えりもの森 裁判

被告の準備書面(1)

(次回期日 8月18日)

平成18年(行ウ)第19号 損賠賠償請求事件

原告 (略)

被告 北海道知事ほか1名

 

準備書面(1)

平成18年7月31日 

札幌地方裁判所民事第5部合議係 御中

被告北海道知事及び北海道日高支庁長指定代理人 

                   (略)

被告らは、原告らの平成18年6月22日付け準備書面(1)(以下「原告ら準備書面(1)」という。)及び同日付け準備書面(以下「原告ら準備書面」という。)に対し反論するとともに、本準備書面において、本案前の争点に関する主張をまとめる。

 なお、略語は、本書面において新たに用いるもののはかは、従前の例による。

第1 はじめに

 本件における本案前の争点は、[1]適法な監査請求を経ているか否か及び[2]知事に被告適格があるか否かである。

 そこで、争点[1]については、後記第2において、原告ら準備書面(1)に対する反論も含めて、適法な監査請求を経ていないこと、また、争点[2]については、後記第3において、原告ら準備書面に対する反論も含めて、知事に被告適格がないことについて、それぞれ被告らの主張をまとめる。

第2 適法な監査請求を経ていないこと

1 監査請求前置主義と住民訴訟

(1)法第242条の2第1項は、普通地方公共団体の住民は、「監査請求をした場合」において住民訴訟を提起できると定めている。

「監査請求をした場合」の意味するところは、地方公共団体の違法な行為について住民訴訟を提起するためには、問題とする行為について、まず監査請求をしておかなければならないということであり、監査請求前置主義がとられているものである。

そして、監査請求を経たといえるためには、監査請求が適法になされたことを必要とし、また、要件を欠く違法な監査請求をしても、監査請求を経たことにはならないものである。

このことから、要件を欠いた違法な監査請求をした場合は、当該請求は監査委員によって却下され、監査は実施されないから、監査請求を経たことにはならず、引き続き住民訴訟を提起しても監査請求を経ていないとして、訴えは却下されることになる。

なお、監査請求が適法になされたものか否かは、客観的に判断されるものであるから、住民訴訟が提起された場合は、裁判所によって監査請求の適否が判断されることになる。

(2)原告らは、最高裁判所平成2年6月5日第3小法廷判決(民集44巻4号719ページ。以下「最高裁平成2年判決」という。)における園部逸夫裁判官の反対意見を根拠として、住民監査請求において、当該行為等について特定がないとして監査請求が却下された場合、その措置を不服として提起された住民訴訟では、監査請求を経ていないと見て却下することは許されなく、この(反対意見の)考えは、一般には多数を占める考えであると主張する(原告ら準備書面(1)1ページないし3ページ)。

しかし、最高裁平成2年判決は、住民監査請求が請求の特定を欠く不適法なものとして監査委員により却下され、それに引き続いて提起された住民訴訟において、原審が監査委員の判断と同様の理由でこれを却下した事案につき、最高裁が原審の判断を正当として是認したものであって、いずれにしても適法な監査請求前置が、住民訴訟における訴訟要件として審理されるべきは当然である。

また、住民訴訟を提起できるものは、監査請求を経た住民である(園部逸夫編「最新地方自治法講座[4]住民訴訟」(ぎょうせい)53ページ)が、 監査請求の要件を欠いた監査請求の場合は、当該請求は却下され、監査は実施されないから、住民監査請求を経たことにはならず、住民訴訟を提起しても監査請求を前置していないとして訴えは却下される(伴義聖・大塚康男共著「実務住民訴訟」(ぎょうせい)68ページ)とされていることから、実務上においても、最高裁平成2年判決と同様に、適法な監査請求前置が訴訟要件であると解されている。

 これを本件についてみると、本件監査請求は、北海道監査委員によって監査請求の要件を欠くものとして後述のとおり適法に不受理とされていることから、それに引き続いて提起された本件訴えは、訴訟要件である適法な監査請求を経ていないことが明らかであり、いずれにしても原告らの主張には理由がない。

