4.4 アイヌ文化の学習の広がり [目次へ]

 今回は、アイヌ文化の中でも、ムックリという楽器を取り上げました。子どもたちが、体験的に学習していくためには、大変有効な学習材であったと思います。

 こういったかたちで、アイヌ文化学習を進めていく際に、どのような学習の広がりが考えられるか、各保存会の資料を参考にして、『アイヌ文化の基礎知識』(財団白老民族文化伝承保存会1987)などをもとに考えてみたいと思います。

 

<アイヌ文化学習で考えられるもの>

項 目

むらのしくみ

家族形態やコタンの仕組み

うたとおどり

各種の歌と踊り、その他楽器

ことば

あいさつ、お話など

よそおう

各種の着物、マタンプシなど

たべる

コンブシト、ヤオハウ、ウバユリのでんぷん、チタタ、ラタケプなどの料理

神々と人々

イッチャルパなどの行事、イナウ、サパウンペの道具

えものをとる

狩猟や漁労や採集の技術

すまう

家のつくりなど

人の一生

誕生、結婚、死など

人々のあゆみ

歴史、社会問題

他にも、その地域独特の文化があるものと考えます。

 次に、そういった学習材を使って、実践を行っている地域の例を見てみたいと思います。実践している地域は、たくさんあるようですが、系統だった学習を行っているところは、少ないようです。

 

<札幌市教育委員会教育課程計画案1986> 

札幌市1986

3年 アイヌの人たちの生活の様子    3時間

4年 アイヌの生活と文化        4時間

   オリエンテーション        1時間

5年 アツシ織り            2時間

6年 アイヌの人たちの生活と交易の様子 2時間

 (12時間のうちアイヌ文化 10時間)

 

<高等学校でグループごとにレポートを作成するという実践例>

 

<文化> 芸能、住居、言語、ユーカラ、衣服(布)、

     衣服(刺繍)、食事、信仰(神)、信仰(儀式)

<歴史> 和人との戦争、明治以後の歴史

<現在> 旧土人保護法、差別

 

<千歳市立末広小学校の場合>

 

 千歳市立末広小学校では、学校の研究としてアイヌ文化の学習に取り組んでいる。ここの小学校では生活に近いものから学習計画が工夫されている。

 そこで扱われているものは、アイヌの遊び、歌、踊り、お話、土豆の栽培と収穫と調理、アイヌ語の地名、サケ漁とサケ料理、イナキビの栽培と収穫と調理、シナの木の樹皮からの紐づくり、こざ編み、イナウ削り、サケの皮を素材とした靴づくりなど生活体験学習が中心である。

 6年生では、歴史に関わって、和人とアイヌの交易、差別の実態、旧土人保護法などにふれる。くわしくは資料を参照されたい。

<その他> 

 いくつかの実践を見てきましたが、アイヌ側から見た教育実践の在り方についてこんな意見もあります。は、次のように述べられています。

「たとえば、今のところ全国の学校にアイヌに関する副読本をつくって配布する事も考えられているようですが、それ以上に教育という目的なら社会(地歴・公民)、理科、数学、生活科、美術、体育等総ての教科書や授業の半分はアイヌの事を教えてほしいし、記載があるべきだと思う。また、そうするように要求していいはずです。当然アイヌ語は日本語と並んで公用語とされるべきだし・・・」<チュプチセコルさん(アイヌ史研究家)>

 

 今まで、自分たち民族の言葉を学習する機会さえも奪われてきたことに対する、思いが現れている言葉だと思います。アイヌ文化を地域(北海道)の学習材として取り上げるだけでなく、日本全体の問題であることをもう一度考えてみるべきなのかもしれません。

 


引用文献

『アイヌ文化の基礎知識』(財団白老民族文化伝承保存会1987)

本田(米田)優子「学校教育における「アイヌ文化」の教材化の問題点についてー一九六0年代後半以降の教育実践資料の整理・分析を中心として」『北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要』二号、1997

千歳市立末広小学校の研修資料「アイヌ文化系統学習計画案」<生活科・社会科>


 
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