過去の伐採で生態系が大きく破壊されてしまったので,伐採を中止して復元を図ること.また希少野生動植物の保護のため調査を義務づけること.

意見および理由

?の方針は特別保護地区での施業を是認し,新たな作業道や土場の設置も是認する内容であるが,現状は大径木の大半が伐り尽くされ,蓄積量は原生状態の半分程度になっているところが大半と推測される.国立公園内の森林がこのような状況になっていることは恥ずべきことである.したがって天然林でこれ以上の伐採を認めるべきではない.今後は土場や使用しなくなった作業道などを復元していくべきである.そこで林野庁に復元について具体的な計画の提出を求めるなど,より細かい管理計画にする必要がある.

?の希少動物については絶滅危惧種であるクマタカ・オオタカ・オジロワシのほか,ミサゴなどの猛禽類も加えるべきである.本来このような希少動物の生息地では施業をすべきではない.「営巣木が確認された場合は,森林管理署に情報を提供し,施業について関係機関で対応を検討する」としているが,施業に際して希少動植物の調査が行われていないのが実態であり,積極的に調査を行わず「営巣木が確認された場合」の対応だけでは保護することはできない.当会としては天然林での伐採は認められないが,施業にあたっては希少動植物の調査を義務づけるべきである.

 

7.33ページ 7植物の採取又は損傷,落葉落枝の採取,動物の捕獲又は殺傷及び動物の卵の採取又は損傷

要約 「絶滅のおそれのある種」すべてが法的に採取禁止ではない.また採取の許可が必要なのは特別保護地区や指定植物などであり,正確な記述をすること.

意見および理由

「全国的又は地域的に絶滅のおそれのある種については,保護増殖に資する場合を除き,採取,損傷,捕獲及び殺傷を許可しない」とあるが,たとえばレッドデータブックに記載された「絶滅のおそれのある種」のすべてが法的に採取禁止になっているわけではない.法的に採取禁止になっているのは,天然記念物に指定されている種,「種の保存法」で指定されている種,指定植物などに限られる.法的に禁止されていないことを管理方針に明記するのは論外である.したがって,この部分の削除を求める.

国立公園内で「採取,損傷,捕獲および殺傷」について環境省の許可が必要なのは特別保護地区内と指定植物および哺乳類や鳥類の捕獲である.ここの記述は特別地域と特別保護地区の両者の方針であるから,許認可に関わる記述は「特別保護地区では」「指定植物は」などと断り書きをつけなければならない.不正確な記述は誤解を招くので加筆修正を求める.

 

8.39ページ 車道 ?照明 および40ページの?の看板,誘導標識,表示板等

意見および理由

要約 照明はできるだけ昆虫の誘引されにくいナトリウム灯にする.山間部の駐車帯は常時照明をつけている必要はない.

意見および理由

「道路照明の光色については,白色および黄色系のものとする」とのことだが,夏季は道路照明に多数の昆虫が誘引されているのが現状である.昆虫を誘引し生態を撹乱することを避けるために,照明を設置する場合は昆虫が誘引されにくいナトリウム灯が望ましい.また,山間部の駐車帯やパーキングでは常時照明をつけている必要性はない.特にチェーン着脱場の照明は冬季のみでよい.あるいは利用者が必要に応じて点灯するなどの方式にすべきである.

 

9.39ページ (2)歩道

要約 トイレの設置は安易に行わず,携帯トイレの普及も合わせておこなうべきである.登山道の草刈は基本的にササ刈りやハイマツの枝伐りなどに限るべきである.

意見および理由

?基本的考え方で,「歩道附帯のトイレについて,必要に応じて管理手法等と合わせて整備を検討する」とのことだが,「利用者が多ければトイレを設置すればよい」というものではない.場所によっては入山規制なども必要である.トイレの設置や管理には多額の費用がかかるうえ,長い目でみれば入山者の減少も考えられるのであるから,安易にトイレ設置をするのではなく,携帯トイレの普及などにも力を入れるべきである.

?管理で,「歩道幅員の範囲内で枝払い,下草刈り等を実施する.高山帯歩道の管理者は洗掘の発生を監視し,周囲の自然環境へ影響を与えないよう適切な措置を講ずる」とあるが,かつて鹿追町が東ヌプカウシヌプリの登山道で草刈を行い,指定植物などを損傷した例がある.草刈については歩行に支障を来す「ササ刈り」や「ハイマツの枝払い」などに限るべきである.

 

10.47ページ ?博物館

要約 博物館前のパークゴルフコースの芝はエゾシカを誘引するので,検討すべきである.

意見および理由

「既存のパークゴルフコースは,草地状の休憩園地の機能を損なわない範囲で利用するものとし,コースの造成は行わないものとする」とあるが,このパークゴルフ場の芝は早春から夏にかけてエゾシカの採食地となっている.人為的な植生がエゾシカを誘引するのはエゾシカの増殖や交通事故にもつながり好ましくないので,エゾシカを誘引しないような植生に替えるべきである.

 

11.47ページ 8博物展示施設

要約 糠平に計画されているビジターセンターは,自然保護や自然復元を目的とした「自然保護センター」にすべきである.

