えりもの森 裁判

訴   状

(原告の住所氏名は省略)

代理人の表示   別紙訴訟代理人目録記載のとおり

                   被 告  北海道知事

                   被 告  北海道日高支庁長

(被告の住所氏名は省略)

損害金返還請求事件

訴訟物の価格 算定不能

貼用印紙 (略)

    2006年5月9日

札幌地方裁判所  御中

             原告市川守弘及び原告ら訴訟代理人

弁護士  市   川   守   弘

弁護士  難   波   徹   基

弁護士  関   根   孝   道

弁護士  渡   辺   正   臣

弁護士  薦     田     哲

弁護士  籠   橋   隆   明

弁護士  龍    山      聴

請求の趣旨

1 被告北海道知事高橋はるみ及び北海道日高支庁長細越良一は、細越良一に対し、金500,000円を支払うよう請求せよ。

2 訴訟費用は被告らの負担とする

との判決を求める。

請求の原因

1 当事者

 原告松田まゆみこと川邊まゆみ(以下「松田」という)は、十勝自然保護協会の理事をし、北海道の自然保護に強い関心を持つ道民であり、原告市川利美(以下「利美」という)は、ナキウサギふぁんくらぶ(2005年12月1日現在会員数2,595名)の代表をし、ナキウサギを中心とする北海道の野生生物の保護に強い関心を有する道民であり、原告市川守弘(以下「守弘」という)は、500名を越す弁護士で組織され、日本の環境訴訟等をもっぱらにする日本環境法律家連盟の理事をし、北海道の自然保護に強い関心を有する道民である。被告北海道知事は、日高支庁の行政事務の管理、監督権を有する知事である。被告北海道日高支庁長は、日高支庁の行政事務の管理、監督権を有する者で、以下に述べる本件における契約について専決権を有するものである。なお、北海道知事が日高支庁長に対し、いかなる委任をしているかが不明であるので、日高支庁長に委任した結果、職員に対する賠償請求ないし賠償命令の権限を委任した結果として北海道知事の権限がない場合を考慮し、日高支庁長をも被告とする。

2 日高支庁長による請負契約の締結

北海道(日高支庁長細越良一)は、平成17年4月28日、日高森づくり協同組合との間で、次のとおり管理する道有林野について育林事業請負契約を締結した(以下「本件契約」という)。

事業名   日高団地育林事業

事業場所  道有林日高管理区内

事業期間  着手平成17年4月29日から同年11月30日まで

請負金額  52,710,000円

 この契約は、日高管理区内の152林班43小班を含む道有林において、「つるきり除伐」、「保育伐」、「植林」、植林のための「地拵え」、等の仕事の請負を目的とした契約である。

 本件訴訟は、本件契約に基づく、日高管理区内の152林班43小班の「地拵え」によるとされる立木の伐採行為を問題とするものである。

3 本件契約の違法性

(1) 先立つ伐採

 本件契約に先立ち、152林班43小班は、「受光伐」と称して、376本(材積472.38?)の立木が伐採され、本件契約はその伐採跡地にトドマツを植林をするための契約であった。なお、この伐採の点は、札幌地方裁判所平成17年(行ウ)第25号損害金返還請求事件として同裁判所民事第5部に係属している。

(2)地拵えのための伐採

 原告らは、前項の伐採自体も違法であるとしてすでに監査請求をし、不当にも監査委員からは「不受理」の通知を受けているところであるが、北海道の職員は、本件契約に基づき、将来の植林に備える「地拵えのため」に、152林班43小班において、さらに202本を伐採したと述べる。この結果、152林班43小班は、ほぼ皆伐状態になったと推察される。

 北海道日高森づくりセンターは、原告らの質問に対し、平成17年12月16日付ファックスをもって、地ごしらえで伐採した184本(他の18本は支障木として伐採したと主張する)の立木に刻印をしたと回答している。また北海道森林環境室道有林課は、同年12月22日付ファックスにおいて、この184本の処理についてこの刻印を押した184本の伐採を認めたうえで「細かく切断して地拵え地内に整頓した」旨回答した。そもそも刻印とは販売した立木の確認検査において押すのが通常であり、北海道職員のいうとおり刻印を押したとするのであれば、それら184本は販売ないし贈与された可能性が高い。

