北海道の森林伐採

日本の天然林を救う全国連絡会議 設立趣意書

林野庁による国有天然林破壊の歴史と現状

ー 林野行政の継続は、日本の森を壊滅に導くー

日本の天然林を救う全国連絡会議設立趣意書

日本人は古来自然に対し、深い畏敬の念を抱いてきました。とりわけ森を尊び、
信仰の対象とさえしてきました。「奥山」と呼ばれた森は、神の領域であるとと
もに、稲作の水源として、また自然災害から私たちの命を守るための存在として
大切に守られてきたのです。このことを裏付けるように、1950 年代には、まだ
原生的森林が日本の森林面積の38% を占めていたのです。

しかし、戦後復興期の木材需要をまかなうとして、林野庁がこの「奥山」の森を
「ブナ退治」と称して大規模に伐採し始めたのです。美しい森は急激にその姿を
消し、2002 年には、原生的森林が森林面積の11% にまで減少しました。この残
り少ない天然の森を林野庁は、今もなお伐採し続けているのです。

私たちは、森の破壊をいつまでも続ける林野庁に日本の天然林の保護・保全と、
国民にとって大切な自然に学び、ふれあいの場である森を維持・管理する役割を
これ以上任せるわけにはいきません。

この際、国有林内の天然林をすべて環境省に移管して、その保護・保全を委ねる
よう行政組織の改革を速やかに行うことを国会及び内閣に求めます。

林野庁による伐採行政と改革の失敗

林野庁が1950 年に行った「森林資源の現況」調査によれば、わが国には原
生的森林が953 万ヘクタール( 概ね北海道と長野県を合わせた面積に相当) あ
りました。それが2002 年には278 万ヘクタールにまで激減しています。54 年の
間に、その71% にあたる675 万ヘクタールという大面積が失われたのです。

この主な理由は、林政統一(1947 年) により、国有林を一括管理することに
なった林野庁が、国内の木材需要を満たすため「国有林生産力増強計画」(1958
年) 、「国有林木材増産計画」(1961 年) といった路線を打ち出し、「未開
発林」や「利用不能林」と呼ばれた奥地森林を皆伐して、針葉樹を植林する拡大
造林を全国的に繰り広げたためです。

この計画は、国民の財産である天然林を破壊しただけで、無惨な失敗を遂げまし
た。木材輸入自由化による価格の下落などから大きく目算が外れて、独立採算制
の国有林野事業は膨大な借金を抱え、やりくりのためにさらに大量の伐採をする
という悪循環に陥りました。

財政立て直しのため1978 年には「国有林野事業の改善に関する計画」がつくら
れ、1991 年の第4 次まで改善計画が繰り返されましたが効果は無く、1998 年
には国有林野事業の累計赤字は3 兆8000 億円という厖大な額に達したのです。

「こんどこそは」と、行われたのが「国有林野事業の抜本改革」です。財政面で
は独立採算制をやめて、一般会計からの繰り入れを前提とする特別会計に衣替え
し、借金のうち2 兆8000 億円を一般会計などで処理して軽減を図り、事業の方
針を木材生産重視から環境面など「公益的機能の維持増進を旨とする」と変えた
のです。

「これで天然林を伐り売りすることは無くなった」、と国民の誰しもが思いまし
た。しかし、そうではなかった。なんと、これまで手つかずだった天然林の巨木
を伐採して売り払う行為を、「公益的機能の維持増進」と言い繕っているのです。

いつまで続くのか天然林の破壊= 反省なき林野行政

平成18 年4 月1 日現在、国有林内には天然林は461 万ヘクタール残されてい
ます。林野庁は内規により、原生的森林生態系を有し、貴重な動植物の生息・生
育に適した森林148 万ヘクタールについては原則的に伐採を行わないとして
います。しかし、今もなお、313 万ヘクタールの奥地の天然林においては伐採が
続けられているのです。

日本各地の現場を調査して、初めてその凄まじい実態がわかってきました。伐採
は、ますます奥深い山地の森にまで及んでいます。いずれも、これまで伐採を免
れてきた場所ばかりです。原始の佇まいを今なお残す北海道の中南部、北東部の
十勝、北見地方のエゾマツ、ドドマツ林、針広混交林のカツラ、センノキ、オニ
グルミ、ウダイカンバなどの各種広葉樹や、渡島半島、奥尻島などの北限のブナ
林、青森下北半島のヒバ・ブナ混交林、秋田の天然スギ・ブナ混交林、木曽の天
然ヒノキ、高知の魚梁瀬スギ林など、最後に残った飛び切り美しい日本列島各地
の原生的森林でチェーンソーがうなっています。

