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女は「妻」になったその日から「母」への階段を上り始めるのです・・・

ステージ1:新婚時代


この時期には、確かに冒頭に書いたような生活も(子供はもちろんいませんが)できるかも知れません。妻の方もはりきってパンなど焼くでしょう。経済的にもまだ余裕があるので身だしなみにも気を遣い、朝起きたらすぐに薄化粧をする時間的な余裕もありますので、女としても魅力的でいられます。この時期を楽しみたいのなら子供をもつのはもう少し後にした方がいいかもしれませんね。長い人生の中で、2度とめぐってこない蜜月の時です。なるべく長い期間楽しむことをお勧めします。いいですか、もう2度と、こんな甘い時はないのです。最初で最後です。なお、この時期をすっとばしていきなりステージ2から入る夫婦も今は多いのですが、それはそれで、またよしという場合がほとんどでしょう。お互いに若い場合は苦労も多いかもしれませんが。

この時期に起こること
*寝不足になる
*妻は心身ともに満たされ美しくなる
*仕事にも張り合いが生まれる
*前途は洋々、という気になる
*幸せに目がくらみ周囲の人に対する思いやりの気持ちが薄れる


ステージ2:第1子妊娠時代(初期)


周りもそろそろ子供をもつ人が増えて来たので、と子供をもうけます。まだ気付いていないでしょうが、今後の生活には大きな変化が待ち受けています。その変化の中にはあなたが、こんなはずでは・・・と思うこともたくさん含まれています。以下をよくお読みになって覚悟なさってください。
まずは妻につわりが訪れます。朝からトイレで「うっっっっお、おげーっっっっっ!びちゃびちゃびちゃ!おっおっえ〜〜〜〜〜!!!」とやられます。朝食の支度は青ざめた顔で寝巻のままひどく嫌そうにやり、合間にまた台所の流しで吐いたりします。ひどい時期には朝、トイレで吐いてから、自分だけ何か食べてまた寝てしまったりします。あなたは仕方なく自分でコーヒーを入れ、パンなど焼いてぼそぼそと食事をします。食後のたばこは換気扇の下かベランダでっっ、と妻にきつく言い渡されます。夜の夫婦生活も体の不調を理由に拒否される日々が続くでしょう。あなたにとっても試練の時期ですが、妻に対する愛情や子供ができたうれしさでなんなく乗り越えていけるでしょう。しかし、つわりが終われば、子供が生まれれば、また妻は元どおり自分の世話をしてくれるに違いない、と思うのは大きな間違いです。これを機に「自分のことは自分でやる」習慣を身に着けましょう。もうあなたの妻は「母への入り口」に足を踏み入れているのですから。

この時期に起こること
*妻は気持ちに余裕がなく、いつもいらいらしている
*妻は外見に気を遣わなくなり、歯もろくに磨かない(つわりのため磨けない)
*食事の支度は自分でやることが増える
*その他の家事もやらざるをえなくなる
*家の中はなんとなく雑然としてくる


ステージ3:第1子妊娠時代(中期)


つわりが去り、妻の気持ちも落ち着きます。食欲も戻り、食事の支度はきちんとできるようになるでしょう。生まれてくる子供に思いをはせ、新婚時代とはまた違った幸せがやってきます。この時期に妻の体は刻一刻と母のそれへと変化していきます。変化が顕著なのはなんといっても胸です。確かに大きくはなるのですが、その外観は「おっぱい」から「乳」へとたくましい変貌を遂げていきます。このメタモルフォシスは男性にとってかなりの衝撃であるようです。「あ〜あ、あんなにかわいいおっぱいだったのに〜」などと思わず本音を口に出して妻にこっぴどく叱られたりもします。忘れないでください。その変化の原因はあなたにあるのです。
そしてなんといっても旺盛な食欲が妻を捉えてしまいます。「ぼりぼりぼりむしゃむしゃむしゃごくごくごっくんげえ〜っぷ」とひっきりなしに食べています。冷蔵庫をしょっちゅう開けます。あなたに隠れてケーキなど食べているかも知れません。つわりのひどかった人は特にその反動でよく食べるようになるといいます。しかし太りすぎは難産や妊娠中毒症など、トラブルの元です。妻のあまりの迫力に後込みせず妻の食欲をやさしくかつ厳しくセーブするのが夫たるものの役目でしょう。「そんなこと言ったって仕方ないじゃない、妊娠してるんだからっっっっ」と目をつり上げた真ん丸な顔でくってかかられても、ひるむことなく冷静に肥満のもたらす危険を説明し、栄養のバランスをとる方が大事だ、とお菓子類を力ずくでもとりあげましょう。大丈夫、妊婦といえども人間です。言葉は通じる・・・はず・・・です?なお、この時期に出る「そんなこと言ったって仕方ないじゃない、○○なんだからっっ」というのは今後たびたび耳にすることがあり、この言葉を出されたらその場は妻の勝ちである、ということを念のために書き添えておきましょう。