また支障木18本は、日高森づくりセンター職員の説明によれば、「造材作業時、伐倒や集材等により立木が損傷した場合などで、これを職員が支障木として表示」し、伐採したというのであるから、これら損傷した立木も売却価値のある立木である。したがって、合計では売却価のある立木202本を対価なく違法に伐採させ道に損害を与えたものである。

監査委員の「『地ごしらえ』とは、播種,天然更新の支障となる草本植物、低木類等について伐採、刈払いなどを行う作業で、成立木の伐採とは異なる行為である。したがって、本請求においては、『先立つ伐採』に続いて、更に『地ごしらえ』の名目の下に、実態は、売却価のある立木202本を対価なく違法に伐採させ、道に損害を与えたと主張するものと解されるが、請求書に示される限りにおいては、この点については請求者の見聞に基づく推測の域を出ているものではなく、添付の書類からもこのような事実をうかがうことはできない」という判断は、この点について「建前は立木の伐採でない」から、「伐採とは証明されていない」とするもので、意図的に原告らの請求を捻じ曲げている。

なお、この202本という本数自体の正確性は不明であり、実際にはそれ以上の伐採行為があったと思料される。なぜなら152林班43小班全体でおおよそ700本を越える伐採が行われたと思われる伐根が確認されるからである。

以上から、伐採した行為自体が違法な伐採行為である。

(3) 道有林管理の基本としての「北海道森林づくり条例」

 北海道は平成14年3月29日条例第4号において、「北海道森林づくり条例」を制定した。

 従来、北海道の道有林野管理は、木材の販売収入をもとに森林整備を進める「企業会計」方式あるいは平成9年度からは「特別会計」方式で行っていたが、平成14年3月に、「北海道有林野事業特別会計条例」を廃止し、「一般会計」方式に大転換した。この転換が「北海道森林づくり条例」によって確立したものである。

 この結果、道有林野を「木材生産」のために利用し、収支会計を黒字化する必要がなくなり、道税を主な財源とし、広く道民の利益を考えた森林管理が行えるようになった。そのため、それまでの「公益性と収益性の両方を重んじる考え方」から「公益性を全面的に重視する考え方」に転換し(平成14年度版北海道森林づくり白書)「今後は、木材生産を目的とする皆伐・択伐を廃止し、複層林化や下層木の育成を目的として行う受光伐を導入するなど、公益性を全面的に重視した道有林の整備を推進」をしていくこととなった。(以上、同白書、北海道森林づくり条例前文、1条、3条、4条等)

 しかるに、本件契約では、トドマツの単林の人工植林地を作り出すために、地拵えと称して最低でも202本もの天然林を伐採し、皆伐状態を作り出した。

 ゆえに、本件契約のうち152林班43小班における地拵え部分は、北海道森林づくり条例に違反する違法な伐採を前提とした契約である。

(4)生物多様性条約違反

 前記地拵えによる立木の伐採及び支障木伐採の名目の伐採の結果、樹齢100年から150年前後の天然林である広葉樹、針葉樹202本を伐採しているが、これらの木は、枯損木など樹洞ができている木などを多数含んでいた。この結果、この地域の野生生物に重大な影響を与えた。

(中略)

 など、契約(1)に予定された伐採によって、生物多様性そのものに重大な影響を与えたもので、生物多様性条約1条、8条、14条に違反する。

(5) 伐採した立木の売買

 本件契約による152林班43小班における地拵えのための伐採がいつ頃、何本伐採されたかは不明であるのは前記のとおりであるが、さらにこれらの伐採木が、どのように処理されたかも不明である。原告らが昨年11月に調査した結果によれば樹齢140年前後の木が多数を占めており、かつ木材として有用と思われた木も多数存在した。北海道の職員によれば、これらの伐採木は請負者が細かく切断して地拵え地内の措き幅に寄せて整頓したとされているが,そのような痕跡はなく、実際には売買されてしまった可能性あるいは業者に贈与された可能性が十分に存在する。

4 損害

 北海道は、平成16年4月27日、「北海道における森林の公益的機能の評価額」を発表し、その中で、北海道の森林の有する公益的価値として、11兆1,300億円を算出している。またこの公益的価値について「評価基準」を定めているが、その中で「生態系保全機能」を挙げ野生生物の生息地としての公益的価値の評価をしている。

