えりもの森 裁判

被告準備書面(1) 25号  5月31日
(次回期日 6月23日)
平成17年(行)第25号 損害賠償請求事件
原 告 (略)
被 告  略)

準  備  書  面 (1)

平成18年5月31日 

札幌地方裁判所民事第5部合議係 御 中

被告北海道知事及び北海道日高支庁長指定代理人
                   (略)



 被告らは、原告らの平成18年4月26日付け準備書面(1)(以下「原告ら準備書面(1)」という。)に対し次のとおり反論するとともに、被告北海道知事(以下「被告知事」という。に被告適格がないことにつき、次のとおり被告らの主張を補充する。
 なお、略語は、本書面において新たに用いるもののほかは、従前の例による。

第1原告ら準備書面(1)に対する反論

 1 1について

  原告らの主張は、最高裁判所平成2年6月5日第3小法廷判決(民集44巻4号71ページ。以下「最高裁平成2年判決」という。)における園部逸夫裁判官の反対意見を根拠として、住民監査請求において、当該行為等について特定がないとして監査請求が却下された場合、その措置を不服として提起された住民訴訟では、監査請求を経ていないと見て却下することは許されなく、この(反対意見の)考えは、一般には多数を占める考えであるとするものである(原告ら準備書面(1)1ページないし3ページ)。
 しかし、最高裁平成2年判決は、住民監査請求が請求の特定を欠く不適法なものとして監査委員により却下されそれに引き続いて提起された住民訴訟において、原審が監査委員の判断と同様の理由でこれを却下した事案につき、最高裁が原審の判断を正当として是認したものであって、いずれにしても適法な監査請求の前置が、住民訴訟における訴訟要件として審理されるべきは当然である。

 また、住民訴訟を提起できるものは、監査請求を経た住民である(園部逸夫編「最新地方自治法講座?住民訴訟」(ぎょうせい)53ページ)が、監査請求の要件を欠いた監査請求の場合は、当該請求は却下され、監査は実施されないから、住民監査請求を経たことにはならず、住民訴訟を提起しても監査請求を前置していないとして訴えは却下される(伴義聖・大塚康男共著「実務住民訴訟」(ぎょうせい)68ページ)とされていることから、実務上においても、最高裁平成2年判決と同様に、適法な監査請求前置が訴訟要件であると解されている。
 これを本件についてみると、本件監査請求は、北海道監査委員によって監査請求の要を欠くものとして後述のとおり適法に不受理とされていることから、それに引き続いて提起された本件訴えは、訴訟要件である適法な監査請求を経ていないことが明らかであり、いずれにしても原告らの主張には理由がない。

2 2について                                  

 原告らは、住民監査請求の制度として「不受理」という手続は定められていなく、本件監査請求を「不受理」としたことは、監査委員が、自らの職責を一方的に放棄した単なる住民監査請求拒否処分である旨主張する(原告ら準備書面(1)4ページ5行目ないし7行目)。

監査の手続については、監査請求があった場合、監査委員は、常に請求を受理しなければならないかどうかということについては、行政実例によれば、請求書に法定の要件に係るような不備な点がある場合は受理すべきでない(松本英昭著「新版逐条地方自治法第1次改訂版」(学陽書房)883ページ)とされている。
 また、措置請求書に不備がある場合であっても補正が可能であれば補正させた上で受理しなければならないが、請求人が補正に応じないとか、補正できない瑕疵があるときは、その請求を却下することになる(園部逸夫編「最新地方自治法講座?住民訴訟」(ぎょうせい)44ページ)とされている。

 本件についてみると、本件監査請求の不受理の理由は、「請求人が主張する森林の持つ公益的機能とは、(中略)およそ地方自治法上、地方公共団体の「財産」とされるものではない。したがって、請求人の主張する森林の公益的機能の損害は、北海道の財産上の損害と認めることはできない。」(甲第12号証)とされているとおり、原告(請求人)らの監査請求において主張する財産上の損害が、法上の財産上の損害に該当しないことを理由とするものであって、かつ、補正の余地は全くないものであるから、明らかに監査請求としての法定要件を欠く不適法なものと判断されたものであり、このような判断は客観的にも是認されるべきものである。

 また、原告らは、北海道監査委員が自らの職責を一方的に放棄している旨主張するが、本件監査請求に対する不受理の判断は、もともと財務に関する事務の執行について監査の職責を有する監査委員にとっては、内容の審理をするまでもなく容易に想到できるものであるから、自らの職責を一方的に放棄したとは到底いえないものである。

 したがって、北海道監査委員が、本件監査請求を監査請求の要件を欠くものとして不適法と判断したことに何らの違法も認められず、したがって、本件監査請求に対する不受理の決定が適法なものであることは客観的にも明らかであるから、原告らの主張は失当というほかない。

 なお、原告らは、本件住民監査請求拒否処分は監査をしないことが明確であるから、法第242条の2第2項第3号の「監査委員が請求した日から60日を経過した」もの、あるいは同項第1号の「監査の結果に不服がある場合」に該当すると考え、本件住民訴訟を提起したと主張する(原告ら準備書面(1)4ページ8行目ないし12行目)。

 原告らの主張の趣旨は判然としないが、前記1で述べたとおり、本件監査請求は、北海道監査委員によって適法に不受理とされていることから、本件においては、「監査委員が請求した日から60日を経過しても監査を行わない場合」(法第242条の2第2項第3号)又は「監査委員の監査の結果に不服がある場合」(同項第1号)に当たらないことは明らかである。

