ディズニーキャラに人生の深淵を見た!


 平成14年5月2日21時8分、酒の勢いを借りて「白雪姫毒リンゴ」を3300円で落札し、私の「熱病」はとりあえずの寛解に入ることができました。フルタ製菓の「チョコエッグ ディズニーキャラクターシリーズ」のパート1パート2がこれで全部集まったのです。この「チョコエッグシリーズ」の人気の秘密は「シークレット」という、なかなか出ないキャラにあります。人間、手に入りにくいものを手に入れようとすると徐々に理性を失っていくもの。つまりこれがこのコレクションを「熱く」している熱源というわけです。
 私は幸運にもパート2のシークレットである「ガラスの靴」を自力でゲットしたのですが、カプセルを開け、それが待ち望んだものであったときの感激というか感動というか、要するにドーパミンの大量放出による脳の急激な興奮状態ですが、これはおそらく「万馬券をとった」(←喩えが偏ってます)くらいのレベルに匹敵すると思います。日々希望と失望の間を浮き沈みしながら成長している子供ならともかく、今日はとてもいい日だった、なぜなら「有名店の生ラーメンが半額になっていた」し、さらに「その差額で有名店のチャーシューも買えた」から、と満面の笑顔でダンナに報告している37才4児の母にはなかなかそんな「非日常的」な喜びは訪れないものです。ですから子供のいない日中、「大人買い」した大量のチョコの包みをニヤニヤしながらひとつひとつ開けていく作業の間、ハタからみたらすげえ不気味な光景ではありますが、私はいつもの居間にいながらにして「別世界」に誘われ、その「魔力」に魅了されていたのだと言えるでしょう。日常の中の非日常。古新聞やレトルトカレーや埃だらけのストーブに囲まれた、自分だけの「お菓子の家」。これぞコレクションの醍醐味なのだと思いました。余談ですが不倫の喜びというのもきっとこの「非日常感」にあるのでしょうね。

 そんなわけでしばらく我が子達は「レディーの手がない」とか「こびとがハゲになってる」とか言いながらかわいらしいキャラクター達を並べて遊んでいましたが、次女がふと「ねえ、この中で誰になりたい?」とみんなに質問したのです。


 うーーーーーーん。「シンデレラー」とか「もとこアリエルー」などと無邪気に即答する子供達のそばで、私はしばし考えました。こいつらの中で、もっとも幸せなのは一体誰か?ハッピーエンドストーリーのあの主人公達は本当に幸せなのか?こう考え出したら面白くて止まらなくなりました。ディズニーさんには申し訳ないですが、美しい夢の裏にある現実に目を向けるのも人間の大切な仕事。そういうわけで主要なキャラについて検証してみました。


001 ミッキーマウス

彼は世界中の幸せの象徴です。しかしだからといって本人が幸せであるとは限りません。どんなシチュエーションでも「いい人(ネズミ)」でなければならない。これは本当に大きなプレッシャーだといいます。変態クラブに来るのは「教師、医者、警察官」が多いといいますが、彼もきっとどこかの変態クラブで変態プレイに興じているはずです。ミニーはそんな彼の裏の顔を知っているのでしょうか?誰か早く教えてやってください。ちなみに私はこいつの「正義!勇気!合衆国万歳!」という風情が嫌いです。

002 プルート

私はコイツを見るたびに両肩ををつかんで揺すりながら問いただしたい衝動にかられます。「アンタ、犬のクセにネズミに飼われてそれでいいの?!」と。しかしま、考えてみれば犬というのはプライドのない動物なんでした。

004 白雪姫

「色の白いは七難隠す」。そのおかげで一見幸せをつかんだかに見えますが、この女がいかに異常な環境で育ったかを考えると、おそらく結婚後ちょっとしたストレス(ダンナの浮気とか)をきっかけにPTSDなどに悩まされるはずです。特に子供が出来ると、継母にいじめられた過去に縛られ我が子をかわいがることができず、また我が子が自分よりも美しい女の子だったりした場合には「虐待の連鎖」により、我が子にも「毒リンゴ」を与えちゃったりという悲惨な事態も考えられます。実の母が実の子に毒を盛る。人の世にこれ以上の不幸があるでしょうか?

