えりもの森裁判 
第1回公判 被告答弁書

(第1回期日 2月24日)

平成17年(行ウ)第25号 損害賠償請求事件

原告 (略)

被告 (略)

答   弁   書

 

平成18年2月17日

札幌地方裁判所民事第5部合議係 御 中

 

被告北海道知事及び北海道日高支庁長指定代理人

(略)

 

1 本案前の答弁

 本件訴えを却下する

 訴訟費用は原告らの負担とする

との判決を求める。

 

2 本案前の答弁の理由

1 本件訴えの概要

本件訴えは、以下の三つの態様の損害を補填するため、地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条の21項第4号本文の規定に基づき、下記の各契約の締結及び履行にかかわった脇田宏行に損害賠償を請求することを被告らに対して求めているものである。

【1】 北海道と日高森づくり協同組合との間で、平成16年10月26日に締結された幌泉郡えりも町宇目黒日高管理区150林班他に所在する道有林野の産物の売買契約(以下「本件売買契約1」という。)は、「北海道森林づくり条例(平成14年北海道条例第4号)」及び「生物の多様性に関する条約(平成5年条約第9号。以下「生物多様性条約」という。)」に違反する違法なものであり、違法な契約の締結又は履行により,北海道の森林の持つ公益的機能の損害(以下「本件森林の公益的機能損害」という。)が生じていること。

【2】 北海道と日高森づくり協同組合との間で、平成16年9月30日に締結された道有林日高管理区11林班他に所在する道有林野の産物の売買契約(以下「本件売買契約2」という。)及び平成16年10月4日に締結された道有林日高管理区内を事業場所とする育林事業請負契約(以下「本件請負契約」という。)について、本件請負契約により本来不必要な集材路を新設する工事を行っただけでなく、当該工事が生物多様性条約に違反する違法なものであり、かつ、本件売買契約2と本件請負契約は一体の事業として密接不可分の契約であるから、両契約ともに違法性を帯び、違法な契約の締結又は履行により、本件森林の公益的機能損害が生じていること。

【3】 本件売買契約1に係る伐採計画以上に権限なく過剰に伐採させた違法があり、違法な過伐採により、北海道の所有する樹木(財産)に損失(損害)(以下「本件樹木損害」という。)が生じていること。

 

2 適法な監査請求を経ていないこと

1)監査請求の不受理

 法第242条の21項に規定する住民訴訟の出訴権者は、法第242条第1項の規定による監査請求をした者である。すなわち、法第242条の2の訴訟においては、監査請求前置主義がとられており、監査請求をしない限り同条の訴訟を提起することができない(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)888ページ)。

 また、監査委員がはじめから監査請求を却下した場合においては、訴訟による救済措置があるかどうかについては、監査請求そのものに真の瑕疵があり、請求の却下が適法と認められる場合には、適法な監査請求前置を経たことにならないので、訴訟を提起しても却下になると解される(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)888ページ)。

 本件についてみると、原告らは、平成17年11月15日付けで、北海

道監査委員に対し、本件訴えに係る住民監査請求(以下「本件監査請求」という。乙第1号証の1・2。なお、添付書類として甲第1号証ないし甲第10号証が添付されているが、これらは、本件訴えに係る証拠として提出されている甲第1号証ないし甲第10号証と同一のものである。)を行ったが、本件監査請求は、同年12月2日付けで、不受理となっている(甲第12号証)。

監査請求の不受理とは、監査請求の要件を満たさないものとして却下す

ることと同義であるが、以下前記1の【1】から【3】までの区分に従い、本件訴

えが適法な監査請求を経ているか検討する。

2)適法な監査請求の有無

ア 1【1】及び【2】に係る訴え

 本件監査請求の不受理の理由は、北海道の森林の持つ公益的機能は、「地方自治法上、他方公共団体の「財産」とされるものではない。したがって、請求人の主張する森林の公益的機能の損害は、北海道の財産上の損害と認めることはできない」とされている(甲第12号証)。

 法第242条の住民監査請求制度は、地方公共団体の執行機関又は職        

員の違法又は不当な財務会計上の行為又は財産の管理を怠る事実によって当該地方公共団体の被った損害を補填することなどを目的とするものであるが、請求人(原告)らが主張する北海道の「森林の持つ公益的機能とは、水源のかん養、土砂流出の防止、二酸化炭素の吸収などの様々な機能をいうものであり、その数値化は、これらの機能が持つ価値を住民にわかりやすく示すため、貨幣価値に置き換えて年間額として試算したり、点数化したものなどであって」(甲第12号証)、そもそも財産として評価し得ないものをわかりやすいように仮に評価したものに過ぎないのであるから、そのようなものは地方公共団体の「財産」とはいえないし、また、住民監査請求制度により補填すべき損害として予定されているものではない。