3 3について

 原告らは、最高裁判所平成10年12月18日第3小法廷判決(民集52巻9号2039ページ)及び広島高等裁判所昭和63年4月18日判決(行集39巻3・4号265ページ)をそれぞれ引用し、「監査委員の却下の理由が、形式的に適法な住民監査請求を却下したか、事実上内容に立ち入った上で却下したか、にかかわらず、いずれの場合にも住民訴訟が提起できるものである」と主張する(原告ら準備書面(1)7ページ17行目ないし19行目)。

 しかし、前記1及び2で述べたとおり、本件監査請求については、内容の審理をするまでもなく、監査請求としての法定要件を欠くものであり、かつ、そのことは客観的にも明らかであるから、その結果として適法な監査請求を経ておらず、訴訟要件を欠くことから、本件訴えは不適法というほかない。

 なお、当該最高裁判決及び広島高裁判決は、適法な住民監査請求が不適法であるとして監査委員により却下された事案であり、そもそも本件には適切でない。

4 4について

 原告らは、本件監査請求について、本件住民監査請求の対象となる財産は、道有林野であり、また、違法な伐採あるいは道有林内に違法な集材路が建設されたことによる損害の計算において、北海道の森林全体がもつ公益的価値の評価額「11兆1,300億円が、伐採面積に応じた割合において」損害を受けたものであると主張していることは当然に理解できると主張する(原告ら準備書面(1)7ページ3行目ないし8行目)。

 しかし、前記2で述べたとおり、原告(請求人)らの監査請求において主張する財産上の損害が、法上の財産上の損害に該当しないことが明らかであるから、原告らの主張はその前提において理由がない。

5 5について

 原告らの主張は、第1に、本件監査請求の要件自体にかけるところはなく、仮に監査委員がその内容が不明確であると判断したならば、補正を命じるべきであり、第2に、監査結果の不受理の理由は、3つの契約により「財産上の損害が発生していない」としているので、その内容について判断しているとするものである(原告ら準備書面(1)10ページ12行目以下)。

 しかし、前記1及び2で述べたとおり、本件監査請求については、内容の審理をするまでもなく、明らかに監査請求としての法定要件を欠くものであり、補正の余地は全くないものであるから、原告らの主張には理由がない。

 また、本件監査請求に対する不受理の決定は、監査委員にとって、内容を審理するまでもなく容易に判断できるものであることから、北海道監査委員が、その内容(3つの契約により財産上の損害が発生したか否か)を判断したとする原告らの主張は、独自の解釈又は推論に過ぎない。

6 6について

 原告らの主張は、本件監査請求において、財務会計上の行為として3つの契約を挙げていることから、請求が明確に特定されており、本件訴訟において、被告らが請求の特定を欠くと主張することは、監査結果の不受理の理由にはなっておらず、住民訴訟で追加されたものであるから、違法な主張であるとするものである(原告ら準備書面(1)11ページ以下)。

 しかし、答弁書第2の2の(2)のイで述べたとおり、本件監査請求書(乙第1考証の1及び2)においては、過剰な伐採が行われた可能性を指摘するに過ぎず、かつ、過剰伐採による具体的な財産上の損害は摘示されていないことからも明らかなように、請求の特定を欠いていることは明らかである。

 また、前記1で述べたとおり、住民訴訟の提起につき適法な監査請求を経ることが訴訟要件となっているところ、適法な監査請求を経たというためには、監査請求が法第242条第1項の住民監査請求としての適格性を有したものでなければならないものである。すなわち、住民監査請求の適格性については、監査請求受理の要件にとどまらず、住民訴訟における訴訟要件であって、その存否は裁判所で判断される事柄であるから、住民訴訟の段階で被告側の主張(反論)が制約されるものではない。

 したがって、被告らの主張が違法であるとする原告らの主張は失当である。

7 7について

 以上述べたとおり、本件訴えは、訴訟要件である適法な監査請求を経ていない不適法なものであることは明らかであるから、本案審理をするまでもなく、却下を免れないものである。



第2 被告知事に被告適格がないことについて

 原告らは、被告北海道日高支庁長(以下「被告日高支庁長」という。)は、本件における契約について専決権を有するものであり、知事が日高支庁長に対し、いかなる委任をしているかが不明であるので、職員に対する賠償請求ないし賠償命令の権限を委任した結果として知事の権限がない場合を考慮し、日高支庁長をも被告とする旨主張する(訴状の請求の原因1(3ページ))。

  しかし、北海道においては、支庁に属する事務に係る「支出負担行為(支出の原因となるべき契約その他の行為)」については、部局長たる支庁長に委任されていることから(法第153粂、北海道財務規則(昭和45年北海道規則第30号。以下「財務規則」という。乙第1号証)第2条第4号、第12条第1項第3号、北海道行政組織規則(昭和41年北海道規則第21号。以下「行政組織規則」という。乙第2号証)第3章)、本件における各契約については、被告日高支庁長がその権限を有するものである。

 また、法第242条の2第1項第4号に基づく訴え(以下「4号訴訟」という。)の被告となるのは、答弁書第2の3で述べたとおり、損害賠償等の請求(債権の管埋)の権限を有している者であるところ、北海道においては、当該権限についても、部局長たる支庁長に委任されている(法第153粂、財務規則第2条第4号、第12条第1項第12号、行政組織規則第3章)。

 そして、4号訴訟の被告適格において問題となるべきは、債権管理の権限の所在であって、支庁における支出負担行為に伴い発生する債権管理の権限は、上述のとおり支庁長に委任されているのである。

 したがって、仮に、原告らが主張するような損害賠償債権があるとしても、その管理の権限は日高支庁長に委任されているのであるから、従前から繰り返し主張するとおり被告知事に被告適格がないことは明らかである。

 よって、被告知事を被告とする訴えは不適法であるから、速やかに却下されるべきである。

以上


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