006 グランピー

いつも怒っています。絶対に高血圧です。いずれ脳卒中で体が不自由になるはずです。こういう頑固者が寝たきりになると実に困りものですが、「ハイホー、ハイホー」と歌いながら介護してくれる身内が6人もいるのが唯一の救いでしょうか。

007 スニージー

くしゃみばっかりしています。まず間違いなくアレルギー性鼻炎です。マイナスイオンたっぷりのあの環境に住んでいるのにアレルギーということは、アレルゲンは森の中にある、ということです。たぶんキノコの胞子かなんかでしょう。森の中に住んでいる限り治りません。気の毒です。

008 スリーピー

異常な眠気に悩まされています。脳神経系の重大な病気あるいは感染症が疑われますが、あの時代とあの環境では治すことは難しいでしょう。気の毒です。

013 ウェンディー

大きなお屋敷に住むロンドンのお嬢様です。母親に似て容姿にも恵まれていますし頭もよさそうで彼女の人生順風満帆に思えますが、実は両親は犬に子供をまかせて2人で飲みに出かけてしまうような無責任な親です。小さいうちから2人の弟の面倒を見たり、親を気遣ったりする「いい子ちゃん」で育ってきたはずで、その反動のため長じてから「買い物中毒」とか「キッチンドリンカー」などの依存症に陥る可能性が大です。また心の中にピーターパンの面影をずっと持ち続けてしまい、結婚生活でも夫を本当に愛せないような気がして悩むのではないでしょうか?

013 ジョン

頭のいいマセガキです。オックスフォードかケンブリッジに進学します。父親があまり賢そうではないので、おそらくは思春期以降、父親と激しく対立することでしょう。でも男の子はそうやって自立していくのです。がんばれジョン。でも女の子にはモテそうもありません。

015 マイケル

ダサい兄と違い、ブロンドの髪を持つかわいい末っ子です。自分は大事にされて当然である、という末っ子独特の人生観を持ち、揺るぎないプライドと抜群の処世術で幸せな人生を送ることでしょう。

025 ミニーマウス

私はこいつを組み立てているときに何度も「え〜?これでいいの?」と自問しました。だって、パンツ丸見えじゃん。子供らに「いいんだよ、ミニーちゃんはいつもパンツ丸見えなんだよ」と言われ、思わず「はしたない」と言ってしまいました。こいつのもじもじした仕草。男に媚びる目つき。丸見えのパンツ。いくら世界一の人気者の恋人でもこんな女にはなりたくないです。余談ですが、この会話をきっかけに子供達と「ぱん、つー、まる、みえ」をやりました。あの手話(←違う)は昔も今も全く変わっていませんでした。嬉しいことです。

027 ピグレット

彼は臆病で神経質です。自分に自信がなく、それを「ボクは小さいから」とどうしようもない理由のせいにしています。自分のカラを破れず、100エーカーの森という大甘な世界の中ですら自己実現できずにいます。おそらくこの気質は死ぬまで直りません。常にびくびくして暮らす彼は、たとえ限りなく優しい友達に恵まれていても「幸せ」とは言えないと思います。

028 シンデレラ

この人も白雪姫と同じく「色香で男をゲットした」女です。彼女にとっての本当の幸運とは、王子と結婚できたことではなく、あのイヤな継母たちを見返してやれた、というところにあります。そんな彼女は少しくらいの不幸にはへこたれずにプリンセスの座に執着するでしょうが、いやな奴らを意識しつづける人生に「本当の幸福」はあるのでしょうか?いずれ年を取り、容姿も衰えた彼女の胸に絶望的なむなしさが訪れ、その時彼女は自分の人生を変えようと再び魔法使いを呼ぼうとしますが、残念ながらお一人様一回限りとなっております。

004&029 王子

白雪姫とシンデレラの王子です。こいつらは入れ替わってもなんの支障もありませんね。「育ちのいいおぼっちゃん」で人にイジワルなど絶対にせず、「勇気」とか「信頼」とか「愛」などを信じて疑いません。価値観が単純なので美しい女性にはビビビッと一目惚れしてしまいます。ま、でも王子だから幸せなんでしょうけどね。