(3)次に、原告らは、最高裁判所平成10年12月18日第3小法廷判決(民集52巻9号2039ページ)及び広島高等裁判所昭和63年4月18日判決(行集39巻3・4号265ページ)をそれぞれ引用し、「監査委員の却下の理由が、形式的に適法な住民監査請求を不適法として却下したか、事実上内容に立ち入った上で却下したか、にかかわらず、いずれの

場合にも住民訴訟が提起できるものである」と主張する(原告ら準備書面(1)7ページ14行目ないし16行目)。

 しかし、本件監査請求については、後述のとおり、内容の審理をするまでもなく、監査請求としての法定要件を欠くものであり、かつ、そのことは客観的にも明らかであるから、その結果として適法な監査請求を経ておらず、訴訟要件を欠くことから、本件訴えは不適法というほかない。

 なお、当該最高裁判決及び広島高裁判決は、適法な住民監査請求が不適法であるとして監査委員により却下された事案であり、そもそも本件には適切でない。

2 本件監査請求

(1)本件監査請求書(乙第1考証)における「第1監査請求の趣旨」については、総じて判然としないものであるが、要約すると次のとおりである。

 ア 日高支庁長による請負契約の締結

  北海道と日高森づくり協働(同)組合との間で、平成17年4月28日に締結された道有林日高管理区内における育林事業請負契約に基づく、日高管理区内152林班43小班の「地拵え」によるとされる本件伐採行為を問題とするものである。

 イ 本件契約の違法性

  本件伐採行為では、北海道が認めたものとして、184本と支障木18本の合計202本の立木が売り払い以外に伐採され、この202という本数自体の正確性は文書がなく不明であり、実際には、152林班43小班全体でおよそ700本を超える伐採が行われたと思料され、その伐採が行われたと思われる伐根が確認される。

  地拵えのための伐採がいつ頃、何本伐採されたかは不明であり、これらの伐採木がどのように処理されたかも不明である。

  伐採木は請負者が細かく切断して地拵え地内の措き幅に寄せて整頓したとされているが、実際には売買されてしまった可能性が十分に存在する。

  このことから、本件伐採行為は、北海道森林づくり条例及び生物の多様性に関する条約に違反する違法なものである。

 ウ 損害

  上記の違法な契約の締結又は履行により、本件森林の公益的機能損害が北海道に発生している。

  この北海道の公益的機能(全体)のうち、伐採面積に応じた割合において損害を受けた。

  また、少なくとも北海道が認める地拵えのための202本の伐採木については、それが適正に評価され売買されていなければならないが、その事実は伺えない。

  (この伐採木が売買されていないことから)最低でも202万円の損害が北海道に発生している。

(2)そこで、本件監査請求が監査請求としての適格性を有するか否かについて検討する。

 まず、原告らは、本件監査請求書において、本件森林の公益的機能損害が北海道に発生していると主張する。

しかし、住民監査請求制度は、地方公共団体の執行機関又は職員(以下「執行機関等」という。)の違法又は不当な財務会計上の行為又は財産の管理を怠る事実によって当該地方公共団体の被った損害を補填することなどを目的とするものであるところ、原告らが主張する森林の持つ公益的機能とは、そもそも財産として評価し得ないものをわかりやすいように仮に評価したものに過ぎないのであるから、そのようなものは地方公共団体の「財産」とはいえないし、また、住民監査請求制度により補填すべき損害として予定されているものではないことは明らかである。

 次に、原告らは、地拵えによる202本の伐採木については、最低でも202万円の損害が北海道に発生していると主張する(伐採面積に応じた割合の損害を受けたとの主張との関係が判然としない。)。

