4.5 いつでも学べる環境づくり [目次へ]


4.5.1 地域の方々との連帯

 このような多様な学習内容を取り入れることを可能にするためには、環境がととのえられなければなりません。

 現在使っている様似町の社会科副読本から初めてアイヌ文化や歴史についての記述が盛り込まれました。中学年の子どもにわかるように上手くまとめられています。誤りや誤解を招く表現が指摘されており、様似の資料を使わず他地域の資料で間に合わせています。発表者であるわたしたちも含め、学校の先生方にはまだまだアイヌについての全般的な知識が不足しています。そのような状況ですから「アイヌのことはよくわからないし、安易に取り扱って変なふうに問題の起こってもこまるしね、詳しく勉強してから考えよう」と思いながら、多くの先生は取り扱うのをためらうことが多かったのではなかろうか。

 学校の先生も一緒に体験しながら学んでいけるような体制ができなければ、この問題に入り込んで行くことはいつまでも難しいままなのではないかと思います。

 様似の場合、地域の郷土史研究会や郷土館とのかかわりではどうしてもカバーできないところが出てきます。

 郷土館へ行けば展示アイヌ民具などの展示がありますが、それは文化と切り放されたいわば「死んだ民具」であり、個々の民具がどのような生活の脈絡の中で使われてきたのかがよくわかりません。残念ながら、アイヌ語の記録ものこっていません。様似町史にアイヌの昔話が収録されていますが、これは日本語で聞き取り収録されたものです。その多くは現北海道ウタリ協会様似支部民族文化保存会部長の熊谷さんのお父さんである岡本総吉さんが日本語で語ったものです。すばらしいアイヌ語の話し手であった熊谷さんのお母さんの岡本ユミさんの昔話の記録は町内に全くと言っていいほど残っていません。

 また、同じ日高でも西のアイヌ文化と東のアイヌ文化では随分違いがあります。日高地方のアイヌ文化は、平取のアイヌ文化研究の蓄積だけでくくれない難しさがあります。

 それでは、どうやって、アイヌ文化について知っていけばよいのでしょう。まず、おぼえておくべき事は、「アイヌ文化は、まだ生きている」ということです。日高のほとんどの地域で、地域のアイヌ文化保存団体が活動しています。そういった生きた文化を伝え続けている団体が主催する文化活動に参画して学んだり、一緒に活動をしながら「学びの共同体」をつくっていくことが大切なのではないでしょうか。なぜなら、そこで活動している人たちも、アイヌ文化を学ぶために活動しているのですから。

 地域に開かれた学校づくりが言われる今日、私たちの、積極的な地域へのアプローチは、アイヌ文化に限らず、考えて行かなくてはいけない課題でもあると思います。


4.5.2  様似での事例(私の場合)
 

 僭越ではありますが、私(小松)自身が、地域とのつながりの中で行ってきた活動について資料としてあげておきたいと思います。

 私の場合、様似にくるまでヨーロッパのアイヌ文献翻訳の仕事程度のことでしかかかわっていませんでしたが、二三年前より様似支部民族文化保存会の一員として本格的に活動に参加させてもらっております。私の活動の一部を紹介します。

・奈良京都で重要無形民俗文化財の舞踊公演

    (協会理事長の野村さん・本部の竹内さん、様似支部)

・イナウづくり講習会参加(講師 細川さん)

・様似町<あやしい理科部会>で口琴づくり実技講習会開催(講師 澤田さん)

・浦河アイヌ語教室1996参加(講師 細川さん、浦川さん、遠山さん)

・様似観音山イッチャルパ参加

   (様似支部、平日年休をとって参加、今年は年休とらずに参加)

・浦河イッチャルパ参加(浦河支部)

・シャクシャインイッチャルパ参加

・アイヌ文化祭 札幌参加出演

・北海道ウタリ協会50周年式典で重要無形民俗文化財の舞踊公演

・様似町での青年の集い参加(参加者はほとんど昔青年だった人けれど・・)

・アイヌ刺繍講習会(講師 本部の竹内夫妻と登別支部の上武さん)

・様似アイヌ語教室1997.01より開始

  (推進役 李澤さん、熊谷さん、わたくし小松

    主に学習材づくりとアイヌ語文法解説を担当)

 

 協会ではその他にもいろいろな勉強会が催されています。

 昨年度から松本先生も北海道ウタリ協会様似支部の文化保存会の一員として古式舞踊・刺繍・アイヌ語などの活動に参加されています。アイヌ文化のさまざまな内容を学習に取り入れていくためには、それを可能にする環境が必要です。とりわけ人的なつながりが重要となってきます。今までの関係から今回の実践が可能になったと考えられます。

 アイヌ文化学習を進めていく上で力になってくれるのが、北海道ウタリ協会などの団体だと思います。北海道の多くの町にはこのような団体があります。地元のアイヌ文化について本格的に知りたい場合、問い合わせてはいかがでしょうか。

 また今年(1997)の春、<アイヌ文化振興法が制定>されて、「財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構」が発足しました。そこの助成事業として文化体験事業など計画されているようです。学校などでの文化体験学習を行う上で、活用できるものだと思います。今後の動きに注目していきたいと思います。

 


引用文献

朝日新聞1997.07

『50年のあゆみ』社団法人北海道ウタリ協会1996

プリント「平成9年アイヌ語教室計画表」浦河アイヌ語教室資料1997



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