033 馬車

一介のカボチャが一晩だけでも馬車になれたのですから望外の喜びだったに違いありません。だからといって、コレになりたくはないですな。

034 ピーターパン

私は子供の頃早く大人になりたかったものです。いつまでも子供でいたい、という気持ちも理解できないこともありませんが、大人の方が子供よりずうううううっっっっと自由で楽しいです。彼の場合、大人になって空を飛べなくなることを恐れているのでしょうが、大人になったらなったでいくらでも「飛ぶ」手段があること(ただし合法非合法の“妖精の粉”が必要)を誰か教えてやってください。

035 フック船長

歪んだ形ではありますが、この人は権力と才能に恵まれ、なによりも「追いかけるもの」を持っています。人間にとって「目標」ほど幸せをもたらしてくれるものもないでしょう。片手は鈎でもピアノは上手だし、一流の「野郎ども」にも恵まれているし、ま、男冥利に尽きているのではないでしょうか。

037 クロコダイル

お腹の中の時計がいずれ胃穿孔か腸閉塞、もしくは慢性の金属中毒を彼にもたらすことでしょう。自業自得ですが、彼は自分を不幸だとは思わないはずです。だって爬虫類だし。

044 アリエル

ほんとにもうこいつときたら実に自分勝手で傍若無人で困ったもんです。父親の言いつけをまるで聞いちゃいません。しょっちゅう海の上に顔を出してついに人間と知り合ってしまいます。末っ子なのでやはり甘やかされて育ったのでしょう、周囲は彼女に振り回されっぱなし。「リトルマーメイド」は原作無視のハッピーエンドですが、こんなワガママ娘がそう簡単に幸せになっては子供に示しがつかないじゃないですか、全くもう。


 さて我ながら「余計なお世話だよな」とつぶやきつつ書いてみました。「そして2人は幸せに暮らしました」というエンディングの後を考える。こうしてみるとやはりドラマティックな人生というのは心の平安にはたどり着かないのかもしれません。もちろん、何が幸せかはそれぞれ意見が分かれるところでしょうけれど。最後に「私がなりたいキャラ」を紹介しましょう。

003 ティガー

こいつは間違いなく幸せです。自信過剰のナルシストでマイペースで人の迷惑などまるっきり意に介さずやりたい放題。「俺様はステキだから」と増長に次ぐ増長。現実社会にもたまにこういうヤツがいて嫌われたり笑われたりしますが、なんてったって彼の住んでいるのは 「100エーカーの森」です。誰も彼を嫌ったりはせず、結局許してしまうのです。何をしても拒絶されない世界。これ以上の幸せがあるでしょうか。

 「くまのプーさん」を素材にした哲学本を見かけたことがあります。私は読んではいないのですが、考えれば考えるほど、「くまのプーさん」のお話は幸せへの示唆に満ちていると思います。「100エーカーの森」ではみんながみんなを許し合って生きています。これはまさに人間にとっての理想郷です。キリスト教にはしょっちゅう「許す」という言葉が出てきますし、幸せを実感するためには「許す」ことが鍵のひとつになっていると思いますが、世の中を観察していると他人を、場合によっては自分さえも、「許す」ことが苦手な人が結構います。もちろん、公の場では許されないことも許しちゃいけないことも多くありますが、私的な付き合いではやはり「許し、許される」関係が居心地いいものです。末端部分では相手を批判しても、全体としては許容している。そういう関係が「友達」であり「夫婦」であり「家族」ではないでしょうか。そう、家庭とは家族それぞれにとっての「100エーカーの森」であるべき場所なのです。一家の主婦が二日酔いで朝起きられなくても許しましょう。一家の主婦が日中ずーっと東風荘に繋いでいても許しましょう。一家の主婦が「今度は船舶免許が欲しい」とか言っても許しましょう。それが「家族」というものじゃあないですか。(←もはや屁理屈)

 ところで、「チョコエッグ」シリーズのフィギュアを手がけている「海洋堂」という会社とフルタ製菓との確執が深刻化し、チョコエッグシリーズはこれで販売終了だ、というウワサがあります。まだ「プーさん」も「ドナルドダック」も「タイガーリリー」もないんですけど。本当にこれで終わりだったら、私は一生フルタ製菓を許しません。ええ、絶対に許しませんとも。

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