 しかし、地拵えとは成立木の伐採とは異なる行為であるところ、原告らは、損害が発生しているとする一方で、その根拠となる事実については、「それ(202本の伐採木)が適正に評価され売買されていなければなら ないが、その事実は伺えない」としているように、そもそも、原告ら自身が、伐採木が売買されたか否かも窺えないことを前提に、単に損害が発生していると主張しているに過ぎず、また、添付書類(甲第1ないし第4号証)を見ても、そのような事実を窺うことができないことから、原告らが主張する損害については、客観的に見ても、原告らの推測の域を出るものではないとの評価は免れないものである。

 なお、原告らは、本件契約が違法であると主張するが、「(202の)本数自体の正確性は文書がなく不明であり」、「700本を超える伐採が 行われたと思料され」、「地掃えのための伐採がいつ頃、何本伐採されたかは不明であり、これらがどのように処理されたかも不明である」とか、「(伐採木は)実際には売買されてしまった可能性が十分に存在する」というように不明確であり、また、その可能性を指摘するに過ぎないことを述べているのであって、これらの記載からも、違法な契約であるとの主張は、原告らの推測の域を出るものではないとの評価は免れないものである。

 以上のことから、原告らが主張する本件森林の公益的機能損害は、およそ北海道の財産上の損害とは認められないものであり、また、本件伐採行為により売却価値のある立木が伐採されたとの主張は、原告らの推測の域を出るものではないから、およそ損害とは認められないものである。

 よって、本件監査請求は、明らかに住民監査請求制度に適合しない不適法なものである。

(3)原告らは、本件監査請求について、本件住民監査請求の対象となる財産は、道有林野であり、また、違法な伐採による損害の計算において、北海道の森林全体がもつ公益的価値の評価額「11兆1,300億円が、伐採面積に応じた割合において」損害を受けたものであると主張していることは当然に理解できると主張する(原告ら準備書面(1)10ページ2行目ないし6行目)。

 しかし、前記(2)で述べたとおり、原告らの監査請求において主張する財産上の損害は、法的にはおよそ財産上の損害に該当しないことが明らかであるから、原告らの主張はその前提において理由がない。

(4)次に、原告らは、北海道の庁舎が違法に被壊されたことを事例として、原告らが思いつくとする損害を掲げて、北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)が破壊された場合には、記念物価値あるいは観光的機能の損害も考えられるように、その財産の様々な価値や機能に応じた損害を算定するものであるとし、また、道有林の様々な保全機能や創造機能を挙げて、さらに、林野庁では、大規模林道の費用対効果として森林の様々な機能・便益を金銭的に評価していると主張する(原告ら準備書面(1)11ページ2行目ないし15ページ18行目)。

 しかし、原告らが主張する(思いつく)記念物価値あるいは観光的機能や林野庁における森林の機能・便益については、本件における損害とどのような関係があるのか、また、どのような法的主張の根拠とするのか判然としないものであるが、そのような価値や機能・便益を持ち出して本件における損害の議論をしても、実質的な意味はないというべきである。

 また、原告らは、道有林の様々な保全機能や創造機能を挙げているが、前記(2)で述べたとおり、そのようなものは地方公共団体の「財産」とはいえないし、また、住民監査請求制度により補填すべき損害として予定されているものではない。

 よって、原告らの主張は、失当というはかない。

(5)さらに、原告らは、本件訴え及び17年事件における立木の伐採本数については、被告らが一番曖昧にする点であり、意図的な伐採本数隠しであると主張する(原告ら準備書面(1)19ページ12行目ないし21ページ13行目)。

 しかし、「新4号訴訟は、特定の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の行使を執行機関等に求めるものであるから、当該債権を特定する上で、原告が損害額又は不当利得額を特定することは不可欠である」(地方自治制度研究会編集「改正住民訴訟制度逐条解説」(ぎょうせい)42ページ)とされているところ、両事件においては、損害額の根拠(伐採本数等や算定方法)については、何ら明らかにされていないものである。