この時期に起こること
*妻は太る
*妻は食べる
*妻はえらくでかいパンツをはくようになる
*晩のおかずを一部とられたりする
*どんなにたくましく見えても、妊婦だからいたわれ、と当然のように要求される


ステージ4:第1子妊娠時代(後期)


妻は突き出たお腹でのしのしと歩き、座るときは大きく足を広げて「どっこいしょっ!」と座り、作りのちゃちな椅子をひとつふたつ壊し、恥骨が痛いとか、痔が出たとか、うんこをするときに赤ちゃんが出そうになるけどだいじょうぶかしら、とか体の不調をあからさまに愚痴ったりします。夜中にこむら返りを起こして大騒ぎしたり、ちょっとでもお腹が痛くなると「こ、これが陣痛かしら」とあなたをあわてさせたりします。「カラ陣痛騒ぎ」は初産の場合、かなりの頻度で起きているようです。しかし、あなただけは冷静でいなければなりません。妻の心の中は初めての出産に対する不安でいっぱいです。体も重く、思うように動けないもどかしさがあります。いくら外見が「トド」や「ゾウアザラシ」のようで、暇さえあればゴロゴロしているように見えても、内面は「恐怖にふるえる子猫ちゃん」だと思ってやさしく接しましょう。足の爪を切らされるなど、男として少々屈辱的なことも受け入れなくてはなりません。(物理的に足の爪が切れなくなります)ここはひとつ包容力のあるところを見せてあげましょう。

この時期に起こること
*妻は変り果てた姿になる
*おなかで突き飛ばされ「じゃま!」と言われたりする
*夜中に起こされることもままある
*「パパ」と呼ばれるようになる
*いつの間にか「部屋のそうじと風呂の支度はパパの仕事」になっている


ステージ5:第1子出産


いよいよあなたの妻が「分娩台に羞恥心を置いてくる」時がやってきました。襲い来る陣痛の波に必死で耐えながらあなたの妻は「母」になるための最初で最大の難関をくぐりぬけようとしています。「死ぬ」「腰がくだける」「子供なんかつくるんじゃなかった」「今すぐ切って出して、今すぐ」などの暴言が形相の変わってしまった妻の口から飛び出します。昔は「お産のときに騒ぐのは女の恥」と母親やお姑さんにきつく言われたそうですが、今の女性は耐えることなど知りません。オリの中の熊のように腰やお腹をさすりながらそこら中を歩き回り、「痛い」「苦しい」「つらい」といった意味の言葉をしつこく繰り返すでしょう。普段は頭のいい女傑であっても、この時ばかりは気の立ったメスの動物だと思ってまず間違いありません。噛みつかれないように、めったな事は言わず、だまって妻の腰をさすってあげましょう。この時の妻の目には、あなたは何の役にも立たないでくのぼう、としか写りません。それは仕方のないことでもあります。出産は誰にも頼れない過酷で孤独な戦いです。しかしだからといって、「まだ当分生まれませんよ」との医者の言葉を真に受け、妻のベッドでのんきに仮眠をとったりするのは言語道断です。「あたしがこんなに痛い思いをしているのに・・・」と一生そのことを言われ続けるだけでなく、将来の夫婦げんかの時に必ずその話を持ち出され、そのたびに形勢が不利になります。ここは一緒にがんばるふりだけでもしておきましょう。それがいやなら、あらかじめ付き添い不可の病院を選んでおくことをお勧めします。 不幸にも出産に立ち合わなくてはならなくなったあなたは、あくまで「妻のサポーター」であることを胆に命じ、間違っても一番辛い時期を必死で乗り越えようとしている妻を尻目に、赤ちゃんの出てくるところを腕組みなどして冷静に見物してはいけません。一緒に「ひっひっふー」と呼吸法をやり、過呼吸で気分を悪くするくらいでちょうどいいでしょう。しかしぶったおれるまでやるのはやりすぎです。病院にも迷惑をかけてしまいますから、そのあたりは自分で加減しましょう。 大騒ぎの末、無事赤ちゃんが誕生します。この時、あなたの妻は何とも言えない不思議な感覚にとらわれます。医学的には脳内から「エンドルフィン」なる麻薬物質が分泌されるとのことですが、とにかく「お産の痛みはすぐに忘れる」と言われるのと、この感覚とは無関係ではないはずです。あまりに難産であった人はまた違った感想があると思われますが、産後しばらくは全力を使い果たして、ぽかーんとしている女性も多いはずです。もしあなたの妻が感動して泣きだしたら、一緒に泣いてあげましょう。「ありがとう」「よくがんばった」「ぼくは果報者だ」などと賞賛の言葉を並べましょう。結婚式など足元にもおよばない、2人の人生のクライマックスです。

