家庭菜園二重人格ダイアリー


よつあ
1964年生まれの34才 北海道在住の専業主婦
家族:獣医師の夫(33才)と子供4人(麻里藻6才、絵里歌4才、健斗2才、香恋1才)
趣味:ガーデニング、トールペイント、テディベア作り
得意料理:パスタ、マリネ(魚介類)、パウンドケーキ
好きな野球選手:松坂クン、イチローサン
子供の教育方針:自然の中でのびのびと

○月○日
今年も北海道に春がやってきた。今年こそ念願のビニールハウスを建てようと思う。なんだかんだ言っても、北海道はやはり寒い。一旦暖かくなったと思っていても、それからまた霜が降りたりする。ビニールハウスがあれば5月初めまでに苗を植え付けることが出来、その分収穫も早くできる。パパは転勤族なので、毎年「もしかしたら異動があるかも知れない」とビニールハウス作りをためらってきたが、当分転勤はないようなことを言っていたし、ここは思いきりどころだろう。早速資材を買いそろえようと思う。

○月○日
とりあえず骨組みを建ててみた。穴を掘って支柱を立て、そこへアーチを繋ぎ、補強の横棒を金具で留めるだけだ。思ったより時間もかからず簡単だった。なんでも自分でやってみるというのはいいことだ。子供たちもいろんなことに挑戦して欲しいと思う。しかし無理じいは禁物。自分でやりたいと思わせるためには、やはり母親である私が楽しそうに何かをやっているところを見てもらうのが最も効果的だと思う。そう、いつも生き生きと笑顔の母親でいたい。子育て中はついついイライラしてしまうことも多いが、少しずつでもいい、理想に向かって努力しよう。子供の笑顔を糧に。

○月○日
農協に頼んでおいたハウス用のビニールが届いた。お隣の奥さんに手伝っていただき、骨組みに張っていく。あっという間にビニールハウスが完成した。これで野菜やハーブがたくさん作れる。うれしい。子供たちにも収穫の楽しみを存分に味わって欲しい。そして大地と太陽の恵みのおかげで美味しい野菜が出来るということを体験から学んでくれたらこれほどうれしいことはない。

あつよ
1964年生まれの34才 北海道在住の専業主婦
家族:獣医師の夫(33才)と子供4人(恭子6才、浩子4才、哲久2才、素子1才)
趣味:畑、ビール、焼酎
得意料理:焼き魚、納豆(小粒)、生卵の醤油たらし
嫌いな野球選手:新庄、藪、宣、山本昌、ゴメス、古田、前田、他多数
子供の教育方針:自然の中でのびのびと

○月○日
とりあえずハウス完成記念飲み会をする。やはり炭火焼きは美味しい。個人的にビールに最も合うのは塩ホルモンだと思う。夜になって寒くなってきたので日本酒を飲みだしたらあっという間に記憶がとぎれた。久々にゲロ吐いた。肉、もったいなかったな。

○月○日
良い畑を作るには堆肥をたくさん鋤きこんでやるに限る。特にうちの周りは畑に不向きな赤土なので大量の堆肥が必要だ。ダンナは仕事で農家を回っているので機会があったら牛糞堆肥を貰ってきてくれ、と事ある毎に言っているのに貰ってきてくれた試しがない。忙しい中非常に申し訳ないとは思うが、ここは低姿勢で懇願してみるとしよう。

「とうちゃんってさあ、自分の好きなこと(競馬)だとものすごくフットワーク軽いよね〜」
「けどアタシの頼んだことってなかなかしてくれないよね〜」
「頼んでもなんかすげーイヤそうな顔するしね〜」
「全然聞いちゃいねえ時もあるしね〜」
「前から堆肥貰ってきてくれって頼んでるんだけど〜」
「イヤならいいんだけど別に〜」
「けど、本当にとうちゃんって自分のことだと素早いよね〜」
「自分のことはね〜」
「自分のことだけはね〜」

○月○日
パパが堆肥をたくさん貰ってきてくれた。ありがとう。早速畑に撒く。ミミズがたくさん入っていてちょっとびっくりした。しかしミミズは良い畑のしるしだ。このまま居着いてくれるとうれしい。その他、消石灰、草木灰、鶏糞、配合肥料などを混ぜて良く耕す。土作りは最も大切だ。土が良くなければ他に何をしたって野菜はうまく育たない。人間も同じかも知れない。両親がお互いに信頼し合っていない家庭では、いくら熱心に教育したところで子供がまっすぐに育つとは思えない。その点、わが家はオッケーだ。今日だって私のためにこんなにたくさん堆肥を貰ってきてくれた。仕事だって忙しいだろうに。お互いがお互いのことを思いやる、そういう気持が自然に行動にうつせるのは素晴しいことだと思う。それで周りの人達ばかりでなく、自分自身も幸せにしてあげられるのだから。畑が完成した夜、パパにお礼を言う。感謝の気持は相手にきちんと伝える、これはわが家のポリシーだ。ミミズが千匹くらい入っていたのよ、と言ったらパパはうれしそうにいつまでも笑っていた。