「抜本改革」後の5 年間(1999〜2003 年度) の伐採量を見ましょう。広葉樹
はブナ12 万3 千立方メートル、ナラ類( ミズナラ、コナラなど)32 万5
千立方メートル、カツラ4 万3 千立方メートルなどを含め213 万9 千立方
メートルが伐られました。針葉樹では天然秋田スギ3 万7 千立方メートル、木
曽ヒノキ9 万7 千立方メートル、サワラ4 万4 千立方メートルなどが、天然林
で伐採されてしまったのです。

伐採理由は、「老齢木を択伐して森を健全化するため」と、林野庁は科学的根拠
を欠いた説明をしています。伐採によって「公益的機能を増進させているの
だ」、と強弁しているのです。実態は抜き切り( 択伐) とはほど遠く、めぼし
い大木を狙い撃ちに伐っています。北海道渡島半島のブナ林では、なんと直径が
20cm 以下の若木までが伐採されていました。さらに伐採方法が乱暴極まり
ない。重機のための作業道が山肌を削って造られ、伐採木を引きずって運び出す
ので、土壌層はめちゃくちゃに撹乱されているのです。森の再生には、土中の種
子( 埋土種子集団) や土壌動物、枯れ葉を分解する微生物の働きなどが欠かせ
ません。しかし、そうした配慮などまったく見られないのです。

天然林は環境省に移管して守らせる

? 根本的な改革が緊急に必要ですー

たび重なる改革でも、林野庁はみずからその行政を改善出来なかった。さらに、
巨額の税金を投入して行われた抜本改革後に、改革で決められた法のルールに違
反する天然林伐採を続けている。このような林野庁に対しては、国民から“ レッ
ドカード” を突き付けるしかありません。天然林の保護・保全業務からの退場命
令です。林野庁に天然林を任せるわけにはいかないのです。天然林保護行政を根
本から変える以外に、もはや天然林を守る道はないと考えます。

この際、林野庁には天然林から完全に手をひいて貰いましょう。代わりに、環境
省内に「天然林課」を設け、そこに国有林内の天然林をすべて移管して保護、保
全、管理に当たらせる。これが私たちの提案です。

さきに成立した「行政改革推進法」によって林野庁の改組がすでに決まっていま
す。それに沿って林野庁は新たな「独立行政法人・緑資源育成機構( 新称) 」
に移行し、これまでに植林したスギ、ヒノキ、カラマツの人工林を育成し、木材
生産に専念して貰うことが必要です。

天然林は、「生物多様性条約」の締約国としての責任を果たすためにも、環境省
( 天然林課を新設) へ移管して、その保護・保全を確実にするとともに, 自
然学習の場として、また自然との触れ合いの場として持続的に維持していくこと
が最も賢明な施策であり、この国の未来に明るい光を灯すものとなりましょう。
次世代、次々世代のために、これが最もよい解決策であると確信します。

これにより、環境省は、地球規模での環境問題と生物多様性の保護・保全をしっ
かりと視野に入れて、天然林の維持・管理だけでなく、国民にとって等しく自然
に触れ合うことができる場として、その保全に取り組んで貰いたいのです。

天然林461 万ヘクタールを不伐の森に

国有林に現在残されている天然林は461 万ヘクタールしかありません。このなけ
なしの天然林は、決してこれ以上手をつけない「不伐の森」にしなくてはなりま
せん。

それと同時に、伝統的な利用(community forestry) を含めたふれあいの場と
して、自然の摂理を学びながら、かつ持続可能な自然との接点の場として確保す
ることが大切です。国内の世界自然遺産指定地域では「保護」を主目的とし、厳
正な自然環境の維持・管理が行われていますが、一方で登山や渓流釣りなどを通
して自然と触れ合い親しむなかから、自然に学ぶ機会を国民に担保することも非
常に大切なことです。

言うまでもなく、国有林は国民の共有財産です。原生度の高い自然に触れること
によって得ることの出来るひとりひとりの感動と、そこで磨かれる感性こそが、
将来の日本に豊かな森と文化を残す原動力になると信じます。

天然林の環境省移管を国会、内閣に請願します

? 具体的な行動計画?

桁外れの生物多様性に富み、世界に冠たる日本列島の、私たちの大切な財産であ
る天然林を、未来にバトン・タッチすることは、現代に生きる私たちすべての大
きな責務です。

国有林に帰属する天然林461 万ヘクタールすべてを環境省に移管して守ることを
求める請願書を、署名を添えて衆議院議長、参議院議長、内閣総理大臣に提出し
ます。

なにとぞ私たちの趣旨にご賛同いただき、ご協力いただきますよう心からお願い
申し上げます。

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