えりもの森 裁判

被告答弁書   19号  6月14日
(第1回期日 6月23日)副本直送済
平成18年(行ウ)第19号 損害賠償請求事件
原 告 (略)
被 告 (略)

答 弁 書

平成18年6月14日 

札幌地方裁判所民事第5部合議係 御 中


           被告北海道知事及び北海道日高支庁長指定代理人
             (略)


第1 本案前の答弁

  本件訴えを却下する
  訴訟費用は原告らの負担とする
  との判決を求める。


第2 本案前の答弁の理由

1 本件訴えの概要

 本件訴えは、以下の二つの態様の損害を補填するため、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条の2第1項第4号本文の規定に基づき、下記の契約の締結及び履行にかかわった細越良一に損害賠償を請求することを被告らに対して求めているものである。

{1} 北海道と日高森づくり協同組合との間で、平成17年4月28日に締結された道有林日高管理区内における育林事業請負契約のうち、日高管理区内152林班43小班の「地掃え」による立木の伐採行為(以下「本件伐採行為」という。)の部分は、「北海道森林づくり条例(平成14年北海道条例第4号)」及び「生物の多様性に関する条約(平成5年条約第9号)」に違反する違法なものであり、違法な契約の締結又は履行により、北海道の森林の持つ公益的機能の損害(以下「本件森林の公益的機能損害」という。)が生じていること。

{2} 本件伐採行為により、樹齢100年から150年前後の天然林であり、木材として有用と思われる多数の立木を伐採し、この伐採木(202本)を適正な価格評価により売買していないために、市場価格に相当する損害が北海道に生じていること。

2 適法な監査請求を経ていないこと

(1)監査請求の不受理

 法第242条の2第1項に規定する住民訴訟の出訴権者は、法第242条第1項の規定による監査請求をした者である。すなわち、法第242条の2の訴訟においては、監査請求前置主義がとられており、監査請求をしない限り同条の訴訟を提起することができない(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)888ページ)。

 また、監査委員がはじめから監査請求を却下した場合においては、訴訟による救済措置があるかどうかについては、監査請求そのものに真の瑕疵があり、請求の却下が適法と認められる場合には、適法な監査請求前置を経たことにならないので、訴訟提起は不適法であり、却下されるべきものである(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)888ページ)。

 本件についてみると、原告らは、平成18年3月30日付けで、北海道監査委員に対し、本件訴えに係る住民監査請求(以下「本件監査請求」という。乙第1号証。なお、添付書類として甲第1ないし4号証が添付されているが、これらは、本件訴えに係る証拠として提出されている甲第1ないし4号証と同一のものである。)を行ったが、本件監査請求は、同年4月13日付けで、不受理となっている(甲第5号証)。

 監査請求の不受理とは、監査請求の要件を満たさないものとして却下することと同義であるが、以下前記1の{1}及び{2}の区分に従い、本件訴えが適法な監査請求を経ているか検討する。

(2)適法な監査請求の有無

ア 1の{1}に係る訴え

 まず、本件監査請求の不受理の理由?としては、「請求人(原告ら)が主張する「森林の持つ公益的機能」の損害については、平成17年11月15日付け住民監査請求について判断したところと同様である」とされている(甲第5号証)。

 この住民監査請求における北海道監査委員の判断としては、「請求人原告ら)が主張する森林の持つ公益的機能とは、水源のかん養、土砂流出の防止、二酸化炭素の吸収などの様々な機能をいうものであり、その数値化は、これらの機能が持つ価値を住民にわかりやすく示すため、貨幣価値に置き換えて年間額として試算したり、点数化したものであって、およそ地方自治法上、地方公共団体の「財産」とされるものではない」とされている。

 法第242条の住民監査請求制度は、地方公共団体の執行機関又は職員の違法又は不当な財務会計上の行為又は財産の管理を怠る事実によって当該地方公共団体の被った損害を補填することなどを目的とするものであるが、請求人(原告ら)が主張する森林の持つ公益的機能とは、北海道監査委員の判断において示されているとおり、そもそも財産として評価し得ないものをわかりやすいように仮に評価したものに過ぎないのであるから、そのようなものは地方公共団体の「財産」とはいえないし、また、住民監査請求制度により補填すべき損害として予定されているものではない。

 したがって、北海道監査委員が、原告らの本件監査請求で主張した森林の公益的機能の損害は、北海道の財産上の損害と認められないとして、本件監査請求を住民監査請求制度に適合しない不適法なものと判断したことに何らの違法も認められず、本件監査請求に対する不受理の決定は適法なものであることは明らかである。

 よって、原告らの本件訴えのうち、前記1の{1}の本件森林の公益的機能損害の補填に係る請求は、本件監査請求が適法に不受理とされている結果、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものである。

イ 1の{2}に係る訴え

 次に、本件監査請求の不受理の理由?としては、「本件契約の内容である「地ごしらえ」とは、播種、天然更新の支障となる草本植物、低木類等について伐採、刈払いなどを行う作業で、その性格上、伐採木の発生が当然想定されるものであるが、成立木の伐採とは異なる行為であり、これにより道に損害が発生するものではないのであって、請求書に示される限りにおいては、売却価値のある立木が「地ごしらえ」により伐採されたとの主張は、請求人の見聞に基づく推測の域を出るものではなく、添付の書類からもこのような事実をうかがうことができないから、損害と認めることができない」とされている(甲第5号証)。

 法第242条の住民監査請求における対象の特定の程度について、最高裁は、「対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、(中略)、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であ」る(最高裁判所平成2年6月5日第三小法廷判決。民集44巻4号719ページ)と判示している。