 したがって、北海道監査委員が、原告らの本件監査請求で主張した森林の公益的機能の損害は、北海道の財産上の損害と認められないとして、本件監査請求を住民監査請求制度に適合しない不適法なものと判断したことに何らの違法も認められず、本件監査請求に対する不受理の決定は適法なものであることは明らかである。

 よって、原告らの本件訴えのうち、前記1【1】及び【2】の本件森林の公益的機能損害の補填に係る請求は、本件監査請求が適法に不受理とされている結果、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものである。

イ 1の【3】に係る訴え

 原告らは、本件訴えとして、前記1の【3】の違法な過伐採による本件樹木損害の補填に係る請求を行っているが、本件監査請求において同旨の損害の補填を求めるかのような記述も見られる。

 しかしながら、本件訴えのうち前記1の【3】に係る部分は、次のとおり、適法な監査請求を経ているとはいえないものである。

 すなわち、住民監査請求における対象の特定の程度について、最高裁は、「対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要し、(中略)、監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載、監査請求人が提出したその他の資料等を総合しても、監査請求の対象が右の程度に具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は、請求の特定を欠くものとして不適法であ」る(最高裁判所平成2年6月5月第三小法廷判決。民集44巻4号719ページ)と判示している。

 本件においては、本件監査請求書(乙第1号証の1・2)を見ると、本件訴えのうち前記1の【3】に係る部分に関連する記述は、第1の2のオ(乙第1号証の1の6ページ以下)に「過剰伐採?」との見出しで、「過剰な伐採が行われた可能性は高い」とその可能性を指摘するに過ぎず、「4 損害」(乙第1号証の1の9ページ以下)の項目においても北海道における森林の公益的機能の損害を記述するのみであり、過伐採による本件樹木損害は挙げられていないのであって、全く請求の特定を欠くものである。

 よって、本件監査請求においては、本件訴えのうち前記1の【3】の違法な過伐採による本件樹木損害の補填に係る部分は、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものであることは明らかである。

ウ 以上のことから、本件訴えは、いずれも訴訟要件である監査請求を経ていない不適法な訴えであって、補正の余地がないから、却下を免れないものである。

 

3 被告北海道知事に被告適格がないこと

 法第242粂の2第1項第?W号本文の損害賠償の請求にかかわる訴えは、当該損害賠償債権を管理する権限を有する執行機関等を被告として提起されるべきものである。そして、普通地方公共団体に帰属すべき損害賠償請求権は「金銭の給付を目的とする地方公共団体の権利」(法第240条第1項)に該当し、普通地方公共団体の長がその督促、強制執行その他その保全及び取立てなどの管理を行う権限を有するものである(法第240条第2項)。

 しかし、行政庁間でその権限に関する委任があるときは、委任庁は当該委任にかかわる事務を処理する権限を失うとともに、受任行政庁が受任した権限に基づいて、自己の行為として当該委任にかかわる事務を処理するものであるから、当該委任にかかわる行為を求める訴えについては、受任行政庁にのみ被告適格が認められるものであり(最高裁判所昭和54年7月20日第二小法廷判決。判例時報943号46ページ参照)、4号住民訴訟についても、「(この訴訟は)、被告に対して損害賭償等の請求や賠償命令の発令を義務付ける訴訟であって、現にこれらの請求や発令の権限を有している者を被告とすべき訴訟形態であることからすれば、地方公共団体の長が当該権限を他に委任している場合には、委任者たる地方公共団体の長は、もはや同権限を有さず、4号住民訴訟の被告適格を失う」と判示されている(札幌地方裁判所平成16年11月19日判決。最高裁判所ホームページ)。

 これを本件についてみると、北海道においては、支庁に属する事務にかかる「債権の管理」は、部局長たる支庁長に委任されており(法第153条、北海道財務規則(昭和45年北海道規則第30号。乙第2考証)第2条第4号、第12条第1項第12号、北海道行政組織規則(昭和41年北海道規則第21号。乙第3号証)第3章)、仮に原告らが主張するような損害賠償債権があるとしてもその管理の権限は日高支庁長が有しているものであるから、本件においては北海道知事に被告適格はないものである。

 なお、日高支庁長は、平成17年4月1日に、脇田宏行支庁長(在任期間は、平成15年6月1日から平成17年331日まで)から細越良一支庁長に異動により交替している。

 したがって、本件訴えのうち、被告北海道知事に対するものは、被告適格を欠き、不適法であり、速やかに却下されるべきである。

 

証 拠 方 法

乙第1号証の1  措置請求書

乙第1号証の2  措置請求書      

乙第2号証    北海道財務規則

乙第3号証    北海道行政組織規則

 

附 属 書 類

乙第1号証の1・2ないし乙第3号証の写し 各1通

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