 また、原告らは、被告らが脇田宏行及び細越良一に対し、合わせて50万円を請求するよう求めるもののようであるが、その割振りについては何ら明らかにされておらず、このような請求の趣旨が何を意味するのか、また、このような請求の趣旨と両事件における請求の原因とが相互にどのような関係に立つのかも、未だに判然としない状況にある。

 なお、両事件の訴訟物が判然とせず、相互の関係が明らかにされていないことから、被告らにとって、両事件が二重起訴に当たるか否かを検討することも困難なものである。

 つまるところ、4号訴訟を提起し、これを維持する以上、まず、原告らの責任においてこれらの点を明らかにすることが大前提であり、かつ、必要不可欠であるところ、原告らが、伐採本数等は被告らが一番曖昧にする点であり意図的な伐採本数隠しであると主張することは、本末転倒といわざるを得ない。

3 本件監査請求の不受理

(1)原告らは、平成18年3月30日付けで、北海道監査委員に対し、本件 監査請求を行ったが、本件監査請求は、同年4月13日付けで、不受理となっている(甲第5号証)。

 監査請求の不受理とは、監査請求としての法定要件を欠くものとして却下されることと同義であるところ、本件監査請求については、前記2の2)で述べたとおり、客観的に見ても、住民監査請求制度に適合しない不適法なものであり、その判断は、もともと財務に関する事務の執行について監査の職責を有する監査委員にとっては、内容の審理をするまでもなく容易に想到できるものである。

 したがって、北海道監査委員が、本件監査請求を要件を欠く不適法なものと判断したことに何らの違法も認められず、本件監査請求に対する不受理の決定は適法なものであることは明らかである。

(2)原告らは、住民監査請求の制度として「不受理」という手続は定められていなく、本件監査請求を「不受理」としたことは、監査委員が、自らの職責を一方的に放棄した単なる住民監査請求拒否処分である旨主張する(原告ら準備書面(1)4ページ2行目ないし4行目)。

監査の手続については、監査請求があった場合、監査委員は、常に請求を受理しなければならないかどうかということについては、行政実例によれば、請求書に法定の要件に係るような不備な点がある場合は受理すべきでない(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)883ページ)とされている。

 また、措置請求書に不備がある場合であっても補正が可能であれば補正させた上で受理しなければならないが、請求人が補正に応じないとか、補正できない瑕疵があるときは、その請求を却下することになる(園部逸夫編「最新地方自治法講座[4]住民訴訟」(ぎょうせい)44ページ)とされている。

 本件についてみると、本件監査請求は、前記(1)で述べたとおり、明らかに監査請求としての法定要件を欠く不適法なものと判断されたものであり、このような判断は客観的にも是認されるべきものである。

 また、原告らは、北海道監査委員が自らの職責を一方的に放棄している旨主張するが、本件監査請求に対する不受理の判断は、前述のとおり、監査委員にとっては、内容の審理をするまでもなく容易に想到できるものであるから、自らの職責を一方的に放棄したとは到底いえないものである。

 したがって、北海道監査委員が、本件監査請求を監査請求の要件を欠くものとして不適法と判断したことに何らの違法も認められず、したがって、本件監査請求に対する不受理の決定が適法なものであることは客観的にも明らかであるから、原告らの主張は失当というほかない。

 なお、原告らは、本件住民監査請求拒否処分は監査をしないことが明確であるから、法第242条の2第2項第3号の「監査委員が請求した日から60日を経過した」もの、あるいは同項第1号の「監査の結果に不服がある場合」に該当すると考え、本件住民訴訟を提起したと主張する(原告ら準備書面(1)4ページ5行目ないし9行目)。

 原告らの主張の趣旨は判然としないが、前記(1)で述べたとおり、本件監査請求は、北海道監査委員によって適法に不受理とされていることから、本件においては、「監査委員が請求した日から60日を経過しても監査を行わない場合」(法第242条の2第2項第3号)又は「監査委員の監査の結果に不服がある場合」(同項第1号)に当たらないことは明らかである。