 本件においては、本件監査請求書(乙第1号証)を見ると、本件訴えのうち前記1の{2}に係る部分に関連する記述としては、例えば、第1の2の(5)の「伐採した立木の売買」(乙第1考証5ページ)の項目においては、「地拵えのための伐採がいつ頃、何本伐採されたかは不明である(中略)伐採木は請負者が細かく切断して地拵え地内の措き幅に寄せて整頓したとされているが、実際には売買されてしまった可能性が十分に存在する」とその可能性を指摘するに過ぎず、第1の4の「損害」(乙第1号証6ページ)の項目においても、「地拵えのための202本の伐採木については、それが適正に評価され売買されていなければならないが、その事実は伺えない」と不明確な記述をするのみであり、添付された資料(甲第1ないし4号証)を見ても、そのような事実が具体的に示されていないことから、全く請求の特定を欠くものである。

 したがって、北海道監査委員が、本件伐採行為に基づく損害は、請求人(原告ら)の見聞に基づく推測の域を出るものではなく、添付の書類からもこのような事実をうかがうことができないから、北海道の財産上の損害と認められないとして、本件監査請求を住民監査請求制度に適合しない不適法なものと判断したことに何らの違法も認められず、本件監査請求に対する不受理の決定は適法なものであることは明らかである。

 よって、本件監査請求においては、本件訴えのうち前記1の{2}の本件伐採行為に基づく損害の補填に係る部分は、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものであることは明らかである。

ウ 以上のことから、本件訴えは、いずれも訴訟要件である監査請求を経ていない不適法な訴えであって、補正の余地がないから、却下を免れないものである。

3 被告北海道知事に被告適格がないこと

 法第242粂の2第1項第4号本文の損害賠償の請求にかかわる訴えは、当該損害賠償債権を管理する権限を有する執行機関等を被告として提起されるべきものである。そして、普通地方公共団体に帰属すべき損害賠償請求権は「金銭の給付を目的とする地方公共団体の権利」(法第240条第1項)に該当し、普通地方公共団体の長がその督促、強制執行その他その保全及び取立てなどの管理を行う権限を有するものである(法第240条第2項)。

 しかし、行政庁間でその権限に関する委任があるときは、委任庁は当該委任にかかわる事務を処理する権限を失うとともに、受任行政庁が受任した権限に基づいて、自己の行為として当該委任にかかわる事務を処理するものであるから、当該委任にかかわる行為を求める訴えについては、受任行政庁にのみ被告適格が認められるものであり(最高裁判所昭和54年7月20日第二小法廷判決。判例時報943号46ページ参照)、4号住民訴訟についても、「(この訴訟は)、被告に対して損害賠償等の請求や賠償命令の発令を義務付ける訴訟であって、現にこれらの請求や発令の権限を有している者を被告とすべき訴訟形態であることからすれば、地方公共団体の長が当該権限を他に委任している場合には、委任者たる地方公共団体の長は、もはや同権限を有さず、4号住民訴訟の被告適格を失う」と判示されている(札幌地方裁判所平成16年11月19日判決。最高裁判所ホームページ)。

 これを本件についてみると、北海道においては、支庁に属する事務にかかる「債権の管理」は、部局長たる支庁長に委任されており(法第153条、北海道財務規則(昭和45年北海道規則第30号。乙第2号証)第2条第4号、第12条第1項第12号、北海道行政組織規則(昭和41年北海道規則第21号。乙第3号証)第3章)、仮に原告らが主張するような損害賠償債権があるとしてもその管理の権限は日高支庁長が有しているものであるから、本件においては北海道知事に被告適格はないものである。

 なお、原告らは、本件訴えに先立ち、御庁平成17年(行り)第25号損害賠償請求事件(以下「17年事件」という。)及び平成18年(行り)第16号損害賠償請求事件(以下「18年事件」という。)を提起しており、その訴訟において被告らとしては、北海道知事と日高支庁長との委任関係を主張・立証しているにもかかわらず、本件訴えでは、原告らが「北海道知事が日高支庁長に対し、いかなる委任をしているかが不明である」(訴状3ページ2・3行目)と主張するのか理解し難い。

したがって、本件訴えのうち、被告北海道知事に対するものは、被告適格を欠き、不適法であり、速やかに却下されるべきである。

4 本件訴えが二重起訴に当たること

 原告らは、本件に関連して17年事件及び18年事件を提起しており、本件訴えを含めると、3件の事件が係属している。

 この3件の事件をみると、それぞれの請求の趣旨及び請求の原因が相互にどのような関係にあるのか判然としないが、本件訴えについては、17年事件との関係では、被告らが損害賠償を求める相手方や原告らが問題視している契約は異なっているところ、18年事件との関係では、当事者や訴訟物のすべてが重複していることから、同一の事件であることは明らかである。

 このことから、本件訴えは、18年事件との関係において二重起訴に当たり、そもそも、原告らは、提起することができないものである(行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第142条)。

 したがって、本件訴えは、二重起訴に当たる不適法な訴えであって、却下を免れないものである。

第3 求釈明

 本件訴え及び17年事件の請求の趣旨及び請求の原因が相互にどのような関係にあるのか、具体的に明らかにされたい。

証 拠 方 法

乙第1号証  措置請求書
乙第2号証  北海道財務規則
乙第3号証  北海道行政組織規則

  
附 属 書 類

乙第1号証ないし第3号証の写し      各1通


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