○月○日
何を作付けするか考える。まずは絵里歌の大好物のミニトマト。これは毎年作っているから自信がある。それからイチゴ。3年ほど前に一度作ったことがあるが、手間がかかって大変だったため、挫折したままだった。今度こそたくさん殖やして子供達に食べさせてあげたい。さらにブロッコリーにも初挑戦したい。ひと株で10個以上のブロッコリーが収穫できるそうだ。長い間楽しめるのはうれしい。お弁当の彩りにも便利だ。何事もこうして計画を立てている時が一番楽しいのかも知れない。

○月○日
やっぱり枝豆ははずせない。3年ほど前に作ったとき、取れたての枝豆でビールを飲んだっけ。やっぱり豆は取れたてだと全然違うもんね。それからシシトウ。油炒めね。ナンバンも植えよう。北海道でナンバンって呼んでるのは、いわゆるトウガラシのこと。それを青いうちに収穫して食べる。青トウは夏の晩酌のつまみには最高なんだけど、なかなかちょうどいい辛さのやつって売ってないんだよね。辛すぎたり、古かったり。しかも高いし。自分で作れば好みの辛さで取れたてが食べられる。う〜、考えただけで唾液が。あとは定番のミニトマト、青ジソ、パセリってとこか。トマトフェチの浩子がいるから、ミニトマトは2株だな。

○月○日
苗を購入した。ミニトマト2、シシトウ2、ナンバン2、パセリ、ブロッコリー、青ジソ、ジャンボイチゴ各1。枝豆のタネも買った。どうせだから最高に美味しいとされる「黒ダイズ」にしてみた。それから苗が大きくなる前に隙間でラディッシュを作ろう。ひと月くらいで出来ちゃうし。ラディッシュは掘って洗って輪切りにして塩振って、しばらく置いてからぱりぱり食べる。ピリッとした辛みとみずみずしい歯触り。どこかしら土の味がするのが新鮮な証拠だ。ビールだけでなく、あらゆるお酒に合う。こういうシンプルな食べ方はやはり自家製ならではの贅沢なんだよね。

○月○日
植え付け準備を始める。今日は学校も保育所も休みなので子供らには「こっちにくるなよ」ときつく言い渡しておく。ジャマだから。ひとりで黙々と土を耕し、畝を作る。恭子が「手伝おうか?手伝ってあげようか?」と言っていたが、きっぱりと断わる。なんで手伝って欲しくないことに限って異様に手伝いたがるのだろう。いいのいいの、お母さんがやるからキミ達はキミ達で遊びなさいね。そのために大変な思いして4人も産んだんだからね。お母さんはひとりで畑をやりたいんだからね。こっちにこないでね。しっしっ。

○月○日
植え付けてからの成長がびっくりするほど早い。やはりハウスの力なのだろう。雑草取りや水やり、追肥、整枝など、やることは山ほどある。上の3人は及ばずながら力を貸してくれる。はっきり言って健斗はして欲しくないことばかりするが、本人は役に立っているつもりなのだから、ここはぐっとガマン。ありがとう、と言っておこう。なるべく薬は使いたくないので雑草はひたすら手作業で取っていく。狭い畑だがかなり大変だ。化学肥料や農薬を使わない有機農業が盛んだが、農家の人達の苦労はいかばかりだろうか。しかし反面、作物を育てるというのは大きな喜びが伴うものだ。やりがいという点では企業の歯車になるより農業の方がずっと上だろう。こんなに素晴しい仕事なのに後継者がいないというのは残念なことだ。農業がいかに偉大な職業であるかはやはり自分で経験してみない限りわかるものではないだろう。子供達にもどんどん手伝わせて苦労や喜びを分かち合いたいと思う。そうすれば食べ物に感謝する気持も生まれてくるのではないだろうか。

○月○日
今の時期、雑草は取っても取ってもきりが無い。めんどうなので除草剤をびゃーびゃー撒く。いつもなら外に出すとそこらじゅうウロウロしまくる哲ボーがなんかおとなしいな、と思ったらアタシの枝豆畑を荒していた。思わず怒鳴る。畑から手荒に引っぱり出したらすげえ泣いた。入るなよ!と言っておいたのに。柵までしておいたのに。やっぱりサルには通用しなかったか。足跡だらけで種もいくつか掘り返されている。姉貴どもに「ちゃんと哲ボー見ててよ!今日はおやつ無しだからねっっ!」と八つ当たり。あ〜あ〜あ〜あ〜これでちょっと収量が減っちゃったよ〜。アタシのおツマミ。
しかし楽しい。やっぱり農作業は趣味に限る。「農家ごっこ」だから楽しいのであって、これが仕事になったらやっぱりイヤだもん。農家の人には申し訳無いけれどこれが偽らざる本音。もちろん誰かがやらなきゃならないのは承知だが、大体が農家の人からして、自分の子供に「継いでくれ」とは言えない、なんて言うんだからどれだけ大変かは想像がつこうってもんだ。このまま農業人口はどんどん減っていくんだろうなあ。どうなっちゃうのかなあ、ニッポン。