(3)次に、原告らは、監査委員の判断は、地掃えによる伐採が、どの程度の被害になるのかを「認定」したうえで「道に損害が発生するものではないから」と結論して「不受理」としたもので、請求の内容について判断を行っていることが明確であり、また、原告らは、日高森づくりセンターからの回答を証拠として提出しているのであるから「推測に基づく」ものではないと主張する(原告ら準備書面(1)17ページ5行目ないし10行目)。

 しかし、前記(1)で述べたとおり、本件監査請求については、内容の審理をするまでもなく、明らかに監査請求としての法定要件を欠くものであるから、原告らの主張はその前提において理由がない。

(4)さらに、原告らは、本件訴訟において、被告らが請求の特定を欠くと主張することは、本件監査結果の不受理の理由にはなっておらず、住民訴訟で追加されたものであるから、違法な主張であると主張する(原告ら準備書面(1)17ページ12行目ないし22行目)。

 しかし、前記1の(1)で述べたとおり、住民監査請求の適格性については、監査請受理の要件にとどまらず、住民訴訟における訴訟要件であって、その存否は裁判所で判断されるものであるから、住民訴訟の段階で被告側の主張(反論)が制約されるものではない。

 したがって、被告らの主張が違法であるとする原告らの主張は失当である。

4 以上のとおり、住民訴訟の提起については、適法な監査請求を経ることころ、訴訟要件となっているところ、本件監査請求は、客観的に見ても住民監査請求制度に適合しない不適法なものであり、その結果として北海道監査委員によって適法に不受理とされている。

 よって、本件訴えは、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものであることは明らかであるから、却下を免れないものである。

 

第3 知事に被告適格がないこと

1 4号訴訟の被告適格

 原告らの請求の趣旨からも明らかなように、本件訴えは、執行機関等が関係職員に対し損害賠償を請求することを求める義務付け訴訟である。

 したがって、本件訴えにおいては、「債権」たる「損害賠償請求権」を管理する権限を有する執行機関等を被告として提起されるべきものである。

 そして、「地方公共団体が有する債権の管理は、普通地方公共団体の長の権限とされていることから(法第240条)、長からその他の職員に権限の委任が行われていない限りは、長が被告となる(中略)また、権限が委任されず、別の者が専決していたにすぎない場合には、本来の権限者が依然として権限を有していることから、その者を被告として訴えを提起することにな」(地方自治制度研究会編集「改正住民訴訟制度逐条解説」(ぎょうせい)43ページ)り、長からその他の職員に債権管理の権限の委任が行われている場合には、委任者たる長は、もはや同権限を有さず、4号住民訴訟の被告適格を失うものである(札幌地方裁判所平成16年11月19日判決参照)。

 このことから、4号訴訟の被告適格で問題となるのは、当該地方公共団体における「債権管理の権限」の所在であって、当該権限が委任されている場合には、権限の分配に変更がなされることになるから、被告適格については、地方公共団体の長ではなく、委任を受けている者のみが有するものである。

2 北海道における債権管理の権限

 北海道においては、「各支庁長」は「部局長」であり、支庁に属する事務に係る「支出負担行為(支出の原因となるべき契約その他の行為)」については、部局長たる支庁長に委任されており(法第153条、財務規則第2条第4号、第12条第1項第3号、別表第1(乙第4号証)、行政組織規則第3章)、また、4号訴訟の被告適格を有するのは、前記1で述べたとおり、債権の管理の権限を有する執行機関等であるところ、北海道においては、支庁に属する事務にかかる債権の管理は、部局長たる支庁長に委任されている(法第153条、財務規則第2条第4号、第12条第1項第12号、別表第1、行政組織規則第3章)。

 北海道における債権管理の権限に関する根拠については上述のとおりであり、また、部局長への委任事項のうち、財務規則第12条第1項第12号では、「債権を管理すること」とされており、その委任の対象となる債権の内容や性質、種類等について、特に限定するような規定も設けていないことから、北海道においては、支庁における支出負担行為に伴い発生する債権管理の権限は、支庁長に委任されていることは明らかである。