意見および理由

当会は「十勝三股ふれあい自然熟整備検討会」や「十勝三股・糠平ふれあい自然熟検討会」で糠平のビジターセンターの目的を自然保護や自然復元,自然保護教育とし,「自然保護センター」とすることを要望してきた.これからの国立公園の管理でもっとも力を入れていく必要があるのは「自然保護」と「自然復元」またそのための「自然保護教育」や「環境教育」であり,環境省はその目的を達成するために必要な施設の整備を計画すべきである.

 

12.48ページ 十勝三股集団施設地区

要約 十勝三股集団施設地区は積極的に森林を復元する地域とし,外来種を早急に除去すべきである.施設は基本的に必要ない.集団施設地区を返上すべきである.

意見および理由

「自然の回復を目指しつつ,自然体験及び学習活動フィールドとして活用する地区として位置づけた」としているが,ここは原生林が伐り開かれ,森林破壊の中心となった地域である.このような森林破壊によって,かつて生息していたミユビゲラなどの希少動物が絶滅の危機に瀕している.したがってかつての森林を復元する場として捉えるべきである.森林の復元を自然に委ねても容易に樹木が芽生え生長できるような状況にはないので,掻き起こしや周辺からの植栽を行うなど積極的に森林の復元を図るべきである.

また,ここに繁茂するルピナスやキショウブ,その他の外来種はセイヨウオオマルハナバチを誘引するほか,本来の生態系を撹乱するものであり,早急な駆除が望まれる.そのような場所なので,自然体験のための整備は基本的に必要ない.そもそもここの集団施設地区の指定は「十勝三股ふれあい自然塾」の設置が目的であったが,この計画は中止になったのであるから集団施設地区を返上し,特別地域にもどすべきである.

 

13.56ページ 白雲橋

要約 建て替え予定の建物は廃屋であり法的に問題がある.また必要性,自然保護上,景観上からもここに博物展示施設をつくるべきではない.

意見および理由

ここに計画されている施設は,鹿追町が北海道電力から譲り受けた建物を十勝毎日新聞社に譲渡したうえで建設が予定されているものであるが,この建造物はすでに廃屋状態であり譲渡自体に問題がある.これについては当会が昨年意見を表明している.

また,ここは第1種特別地域であり,ナキウサギなどの希少動物の生息地であること,自然探勝の施設であれば湖畔温泉に整備すべきこと,景観上も問題があること,駐車場も必要となり新たな開発行為につながること,この地域とは関係のない松浦武四郎やアイヌ関連の展示が予定されていることなどから,不適切な施設である.したがって管理計画に盛り込むべきではない.

 

14.61ページ 糠平然別線

要約 然別湖および駒止湖周辺はすぐれた生態系や景観を重視するところであり,道路の改良より生態系の保全を重視すべきである.

意見および理由

「今後改良を要する区間には,然別湖及び駒止湖沿線等の風致景観上きわめて重要な地区が含まれており,自然環境への影響の排除に最大限留意するものとする」とあるが,駒止湖沿線はナキウサギの生息地であり,管理者である土木現業所もここは大きな改変をしないと明言している.また然別湖周辺は希少植物も生育しており,生態系を破壊する安易な改良をするべきではない.

 

15.68ページ 北海道自然歩道

要約 北海道自然歩道の計画はすでに白紙に戻されているうえ,ヒグマの生息地であるため,既存の歩道利用だけにとどめるべきである.

意見および理由

この長距離自然歩道については,計画発表当時から「既存の道路に看板をつけるだけ」などと批判されており,当会も必要性に疑問を投げかけていた.また,北海道は「厳しい財政状況を踏まえ,十勝管内の三路線を含む『北海道自然歩道』七路線を二〇〇九年度までに整備する計画を白紙に戻した」(2006年3月9日付け北海道新聞)としている.環境省が直轄事業として整備する予定の国立公園内の予定路線で,すでに開通している糠平からメトセップ間では,コンクリートアーチ橋を見学するだけの人が大半であり,開通区間を通して歩く利用者はほとんどいない状況である.

また,糠平・十勝三股間,とりわけ糠平湖北部から十勝三股にかけての予定地(旧国鉄士幌線跡地)はヒグマが餌場として利用しているところであり,「ヒグマの道」を歩道として利用することはきわめて危険である.歩道の予定地であるメトセップ周辺では,林道近くに若いヒグマが出没したという理由だけで射殺されており,ヒグマの保護の観点からも問題が多い.当会はこのヒグマの問題についても当初から指摘しているが,環境省からは納得のできる回答を得ていない.したがってこの歩道は既存部分の利用だけに限るべきである.

16.69ページ 黒岳(リフト)

要約 黒岳リフト下部に植栽された高山植物を除去するよう指導すること.

意見および理由

リフト下部には高山植物を植栽しているが,ここは本来森林帯であり生態系の撹乱である.またこれらの植物はセイヨウオオマルハナバチを誘引し,分布の拡大を助長する恐れがある.したがって環境省は植栽を行っている事業者に対して除去するよう指導すべきである.

 なお,この意見については,当会のHPに掲載いたします.