○月○日
ラディッシュ収穫。早速晩酌のつまみにしようとゴシゴシ洗う。そこへ仕事から帰ってきたとうちゃん。手に持ったスーパーの袋になんぞ「上半身が緑で下半身が赤」の野菜が入っている。やな予感、ド的中。山ほどのラディッシュ。めったにラディッシュなんか貰ってこないのに。なして?日頃の行いが悪いから?ビールばっかり飲んでっから?
ま、人生、こんなもんかもしれない。トホホ。貰ってきたほうがりっぱで、美味しかったよ、ぱりぱり、グスン。

○月○日
ミニトマトがピンポン玉くらいの大きさになった。十分大きくなってもう10日くらい経つのに一向に赤くならない。なぜだろう。やはりハウス栽培は何か特別なコツでもあるのだろうか?とりあえず2、3個もいでみよう。もいだら赤くなっていくかもの知れない。
絵里歌は野菜が大好きだ。「これがブロッコリーよ」と教えてあげたらにっこりとうれしそうな笑顔を見せた。麻里藻や健斗と違ってこの子はおとなしい。それぞれの野菜で育て方が異なるように、子供にもそれぞれその子に合った育て方というのがあるのかも知れない。野菜作りも子育ても試行錯誤の連続だがそれで私自身も成長できるのだ。がんばらねば。

○月○日
ここ何日か気にしていたのだが、ブロッコリーの様子がどうも変だ。葉ばかり大きくなって一向に茎が伸びてこない。野菜作りの本で調べると、ブロッコリーは茎がどんどん伸びその先に花をつける、と書いてあった。しかしわが家のブロコッリーはおおきな葉がべたりと地面に広がり、真ん中のほうにも葉っぱばかりがどんどん出てきている。これから茎が伸びいてくるのだろうか、と中心部の丸まった葉をこじ開けて覗いて見る。茎らしきものは見えない。う〜ん、どういうわけだろうか。

○月○日
なんだよこりゃ「キャベツ」じゃねえかよ〜!ちゃんと「ブロッコリー」って書いてある苗をかってきたのによう!ちくしょう!
くやしさのあまりちょっと言葉が荒くなっちまったい!農協に買い物に行ったついでに、「こないだここで『ぶるぉっこりいいぃぃ』って書いてあった苗買ったら、なんかどんどん『キャベツ』になっていくんですけどお」と文句を言ったら、「あははは、あ、そう?ごめんね〜、いや〜、じゃ、そこの花の苗、持ってくかい?」「え?いや〜そんなつもりじゃ・・・いいんですか?すいませんねえ」
ほとんど花の終わった、「どれでも5個で100円」まで値段の下がった花の苗でごまかされて帰ってきた。アタシもまだまだ甘ちゃんだね。

○月○日
青いままもいでおいたミニトマトが、青いまましなびてきた。オールドミスみた〜い!とひと笑い。いや、笑ってる場合じゃないや。他のトマトも相変わらず青いままだし、なんか問題があるんだろうか?周りの人に聞いてみたら、ハウスだと夜も暖かいからじゃないか?というご意見。そうか、夜はハウスをきちんと閉めていたからなあ。今日から開けっぱなしにしといてみるか。
しかしトマトとは逆に「ジャンボイチゴ」はミニマムサイズですでに赤くなろうとしてやがる。ま、肥料が足りなかったんだろうけど、苗のフダにはショッポの箱と一緒にでっかいイチゴが写っていて、これをひと口で頬ばるのをかなり楽しみにしていたんだけどなあ。残念。

○月○日
トマトが赤くなってきた。ハウスを開けておいたせいか、はたまたようやく時期が来たのかは不明。しかし待てば海路の日和あり、だ。やはり何かを育むということはイコール「待つ」ということなのかもしれない。キャ・・・ブロッコリーもりっぱになってきたので収穫して食べることにする。

「はい、お待たせ。ママが作ったブロッコリーよ」
「うわあ、お母さん、『ママ』だって!キモチワリー」
「それにこれ、キャベツじゃん。ブロッコリーじゃないじゃん」
「てっちゃん、キャベツ、やだー」
「あ、てっちゃん、なんか臭い。ウンチしてるみたい!」
「ウンチーウンチー」
「ウンチぶりぶり〜」
「うひゃひゃひゃ、ぶりぶりーだって!」
「きゃははは」
「お母さん、このキャベツ、まずいー!」
「きゃははは」
「きゃははは」
「きゃははは」
「・・・ははは」

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