この時期に起こること
*妻は大偉業を遂げたような達成感を味わう
*自分達は世界で一番幸せだ、と真剣に思う
*妻は産後のハイな状態から急に落ち込んだり、躁鬱が激しい
*妻は赤ん坊に夢中であなたの顔を忘れてしまう(”へのへのもへじ”に見える)
*もうこの時点で「妻」ではなく「母」であるが、あなたはそれに気付かない


ステージ6:子育て戦争開始


初産の後は特にそうですが、一時的に妻は「おかしく」なります。子連れの野生動物が獰猛であるように、あなたの妻も赤ん坊の一挙手一動足、周りの人のなにげない言動などに過敏に反応しひどく神経質な状態になります。それに追い打ちをかけるのが寝不足です。人間の赤ん坊は2、3時間おきに乳をやったり、おむつを替えたりしてやらなければなりません。カンの強い子の場合は1時間おきに泣く、ということもよくあります。乳をやったのにまだ泣いている、ということもあります。妻は朦朧とし、赤ちゃんに泣かれると自分でもどうしていいのかわからず、一緒に泣いてしまうというケースも珍しくありません。一種の極限状態にあるわけです。平均して産後3か月ほどはこういう状態が続きます。割合に情緒が安定していて、しっかりしている、という妻でもいつ爆発するかわからない爆弾をかかえていると思いましょう。決して、会社帰りに一杯やってご機嫌な顔で帰宅する、などということがあってはなりません。休日は朝から趣味の釣りに出かける、などというのも御法度です。3か月の我慢です。同僚や上司に嘲笑されても、仕事以外はひたすら家事育児を手伝いましょう。そうすることで妻の精神状態はかなり安定します。ああ、この人と結婚してよかった、と妻に思わせましょう。そう思わせることが出来れば今後の夫婦関係がずいぶんと良いものになっていくでしょう。そしてなにより大事なのはあなたが「赤ん坊をかわいがる」ということです。これは特別に努力せずともできる場合が多いようですが、できればアメリカ人のようにオーバーアクションでかわいがりましょう。妻はそんなあなたを見て、大変だったけど産んでよかった、と心から思うはずです。 また、母乳が良く出るタイプの妻には、たとえそう思っていても「牛」「ホルスタイン」などの単語を浴びせてはいけません。妻の虫の居所が悪いとしぼりたての母乳を頭からかけられたりする恐れがあります。

この時期に起こること
*妻は目の下にクマを作り、あなたの帰りがちょっとでも遅いとプリプリする
*あなたの目の前で青筋の立った巨大な乳を出してしぼったりする
*赤ん坊に関してすこしでも批判めいた事を言うと猛烈な反論を受ける
*家の中には洗濯物がたくさんほされ、インテリアどころではなくなる
*「パパの仕事」はますます増え、それが当然になる

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