 なお、実務上においては、「長から他の職員に(債権管理の)権限が委任されているかどうかについては、通常、各地方公共団体の財務規則等を確認することにより、確認することができるものと思われる」(地方自治制度研究会編集「改正住民訴訟制度逐条解説」(ぎょうせい)43ページ)とされており、「北海道のホームページ」上では、「北海道例規集」を掲載していることから、原告らを含む北海道の住民にとっても、財務規則等を検索し、

債権管理の権限が部局長たる支庁長に委任されていることを容易に確認できるものといえる。

3 本件における被告適格

(1)前記1及び2で述べたとおり、4号訴訟の被告適格において問題となるべきは、債権管理の権限の所在であって、北海道においては、支庁における支出負担行為に伴い発生する債権管理の権限は、支庁長に委任されているところ、本件における契約については、被告日高支庁長がその権限を有するものである。

 このことから、仮に、原告らが主張するような損害賠償債権があるとしても、その債権管理の権限は被告日高支庁長が有していることから、本件においては、委任者たる被告知事に被告適格はないものである。

なお、前掲札幌地裁判決は、本件訴えと同様に、4号訴訟における北海道知事の被告適格について争われた事案であるが、「被告(北海道知事)は、北海道財務規則12条において部局長(道警察本部長及び方面本部長)(同規則2条)に対し、その所掌に属する事務に係る債権の管理等の執行を委任しているのであるから、本件訴訟において原告らが求める元旭川中央警察署長に対する損害賠償請求権を行使する権限は、同規則12条によって、被告から部局長に委任されたというべきであり、そうすると、被告は、もはや上記権限を有しておらず、本件訴訟の被告適格を有しないというべきである」と正当に判示している。

(2)原告らは、被告らからは財務規則を示すだけで、本件における道有林の整備・管理についての具体的な権限の喪失については全く触れられていなく、本件での財務会計行為としての契約は日高支庁長によってなされているものの、道有林の整備・管理に関する権限は、支庁には委任されておらず、その監督、指揮命令は、依然、北海道知事から水産林務部長を経由して日高森づくりセンター所長に及んでおり、契約権限を支庁長に委任したからと言って、全ての権限が支庁長に委任されてはいないことから、その結果、知事は「権限を有しない委任者」にはなっていないと主張する(原告ら準備書面1及び2ページ)。

 しかし、4号訴訟の被告適格で問題となるのは、前述のとおり債権管理の権限の所在であって、仮に、知事が支庁長に対して、道有林の整備・管理に関する指揮監督等の権限を有することがあったとしても、当該権限と支庁長が第三者に対して有する債権管理の権限とは別個のものであることから、指揮監督等の権限の存在をもって、委任者たる知事が、受任機関たる支庁長が第三者に対して有する債権管理の権限を自己の権利として行使することにはならないものである。

 また、原告らが主張する「全ての権限が支庁長に委任されてはいなく、知事は「権限を有しない委任者」にはなっていない」ことの意味するところは判然としないものであるが、そもそも、債権管理の権限とは別の権限を持ち出して、4号訴訟の被告適格に関する議論をしても、全く意味がないというべきである。

 よって、原告らの主張は、独自の解釈又は推論に過ぎないものである。以上のとおり、仮に、原告らが主張するような損害賠償債権があるとしても、その管理の権限は被告日高支庁長に委任されているのであるから、従前から繰り返し主張するとおり被告知事に被告適格がないことは明らかである。

 よって、被告知事を被告とする訴えは不適法であるから、却下を免れないものである。

4 まとめ

 以上述べたとおり、本件訴えは、訴訟要件である適法な監査請求を経ていな

い不適法なものであり、かつ、被告知事に被告適格がないことは明らかである

から、本案審理をするまでもなく、速やかに却下されるべきである。

 

                                 以 上



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