 もちろん、本件では、前記契約(1)における違法な受光伐を名目とした売買によって、森林が皆伐されてしまったため、その財産的損害の算出は困難が伴うが、少なくとも、北海道自らが認める公益的価値が伐採によって失われたのであるから、北海道の森林の持つ公益的価値としての11兆1,300億円のうち、伐採面積に応じた割合において、前記契約(1)によって、その公益的価値が損害を受けたものである。

 また、少なくとも北海道が認める地拵えのための184本の伐採木については、それが適正に評価され売買されていなければならないが、その事実は伺えない。そこで、最低でも市場価格としてトドマツ1本10,000円として、184万円の損害が北海道に発生している。本件では、これらの損害のうちその一部である金50万円について賠償請求を求めている。

5 監査請求の「不受理」

 原告らは平成18年(2006年)2月7日付けで、本件での違法伐採行為について、北海道監査委員に対し、その損害の填補を求めて監査請求をした。しかし、監査委員は、第1に、「森林の持つ公益的機能」は「財産」ではなく、第2に、「『地ごしらえ』とは、播種、天然更新の支障となる草本植物、低木類等について伐採、刈払いなどを行う作業で、成立木の伐採とは異なる行為である。したがって本請求においては『先立つ伐採』に続いて、更に『地ごしらえ』の名目の下に、実態は、売却価値のある立木202本(内支障木として18本)を対価なく違法に伐採させ、道に損害を与えたと主張するものと解されるが、請求書に示される限りにおいては、この点については請求者の見解に基づく推測の域を出るものではなく、添付の書類からもこのような事実をうかがうことができないから、損害と認めることができない」として「不受理」とした。

 そのため、監査請求人らは、平成18年(2006年)3月30日、日高森つくりセンターが202本の伐採を認めたファックスを証拠として添付し、監査委員らのいう「推測の域」ではないことを証明したが、監査委員らは同年4月13日、同じく「本件契約の内容である「地ごしらえ」とは、播種、天然更新の支障となる草木植物、低木類等について伐採、刈払いなどを行う作業で、その性格上、伐採木の発生が当然想定されるものであるが、成立木の伐採とは異なる行為であり、これにより道に損害が発生するものではないのであって、請求書に示される限りにおいては、売却価値のある立木が「地ごしらえ」により伐採されたとの主張は、請求人の見聞に基づく推測の域を出るものではなく、添付の書類からもこのような事実をうかがうことができないから、損害と認めることができない。」とし、結局、「不受理」とした。

 監査委員は、本来の「地ごしらえ」の内容について言及するが、監査請求人らが主張しているのは、まさに本来の「地ごしらえ」作業がなされておらず、202本もの立木が伐採された事実を、本件契約の依頼者である北海道日高森作りセンターからのファックスによって証明して、主張している。

 本件における監査委員の「不受理」は、形式的要件を満たしているのに「不受理とし、内容としても、本件での伐採は「道に損害が発生するものではない」との、内容に関する判断もして「不受理」としたものである。

 

以上から、本件不受理は、監査請求の棄却そのものであり、仮に却下と同視しても、違法な却下決定である。

6 平成17年(行ウ)第25号との関係

 平成17年(行ウ)第25号事件は、道有林野産物売払契約(平成16年10月26日契約)、同契約(同年9月30日契約)、請負契約(同年10月4日)の各契約に基づく北海道職員の違法行為を問題とするが、本件では前記のとおり、平成17年4月28日締結の請負契約を問題とするものである。

 また、北海道が認める「地ごしらえによる184本の伐採」についてが、本件住民訴訟の対象とする違法行為であり、これ以上の伐採、あるいは202本中の「18本の支障木」としての伐採は、すでに提起している平成17年(行ウ)第25号事件において、違法行為として主張しているものである。但し、支障木の18本の伐採が結局は地拵えのために、またその際に伐採されたとすれば本件訴訟の対象とする行為となる。

7 結論

 以上から、原告らは、北海道職員細越良一の行為によって生じた北海道の損害のうち、被告らは、細越良一に対し、金50万円について細越良一に対して損害賠償請求するよう求める。

証   拠方法

  

  甲第1号証 育林事業請負契約書

  甲第2号証 進捗状況報告書

  甲第3号証 回答書

甲第4号証 回答書

甲第5号証 不受理通知書

付属書類

 甲号証写し      各1通

 委任状         2通

原告代理人の表示

(略)

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