第2の砦

〜「あの一言」を言わせないために〜

ポイント

さて、ついにあなたは敵と対峙します。敵はようやくあなたと肝心な話が出来ると思っているのでしょうが、そう簡単に「あの一言」を言わせてはなりません。そのために「間」のできない話題が必要です。ここで注意しなければいけないのはその内容です。あまり人生や人間の本質に迫るような話では、若くて無知で軽薄な敵の欠点を浮き彫りにしてしまい、真剣に結婚を反対したくなる恐れがありますので避けなければなりません。基本的に「この結婚に反対ではないが、すんなりと娘をやるのは悔しいのでちょっと嫌がらせをしているだけ」というなさけないスタンスを忘れないように。では、どうすればよいか?簡単です。「チョ〜くだらない話」を「延々と」していればよいのです。そして、合間合間にちくちくとイヤミを折り込んでウサを晴らしてください。楽しそうですね。がんばりましょう。うひゃひゃ。あ、それから、あらかじめ女どもは部屋の外に追い出しておきましょう。「男同士の大事な話」とかなんとかいえば簡単ですね。

エンドレス作戦

父  「いやあ、C男君、今まで諸般の事情でお話しできなくてすまなかったね」
B男 「いや、そんな、とんでもないです」
父  「ふふふ、実ははらわたが煮えくりかえってるんじゃあないのかね?」
B男 「い、いえ、お父さんにはお父さんのご都合がおありでしたし」

しばし沈黙

父  「C男君」
B男 (言いにくそうに)「あの・・・B男です」
父  「あ、こりゃ失敬。人の名前を間違えるとは失礼千万だな、ははは、こりゃまいった」

しばし沈黙

B男 (意を決して)「お、お父さん!!実は・・・」(思いっきり裏声)
父  「ところでB男君」
B男 「は、はいぃ?」(まだ裏声)
父  「君は自分を動物にたとえたら何だと思うかね?」
B男 「は、はあ?」(何かの心理テストか?)
父  「早くしたまえ。いくら君でも言ってる意味ぐらいわかるだろう」
B男 (少しムッとする)「はい、えーと・・・(しばし考え)エト、シマウマ・・・ですかね」
父  「ほう、ライオンの餌だな。群れていて臆病だ」
B男 「はは。そうです。ボク結構臆病なトコあるもんで・・・」
父  「ほおおおお、若いのに謙虚なんだねええ」
B男 「イヤあ・・・」(後頭部を掻く)
父  「では、植物にたとえたら何だね?」
B男 「げっ、植物・・・すか?えーとえーとえーとうーん」
父  「決断が遅いな、君」
B男 (あせって)「エト、さくら・・・かな?へへ」
父  「ほう、一晩でぷわ〜っっ!!と散ってしまうワケだね、ぷわ〜っっ!!と」
B男 「はあ、結構男らしいところもあるってトモダチとかにも言われます」
父  「刹那的だな」
B男 「?」(意味がわからんらしい)
父  「では、食べ物ではどうかね」
B男 (即座に)「牛丼!!・・・です」
父  「して、その心は?」
B男 (うれしそうに)「大好物なんすよ。2日にいっぺんは食ってますね」
父  「ふん、栄養が偏っとるわけだ」
B男 「いや、ちゃんとギョクと漬物も一緒に食ってますから・・・」
父  (聞いてない)「では金属では?」
B男 「金属????はあ、エト」
父  「鉱物でもよろしいぞ」
B男 「好物は牛丼です」
父  「鉱物!!」
B男 (小さな声で)「はあ、ボク文系なもんで・・・よくワカンナイかも」
父  「何か言ったかね」
B男 「いえ!えーと、あ!そうだ、プルトニウム!」
父  「B男君、私は『自分をたとえたら』と聞いておる。君は知っている鉱物をあげただけだろう?それとも何かい?放射能で環境を汚染するあたりが君と同じとでも言うのかね」
B男 「いや、そういうワケじゃ・・・」
父  「ゆっくり考えたまえ。夜は長い」(現在8時45分)
B男 「はい・・・じゃ、エト、銀・・・っつーコトで」
父  「どういう理由で?」
B男 「金じゃちょっとオコガマシイかな、なんて」
父  「二流、ということだね。うん、よおくわかった」(大きくうなずく)
B男 「あ、いや・・・」
父  (かまわず)「では、次。自分を両生類にたとえたら? 」
B男 「ひえええ、あわわ、えーとえとえと、ゲンゴロウッ!!」
父  (鬼の首でも取ったように)「ああ〜ん?」

以下、文房具、魚、家電用品、薬、など延々と続く

犬も食わない作戦

父  (非常に真面目な顔で)「B男君」
B男 「は、はい?」
父  「君は結婚というものをどう考えておるかね」
B男 (ついに来たかと身構える)「はい!僕としてはまず経済的に安定した家庭で夫婦仲良く協力し子供を健全かつ大らかに育てたいと・・・」(棒読み)
父  (人さし指を振りながら)「ちっちっち、甘いぞ、君」
B男 「は、そうでしょうか」
父  「結婚にそんな夢を抱いていると痛い目に遭う」
B男 「はあ、けど僕、結婚とかしたことないですし」
父  「いいか、女ってのは煮ても焼いても食えん恐ろしい生き物なんだぞ」
B男 「はあ」
父  「うちの家内なんか、あんなおとなしそうな顔をしてるくせにえらい強情なんだ」
B男 「あ、言われてみればA子も・・・」
父  (じろっとにらむ)「A子がどうかしたかね」
B男 (あわてて)「あ、いえいえ、なんでもないす」
父  「なんだ、はっきりしたまえ。男らしくない!」
B男 「すみません」(うなだれる)

一瞬の間

父  「パンに塗るマーガリン」
B男 「はあ?」
父  「あれをあいつは横方向に削るようにして使うんだ。上の紙をとっぱらっちまって」
B男 「はあ」
父  「油脂ってのは空気に触れると酸化してまずくなるだろう?」
B男 「そうなんすか?」
父  「そうなんだ。だからマーガリンは上にのってる紙を少しずつ剥がしながら縦方向に切り崩して使うのが正しい!」(ドン!と卓を叩く)
B男 「はあ」
父  「と、私が結婚当初から何万回も説得しておるのにあいつは言うことを聞かん」
B男 「はあ」
父  「そのせいで10年程前からわが家の冷蔵庫には2箱のマーガリンが入っておる」
B男 「?」
父  「家内用と私用を別にしたのだ。マーガリンの蓋を開けるたびにけんかになるのでな」
B男 「・・・はあ」
父  「一時は離婚まで考えたものだよ、君」
B男 「・・・はあ」
父  「それから練り歯磨きのチューブ」
B男 「・・・はあ」
父  (遠い目をして腕を組み)「これも結局10年以上はもめていたかも知らんが・・・」
B男 「・・・はあ」
父  「結局2つ用意することになった」
B男 「・・・はあ」
父  「この時はたしか役所まで離婚届を取りに行ったんじゃなかったかなあ」
B男 「・・・はあ」
父  「それからインスタントコーヒーのビンの口にぺらぺらした紙が張ってあるだろう?」

以下、味噌汁の具、ごはんの水加減、せっけんの使い方など延々と続く

最後の砦へ

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